第2章 5話 棚橋凌の休日。

 洗濯物が終わってから、瑞希を部屋に招いてふたりでゲームをしていた。


 明日は瑞希が休みの日。



「それで、何があったの?」


「何が?」


「何が、じゃないよ。何か無いと、私が帰ってきて早々に抱きついて来ないじゃない。それに、洗濯のことだって。」


「ああ、それね。いいよ、別に。」


「言いたくないの?」


「そういう訳じゃないけど。」


「何それ、面倒臭い。」


「瑞希に言われたくない。」



 コントローラーの音をふたりで響かせながら、話をしているふたりきりの部屋。


 バトルゲームだけど、雑談をする余裕が持てるくらいまでは、ふたりとも上達してしまっていた。



「友乃となんかあった?」


「うーん、」


「理央か。」


「どっちかと言えば。」


「友乃のことで、理央と何かあった。」


「それが正しいかも。」


「友乃、モテるからなぁ。」


「それずっと言ってるけど、多分瑞希の方がモテるぞ。」


「違うよ。友乃は理央と凌にモテるの。私はその他からモテるの。」


「自分がモテることは否定しないんだ。」


「しない。モテるの分かってる。今日もナンパされたし。」


「凄いねぇ。また記録更新。15日目。」



 瑞希は、モテる。これは学生時代から。



 俺もモテた。バレンタインの時の話で分かると思うけど、本当にモテていた。


 瑞希は俺が隣にいつもいたから、あまり告白されていなかっただけで、周りの男子からのいい噂は絶えなかった。


 そして今でも、外に出る度にナンパされている。


 確かに大人っぽさも兼ね揃えた可愛さがあるし、友乃よりも声をかけられ易そうな見た目をしているけど、流石にナンパされすぎだと思う。



「友乃は、愛嬌があるから。私も学生時代から誰にも取られたくなくて溺愛してるんだけどね。私と友乃は似てるけど、友乃は私に足りない可愛さを持ってる。」



 瑞希はゲームの画面を見ながら、友乃のことを話し始めた。


 鷲尾瑞希が思う、松谷友乃のことだ。



「優しいじゃん。でも、私たち友乃に振り回されたりもするんだよ。飴と鞭みたいな。その使い方が上手いの。でもね、友乃も悩んでるんだと思うよ。理央のこと甘やかしすぎだし、凌と理央に甘えすぎだって。結構自己嫌悪になったりするんだよね。それを私に相談してくれるの。可愛いでしょ?」



 区切りのついた所で、瑞希は俺の方を向いて、ニコッと笑った。


 嬉しそうな顔だな。



 確かに、みんな友乃には甘いと思う。


 でもそれは、友乃の人柄で、自然とそういう風になっている。



 俺は嬉しそうに笑った瑞希を見て、笑い返した。



「でも、そんな友乃の姿見てるの、多分私たちだけなんだよ。表ではもっとしっかり者で寡黙さん何だって。前に友乃と同じ職場の人に聞いたことある。」


「何それ、意外。」


「でしょ。だからさ、友乃がモテるのはここだけなんだよ。本当の友乃の可愛いところを知ってるのは私たちだけだから。みんな、誰と付き合いたい?って聞かれたら、友乃、って答えると思うよ。勿論、私も。友乃がいい。凌もそうでしょ?」



 よく分からない質問だったけど、少し考えてみた。


 誰かと付き合う、ね。



 恋人は面倒臭いというレッテルが強く貼られているから、シェアハウスを始めてからは一度も居ない。


 それは理央も同じだと言っていた。でも、理央は友乃がいるから、居なくてもいいんだと思う。



 俺も、そうなのか?



「分からない。」


「そうだと思うよ。だから、仕方ないよ。理央に嫉妬するのも、理央が嫉妬するのも。ふたりとも友乃のこと、好きだし、大事なんだから。」



 瑞希の言ったことにはあまり納得が出来なかったけど、理解したく無かっただけで、理解出来ているのかもしれない。


 でも、今の俺はまだそれを否定したい。



 友乃は好きだ。


 でも、瑞希も同じくらい好きだ。


 ふたりは似てるようで似てなくて、お互い持っていないものを持っているような存在だと思う。それぞれに良さがあるから、優劣は付けられない、というのが俺の思っていること。



「私だって、今日のあの写真はちょっと嫉妬した。私と理央が居ない間にあんな楽しそうなことして、ずるいよ。」



 瑞希は寂しそうに笑って、また敵を倒していた。俺はその後ろに付いて、後処理をするだけ。



「どっちに嫉妬した?」


「ふたりとも。私の友乃取らないで、って気持ちと、私の凌取らないで、って気持ちと、理央怒るだろうな、って気持ちと。それから、楽しそうでいいな、って気持ち。」


「そっか。」


「凌が撮った友乃、凄い可愛かった。だけど、理央が撮る友乃とは全然違うね。」



 理央は写真が好きだ。


 休日は写真を撮りに外に出かけることが多いし、友乃と一緒の時は、友乃をモデルにして撮ることが多い。



 理央の撮る友乃は凄く可愛い。


 理央が友乃に対して持っている感情が表されてるみたい。



「私たち、やっぱり理央には勝てないんだよ。」



 瑞希がこのステージの最後をクリアさせた。


 今日は話しながらもかなり集中してふたりともやっていたな。



 理央には勝てない。


 勝ちたい、とかそういう風には思っていないけど、同じくらいのところまでは行きたい。


 それが、多分本音。



「次、どこのステージにする?」


「瑞希の好きなところでいいよ。」



 瑞希が次のステージをを選んでいる時、俺のスマホに通知が来た。


 友乃から、今日はありがとう、って。


 俺は少しニヤけてしまった。



「友乃も大変なんだな。」


「何が?」


「我儘末っ子の、ご機嫌取り。」


「確かに。」



 その後は、ふたりで納得のいくまでゲームに没頭して、そのまま俺の部屋で寝落ちしてしまった。





 これが俺、棚橋凌のとある休日。

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