第26話 突破!その参
ビャッコの隊は森の茂みに身を潜めていた。
領事館への攻撃が成功したとオロチ隊とイッコ隊から無線で連絡が入った。
間もなく、領事達がこの抜け道の出口から逃げ出してくるはずだ。
「準備はいいか?」
「はい。大丈夫です。」
いつ来ても万全な態勢のはずであった。
ドザザザザー!
ギャアーーン
バサバサバサバサ
しかし、物語は平凡には流れない。
突如、緊張の静寂を破る出来事が起こった。
狂暴なゴロナザウルスが現れたのである。
体長は約5メートル、巨大な顎を持つ肉食の獣脚類の一種である。
どうやら人の気配を感じてやって来たようだ。
「くそ!こんな時に!」
ビャッコの隊は撤退を余儀なくされた。しかし、ここを離れる事は敵を逃がすことを意味している。ビャッコは大いに悩んだ。
「みなさん!一ヶ所に集まって下さい!」
突如、声をあげたのはラクシュであった。
「風の精霊たちよ。私を守りたまえ!」
詠唱が終わると半透明のドーム型の防御幕がラクシュの周りを覆った。
「よし!皆、ラクシュのドームへ逃げ込め!」
ビャッコが無線で号令をだす。
「僕が囮になります!ビャッコさんは領事が出てきたら迎え撃って下さい。」
天はそう言うとゴロナザウルスに向かって走り出した。
地獄で修行を終えた天の肉体は恐ろしく鍛えられていた。時速30km程度で走るゴロナザウルスなどに捕まる訳はなかった。
ビャッコは逃走路の出口で領事が逃げだしてくるのを待った。
何か音が聞こえる。
ー 来た!
ヴゥーーン
モーター音である。
「しまった!!」
ビャッコは誤算していた。
まさか、この狭い逃走路をモーターカー等の類で移動するとは思いもよらなかったのである。
ーこのままでは逃げられる!
ビャッコは焦っていた。
とうとう領事は出口から出てきた。
原動つきバイクほどの大きさのホバーバイクにまたがっている。透明のカウルが装備されており正面と天井、両側面は守られている。
5人ほどのボディーガードが同様のホバーバイクに乗って護衛にあたっていた。
「うおあああっ!」
とっさにビャッコは領事の乗るマシンへ横から飛び移った。
「!」
「暴漢だ!」
護衛がビャッコめがけてレーザーガンを撃ち放つ。
ビャッコは対レーザーのブルゾンを身に付けているとはいえ、この至近距離では危険だ。
領事もなんとか振り落とそうと機体を左右に降る。
レーザーガンが防護の無い肩へ当たった。
「うっ!」
たまらず、手をはなしてしまった。
「くそ!」
最後の力で護衛のホバーバイクに体当たりをした。
護衛の2台を捲き込み森の中へ消えた。
「領事!お怪我は無いですか?」
「大丈夫だ。」
領事は胸を撫で下ろした。
が、次の瞬間、森の影からゴロナザウルスが大口を開けて現れた。
バリボリバリ!!
領事の乗るホバーバイクは無惨に噛み砕かれた。
これが、領事の最後であった。偽物は呆気なく生涯の幕を閉じたのである。
ー茂みの中より
「ふー。なんとか生きてるようだぜ。」
ビャッコは重い体を起こした。悪運は強いようだ。
向こうから黒煙があがっている。
行ってみると領事の乗っていたホバーバイクの残骸が転がっていた。
ギャアーーン
遠くからゴロナザウルスの咆哮が聞こえる。
「ははーん。どうやら、殺られたようだな。ざまぁないぜ。」
その頃
天はゴロナザウルスに追われながら走っていた。
周りに何か攻撃に利用できるものを探しながら又、走る。
苔に覆われた崖が目に入った。その崖は10メートルほどの高さのところに古い大木が斜めに生えており、その大木が土砂崩れの後なのか、大きな岩々を支えていた。
ー これだ!
天はその崖に生えている大木に向かって二振の半円状のチャクラムを投げた。
その鋭い刃が大木を切り落とすと
地鳴りと共に岩が崩れはじめた。
無数の大小の岩々がゴロナザウルス目掛けて落ちてきた。
ゴゴゴゴゴゴ!
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