第3章 5話 鷲尾瑞希の休日。
洗濯機を回したことについては、凌は何も言わなくて、私にお礼を言って自分の分だけ持って行った。
理央の作ったミルフィーユ鍋は味付けが凄く美味しくて、任せてよかった、なんて思ってしまった。
そして、みんなで鍋を囲んだあとは、久し振りにリビングで4人でゲームをした。
凌がネットで注文してたやつが今日届いたらしい。
みんなで出来る格闘ゲームだからって、4人でやりたかったらしい。
強い、というか慣れてるのは凌と私と理央。
友乃は、
「ねぇ、何で?これどうやったらいいの?」
弱い、というよりは、ルールとか操作とか、よく分かってないんだと思う。
理央がなんとか教えてくれてやってるようなもの。
「友乃、今。」
「何が?」
「LR押すの。」
「え、今? 何? 何も変わらない。」
「押してる?」
「押してるよ!、…死んだ。」
「友乃、」
「もう、やだ。すぐ死ぬ。」
「まあまあ、次あるから。」
「どうせすぐ死ぬもん。」
友乃が不貞腐れて、持っていたコントローラーを机に置いた。
可愛い。
試合が終わってから、私は友乃に抱きついた。
「何よー。」
「可愛い。友乃、可愛い。」
「可愛くないよ。」
「可愛いよー。」
「そんなんで不貞腐れんなよ。次はもっと強いの使いなよ。」
「だって、操作難しいんでしょ?」
「難しくないよ。僕が教えるから。ほら、友乃。」
理央が友乃にコントローラーを渡して、またゲームが始まる。
私はそのまま友乃の隣でとりあえず凌をボコボコにする。
「友乃、今だよ。」
「何?これ誰?」
「それ、凌。一緒にぶっ飛ばすよ。」
私の合図で友乃がボタンを押すと、凌に大きなダメージが与えられたけど、結局友乃はその後自爆。自ら落ちて行ってまた死んだ。
攻撃しなくても死ぬんだもんな。
「あれ?私いない。」
「友乃、死んだ。」
「え、いつ?」
「さっき。落ちたでしょ?」
「あれダメなの?」
「ダメなの。」
理央が最後の一発を私に食らわせて、凌も一緒に吹っ飛ばされた挙句、ふたりで死んだ。
この回は理央の勝ち。
「理央、どうしてそんなに強いの?」
「これ、高校生の時、凌の家でよくやってた。」
「理央めちゃくちゃ強かったもんな。」
「私の知らない理央。」
「今知れたでしょ。」
理央は友乃の頭を撫でていた。
友乃はそんな理央に向かって頬を膨らませて、また不貞腐れた顔をしていた。
私は呆れた顔で凌を見ると、凌も同じ顔をして私を見て笑った。
このふたりの間に入るには、まだ難しいみたい。
「友乃、もうやめる?」
「うん。電車のやつがいい。」
「あれは時間かかるから、また今度にしよう。」
「凌、瑞希、もう1戦。友乃は隣で僕のこと応援してて。」
友乃の腰の辺りを持って、自分の方に引き寄せた理央。
友乃も大人しくそれに従って、テレビに映し出されている、ゲームの画面を見ていた。
さて、今までは友乃が居たから序盤は手加減戦だったけど、今回は初っ端からぶっ飛ばしていいんだよね。
「今日これで勝った人が、友乃の一緒に寝れるってどう?」
私が提案すると、理央の眉毛が少し動いて、嫌そうな顔をした。
凌は理央をちらっと見て返事に困っていた。
「それ、私の意見は?」
「あるようで無いようなもの。だって、理央ばっかりずるくない?私だって友乃と一緒に寝たいよ。」
「え、友乃、」
理央と凌は驚いた顔をして、友乃の方を見た。
あ、凌は知ってたのか。
凌と理央はふたりでよくどっちかの部屋に居るから、確かに知っててもおかしくはないか。
凌は私の前では知らない振りをしてたのね。
まあ、友乃に言われた秘密なら仕方ないか。
「そんなの、いつだって瑞希となら一緒に寝るよ。」
友乃はふたりの視線を無視して、私に返事をした。
「凌も、友乃と一緒に寝たいの?」
理央は独占欲丸出しで聞いた。
この間凌が悩んでたのはこれのことかな、と、なんとなく分かった気がした。
「とりあえず、やってみる?」
凌は返事をせずにゲームに話を戻した。
多分、これに勝った商品は友乃だ。
こうなると、性格丸出しで戦ってくるふたり。
凌も本当は友乃が好きなんだろうな。
正統派で着実に戦う凌。隙が出た時に攻撃する卑怯な理央。そして私は、とにかく攻める。
「はい、勝った。」
この戦いに制したのは、理央。
結局これじゃあ、いつもと同じ。
「戦わなくても、4人で一緒に寝ればいいだけなのに。」
友乃は呆れた顔で私たちを見ていた。
勝った理央は満足そうで、コントローラーを机の上に置いた。
友乃はそんな理央を見て、さらに呆れた顔をした。
もうゲームは終わりだな。
そう思ってコントローラーを置いてから、キッチンに行ってお湯を沸かした。
すると、その音を聞いた友乃もキッチンに来た。
白湯を飲むのは私たちふたりの習慣だから。
「次は負けない。」
「明日一緒に寝ようか?」
「いいの?」
「だから、もう争奪戦みたいなことしないで。」
「ふふふ。分かった。」
「なんで笑うのよ。」
友乃はカウンター席に座って、また頬を膨らませた。
お酒も飲んでないのに、今日の友乃は可愛いな。
そんな私たちを遠くから見ていた男子ふたり。
次の休みは理央と一緒だ。
理央に怒られそうで怖いな。
そんなことを思いながら、お湯が沸くまで友乃とふたりで話をしていた。
これが私、鷲尾瑞希のとある休日。
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