第5話 アスターロック


 「…きたか。」


俺の目の前に砂埃を巻き上げながら息一つ切らさず降り立った少年。

 こいつは才能なし。と、判定された無能な少年。


 「…こいつが無能なら誰が有能かわかんねぇな、、。」


ついそうぼやいてしまうほど目の前の少年は、俺にとって逸材にしか映らなかった。


 「俺の最後にふさわしい。そう、思わねえか?ブルボン。」


俺は、誰にも聞こえない声でそう呟くのだった。



ーーーー




 「お師匠!ただいま戻りました!」


 俺は朝の日課を終え、ふらふらになったフランを担ぎ全速力で帰還した。


 ここ、アスターロックは馬車で移動中の俺たちを襲った奴らのアジト、、いや、まるで都市と言わざるをおえない程の広さの街だった。


 その中にある巨大な建物。上を見上げると首が痛くなる程の高さを誇るここはアスタータワー。今俺たちはここアスタータワーにて暮らしていた。


 「ヴァン、フラン、戻りが遅い。日課をやるなら遅れずにとあれほど言ったはずだろう。。」


 そう言って呆れ顔を見せるのは、あの襲撃で兄貴と言われていた人物。スカー。


 スカーはここアスタータワーでもかなりの身分らしく、すれ違うたび研究員やら職員などから会釈をされていた。


 「申し訳ありません。僕がフランを日課に連れてったことが原因です。罰なら僕に。」


 「ヴァ、ヴァン!あれは僕が、、」


 「はあ、もういい。他の奴らも待っている。早く訓練場へ向かえ。10分後には訓練が始まる。」


 「わかりました。この度は申し訳ありませんでした。以後気をつけます。ほら、フランも頭を下げて」


 「も、申し訳ありませんでした!!」


 「…訓練に遅れるなよ。」



 そう言ってスカーはタワーに戻っていく。


 「なんだかんだ、スカーって甘いよなー。優しい、といえばいいのかもだけど。見た目もまだ若いしイケメンだし、あれは女にモテそうだよ。それに魔法の才能、剣の才能、武闘の才能まで。天は二物を与えず、とはいうけど、あの人は3も4も貰ってるじゃないか。。世の中ってなんて不幸。。」


 「じーーーーー。。。」


 「な、なんだよフラン、、」


 「ヴァンがそういうこと言っちゃうのかなー、と思って。まあ、そういう人だもんねヴァンは!」


 やけにじーっとジト目で見られたと思ったら急にニコニコと。。ま、見てて飽きないやつだけど。


 「ほら、またスカーにどやされる前に訓練場に向かうぞ!訓練場まで競走だ!!いくぞフラン!」


 「あ!!ま、待ってよー!強化魔法は禁止ー!!!!」



 フランの叫び声が一杯に響いた。



ーーーー


 あの日、俺たちは盗賊に襲われたことになっている。しかし馬車の御者や、その他の大人は皆そこに取り残され、物も馬車も無傷。唯一俺たち子供だけが連れ去られた。


 そこからこの事件は全国に広まり、子供達の捜索が行われていた。


 しかし、その襲撃の際にいた人物は二人、どうやって10人もの子供たちを無傷で連れ去ったのか、それこそ超高位魔法の空間転移以外考えられず、危険度が高いとされていた。


 それのせいか、この捜索自体の依頼はランクSからになっている。


 全体のSランク以上の人数は1割ほど。それも戦闘に特化した人物や貴族などが半分を占めているせいで、なかなか捜索が進まなかった。


 もちろん、そういった捜索が得意な連中も居ただろうが、たかが10人の捜索にそこまでの依頼料が出せず、動けない状況にいた。


 そういった要因が重なり、次第に親族や関係者以外からの記憶からは薄れさられた。

 依頼の掲示板にも端に追いやられるほどになっていき、2年の月日が経過することになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る