第2話 失意の後の戦い
翌日の午後、私は衛星軌道上を航行している巡洋艦ラバウルへと着任した。
その時、嫌な報告を聞いた。花宮中尉が事故ったと。
ランス搭乗員となって初参加した作戦。初回は必ずバックアップだと聞いていた。しかし、機器のトラブルが発生する可能性は常にある。今回はメインの方にトラブルが発生し、バックアップのあいつが発進した。
小惑星の破壊には成功したものの、あいつの意識は12時間経過しても戻らない。
ランスは秒速500キロメートルまで加速する。この強大な加速度に生身の肉体は耐えられない。そこで義体に精神移植を施し、ランスには義体で搭乗する。
しかし、この義体が曲者なのだ。
義体で小惑星に突入しても、破壊されるのは義体のみ。霊体、即ち魂は肉体へと戻っくるはずなのだが、戻ってこない事故が何度も発生した。
統計的には数パーセントの確率で事故が起こった。その数パーセントがあいつの身に降りかかるなんて思ってもみなかった。
前方に光が弾ける。
先行するハドロン改が背負っている大型の推進器が被弾した。
「シロ01被弾。推進器をパージ。当機は離脱する。アオ01。俺のポジションにつけ」
「了解」
アオ
新型トリプルD、ハドロン改のコードがシロ。現行型トリプルDバリオンのコードがアオ。何の事は無い機体色をそのままコードネームにしただけなのだが、隊長の斉藤大尉はいつもこうなのだ。今回、私はバリオン隊の小隊長を務めていた。
小惑星破壊作戦の英雄、秋山辰彦。ランスによる特攻作戦を二十一回も成功させた。その彼は、何故だかテロリストに命を狙われている。詳しい事情は、下っ端の私にはまったくわからない。今回、その彼を囮に使って、テロリストの戦力を引き付けた上で殲滅する作戦が発動した。
小惑星破壊用として、艦首に巨大な掘削機を据え付けた改造艦ゲイ・ボルグに秋山大尉が乗艦している。私たちトリプルDパイロットの仕事は、そのゲイ・ボルグの護衛だった。
斉藤大尉のポジション。すなわち、ゲイ・ボルグに先行して索敵し、先制攻撃を仕掛ける役目だ。
私はプラズマロケットを吹かしてゲイ・ボルグの前方へと進出する。斉藤大尉の機体は、ゲイ・ボルグの前方からの射撃により損傷した。前方に何かいるはずなのだが、レーダーは何も捉えていない。
それなのに、ゲイ・ボルグは対艦ミサイルを発射した。
6本の大型ミサイルが前方の空間に飲み込まれ、そして爆発した。その衝撃波でシールドが壊れたのか、三隻の艦影が浮かび上がる。護衛の駆逐艦、クーフーリンからレーザービームが放たれ、一隻の小型艦が爆沈した。私はもう一隻の小型艦に向け、ビーム砲の全力射撃を開始した。私と僚機の放ったビームはその小型艦に吸い込まれ、艦体に幾つも大穴を穿つ。
残りは中央にいる大型艦。
その大型艦と対峙すべく、後方に控えていた巡洋艦ラバウルが加速しつつ、ゲイ・ボルグを追い越していく。しかし、後方からの砲撃を受けラバウルの推進器は破壊されてしまった。
「アオ01、綿貫中尉。ラバウルの支援に回れ。後方に潜む敵艦を見つけろ」
「了解」
衛星軌道上での戦闘。しかし敵の艦影は確認できない。
現代では、電磁波シールドを展開する事により全ての電磁波を遮断できるからだ。その電磁波シールドを破る必要がある。
不意に、私は二機の人型機動兵に挟まれてしまった。識別はアンノウン。しかし、敵のトリプルDである事には間違いない。
幸い、機動性では当方のバリオンが優れていた。一旦距離を取り、アンノウンを撃ち抜く。もう一機に照準を合わせた時点で、背から機体を撃ち抜かれた。電磁波シールドの中に、もう一機隠れていたのだ。
背負っている推進器をパージした。しかし、推進器は爆発し、その破片が幾つも機体に突き刺さる。コクピット周辺にも何発か命中し、メインモニターがブラックアウトする。そして、コクピット内の空気が一気に抜けてしまった。
「こちらアオ01。推進器に被弾、推進器をパージした。繰り返す……」
私は焦って現状を報告するものの、何も返答はない。
機能が全停止してしまったので、酸素の残量、機体の位置や速度、軌道も何もわからない。通常はバックアップが働き、最小限の通信や位置測定機能が確保できるはずなのだが、それも一緒に死んでしまったようだ。
ついてない。このまま大気圏に突入するのか。それとも地球圏から飛び出してしまうのか。それすらわからない。宇宙服の酸素残量は約一時間。機体の方にどれだけ残っているのかもわからない。
『貴方が私の光になる
煌めく光の中に、二人の未来が見える
それは永遠に続く、愛の調べ』
私はあの歌を口ずさんでいた。
あいつが大好きだったアニメ映画のエンディングテーマ。
『そして私とあなたは一つになる』
涙が出て来た。
この歌は、ハッピーエンドなんだ。
盲目の少女が、幼馴染の男の子と想いを遂げるストーリー。
自分も、こんな風に誰かと添い遂げたい。心の底からそう思った。
でも、それは無理かもしれない。
機体の酸素が尽きる前に救助されるとは限らないからだ。
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