第2章 3話 棚橋凌の休日。
瑞希が見たかったのは青春友情物の洋画で、2本目に突入した時には、理央と瑞希は既に寝落ちしていた。
結局、気が付いた時には友乃の部屋で4人で眠っていたのだ。
目が覚めてから、足の方に違和感を感じてすぐに体を起こした。
眠い目を擦りながら周りを見回すと、もう理央と瑞希の姿は無くて、時計は昼の12時半を示していた。
そして足の方に感じた違和感は、右側の太ももの辺りに友乃の頭があった。
完全に布団からは外れた所なのに、俺にも友乃にも掛け布団が掛けてあって、多分これは理央か瑞希が掛けてくれたんだろうな、と思った。
昨日は2本目の途中で友乃が寝落ちした。そして、その後すぐに俺も寝落ちした。
恐らく友乃は、寝てる間に俺の太ももという枕を見つけて、この状態が出来上がったんだと思う。
俺は、友乃の頭を撫でてから、動かせない足をそのままに、座ってぼーっとしていた。
朝は弱い。
これは友乃も同じだと思う。
だから、まだ眠っていても文句は言えない。俺も同じようなものだから。
暫くして、友乃が寝返りを打つと同時に、小さな声を上げて、少し目を開けた。
「凌?」
「ん? 起きた?」
「起きてない。」
「そか。でも、布団で寝たら?」
「んー、」
友乃は寝ぼけたまま、また目を閉じた。
俺は、わざと友乃の頭が乗っている太ももを揺らした。すると、友乃は顔を顰めて体を起こした。
「俺の太もも使って寝てたよ。」
「ん? あ、あ。ごめんね。」
寝ぼけながら返事をして、座ったままぼーっとしている友乃。
俺は友乃の向かいに座って、頭を撫でた。自分も眠いけど、多分友乃には勝てない。
「ご飯食べる?」
「まだいい。」
「もう昼過ぎてるよ。」
「うーん、そうなの?」
「うん。」
「食べない。」
「我儘。」
「んふふ。」
友乃は変な笑い方をして、俺の方に倒れてきた。
「うわっ、重いよ。」
「私、女の子。」
「でも、重い。」
「凌は優しくないなぁ。」
そう言って、また俺の足に頭を置いて、そのまま体を寝かせた。寝る体勢に入ったよ。
普段理央との休日はどうしているのか知りたいくらい。
俺は俺が休日の日しか知らないから、こんな友乃の姿しか知らないのだ。
理央の前でもこんなにだらけてたら、ふたりともダラダラの休日を送っていそうだから、不思議なのだ。
「今日どうする?」
「どうせゲームでしょ。」
「このまま映画ってのもありだと思ってる。」
「昨日の続き?」
「うん。どう?」
「いいと思う。」
「じゃあ、朝ご飯。」
「好きなものを好きなだけ食べたいわ。」
俺の足元で、お嬢様みたいな口調の言葉が聞こえた。
俺が友乃の頭を撫でると、友乃は満足そうな顔をして、また変な笑い方で笑った。
好きなものを好きなだけ、ね。
どうせお腹いっぱい食べたら、お腹下す癖に。
「仰せのままに。」
「凌のそういうところ、好きだよ。」
「俺は友乃のそういうところ面倒臭いと思ってるよ。」
「面倒臭いのは、みんなお愛顧だから。」
友乃が起き上がって、俺の事を抱きしめる。
今日は機嫌がいいな。
昨日の夜、久々に瑞希の声掛けで4人集まって映画を見たし、雑魚寝したし、学生に戻ったみたいで楽しかった。
友乃も、それが嬉しかったのかもしれない。
4人で遊びたい、ってよく言ってるもんな。
俺は、抱き着かれている友乃の背中をポンッと優しく叩いて、声を掛けた。
「さて、家にあるもので友乃の好物を沢山作らないと。」
これは、起きるぞ、という、自分への気合い入れでもある。
友乃も俺から離れて伸びをしてから、よし、と言った。
これも多分、友乃なりの気合い入れだと思う。
ふたりで部屋を出て、リビングに向かった。
友乃の好きなもの、か。
俺はキッチンに立って、冷蔵庫を開いたり、冷凍庫を開いたり、レトルトが入ってる棚を開いたりして、家にあるものを確認していた。
友乃の好きなもの、いくつかは作れそう。
手際は悪いし、作るのも遅いと思うけど、やってみるか。
友乃はリビングのテレビをつけて、ソファーにもたれかかっていた。
「友乃、着替えておいで。」
「何で?」
「今日は、友乃様、でしょ。」
「お嬢様にしてくれるの?」
「俺はお嬢様のためにご飯を作ります。それから、お嬢様と一緒に映画を見ながらそれを食べます。」
「んふふ、」
また、その笑い方。
その変な笑い方は、多分嬉しい時に出るやつなんだろうな。
友乃はテレビを消して、リビングを出て行った。
恐らく、化粧までちゃんとするだろうな。
今日は友乃のお遊戯に付き合うって決めたのだ。
各場所から、友乃の好きなものを出して、料理を始めた。
「友乃、出来たよ。」
出来上がったものをお盆に乗せて、友乃の部屋をノックした。
少ししてから、友乃が部屋から出てきて、俺が持っている料理たちを見て目をキラキラさせた。
やっぱりメイクもしてるし、いつも着ないような可愛らしいワンピースを着ていた。
多分これは、買ったけど外に着ていくには恥ずかしいと後で気がついた、だけど可愛いから捨てられないワンピースだと思う。
「凌って本当に最高。」
「ありがとう。これは1便。まだ2便目がある。」
そういうと、また目をキラキラさせた。
友乃は俺からお盆を受け取って、自分の部屋のテーブルの上に置いた。
俺はもう1便をキッチンに取りに行く。
友乃があんなに喜んでくれるなら、作ってよかったな、と思う。
絶対食べきれないことは分かってるけど。
2便目も友乃の部屋まで運んで、全部の料理を机の上に並べると、机いっぱいに友乃の好物が並んだ。
「凌も着替えてきなよ。今日はお嬢様とその幼馴染の休日にしてあげるから。」
執事じゃないんだ。
そんなことを思いながら、俺は自分の部屋に戻って、友乃の着ていた服と隣に並んで合いそうな服を探して着替えた。
執事って言われたら、スーツ着るしか無かったけど、幼馴染だった、少しラフでいいよね。
部屋を出てから、洗面台で髪型を少し整えてから、友乃の部屋に戻った。
友乃は俺を見るなり笑顔になって、早く、と急かした。
「じゃあ、まずは写真撮って。」
「俺が?」
「だって、今日の私はお嬢様なんでしょ?私のための料理なんだよ?」
「そうだね。はい、貸して。」
友乃からスマホを受け取って、カメラを起動すると画面に映ったのは、俺が作った料理と嬉しそうな笑顔の友乃。
なんかもう、そんな笑顔向けられたら、俺なんでも許すわ。
「はい、撮ったよ。」
「じゃあ、次は幼馴染と2ショット。はい、こっち来て。」
友乃は自分の左側を空けて、ポンポンッと叩いた。
俺は、言われるがままに友乃の左側に座った。
インカメラにして、友乃と俺と料理が映る。
シャッターを切ると、友乃が満足そうな顔をした。
「さあ、食べよう。凌に感謝して。いただきます。」
俺はスマホを置いてから、友乃が最初のひと口を食べるのを見ていた。
なんか緊張するんだよな。それは間違いなく、友乃がハードルを上げたからだと思う。
ひと口食べて、暫くしてから笑顔になる友乃。
「もー、美味しー。最高すぎるよー。」
溶けそうな顔で、声で、喜ぶ友乃。
ここでやっと、作ってよかったな、と思った。まずいって言われたらどうしようかと思っていた。
その後は、友乃と一緒に俺の作った料理を食べて、その様子を友乃が写真を撮ったり、俺が撮ったり、2ショットを撮ったり。お嬢様と幼馴染の休日ごっこをして過ごした。
これで合ってるのかは分からないけど、友乃が満足そうに横で俺にもたれかかっているから、それでいいんだと思う。
「お腹いっぱい。」
勿論、全部は食べきれなかった。
俺は、皿一つ一つにラップをかけていく。
その間友乃は俺の背中にもたれかかって、またあの変な笑い方で笑っていた。
「お嬢様、喜んで頂けました?」
「んふふ。」
笑うだけで返事をしないのは、4人ともやるけど、友乃の場合は他の人よりも分かりやすいくらいの笑い方で笑ってくれるから、顔を見なくても分かる。
恐らく、喜んで貰えてる。
ラップをかけ終わってから、全部お盆に乗せた。夜ご飯に少し回すかな。
時計を見ると、16時。
こんなに時間が経ってたのか。
「映画見る?」
「うん。」
「じゃあ、これ置いて来るついでに飲み物持ってくるよ。」
「紅茶がいい。」
「分かった。」
友乃の部屋を出て、キッチンに向かう。
いつもの休日だったら、俺の我儘で一日中ゲームに付き合ってもらっているから、たまには友乃に振り回されるのもいいかな、なんて思っていた。
キッチンでお湯を沸かしながら、冷蔵庫に食べきれなかった分を入れていく。
ふと、友乃の笑顔を思い出して口元が緩んだ。
俺も理央も、友乃と瑞希には甘いんだと思う。だから、ふたりが喜んでくれれば、それが一番嬉しい。
紅茶が入った友乃のマグカップと、コーヒーが入った俺のマグカップを持って、友乃の部屋に戻った。
友乃はさっきと同じ、左側を空けておいてくれて、俺はそこに座った。
何も言わずに友乃が昨日の映画の続きを再生した。
スマホの通知を確認すると、4人のグループチャットに、俺と友乃のさっき撮った写真が何枚か送られていた。
「理央が悲しむぞ。」
「今日は凌と過ごす日だからなんと思われようといいの。」
「そっか。」
スマホの画面を落としてから、映画の続きに目を移した。
それで、それからは。
多分、うん。
記憶に無いから、また眠ってしまったんだと思う。
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