第22話 新たな出発

雷雨の中、ライフルのスコープから見えたのは鬼の形相のバッダであった。


セイリュウは凄腕のスナイパーである。嵐の中ではあるが充分に仕止められる自信があった。


しかし、相手は百戦錬磨のあのバッダ将軍である。さすがのセイリュウにも緊張が走る。


稲光が激しく鳴り続き、雨が降っているせいで視界は良くない。


冷たい汗がセイリュウの額ににじむ。



ピカッ!



稲光の閃光が、走った。



ー今だ!ー



引き金を引いた。



ドシュン!


セイリュウの放った弾丸はバッダの眉間を貫いた。


ドサッ


バッダは前のめりに倒れた。

幾度も死線を超え、天王軍を最強にした将軍は実に呆気ない最後を遂げたのであった。



「やったか……?」



数分の出来事であったが、セイリュウは酷く疲労困憊していた。

無理もない。先の一撃は敵である天王軍の戦力にこの上ない大きなダメージを与えた事になるのだ。


「手応えはあるが、まだ信じられん。確認してくる。」


セイリュウは屋上にある小型のグライダーへ向かった。


「まって!あたしも行くよ。」


そばに居たイッコはセイリュウの後を追う。



梯子を上り屋上に出た二人。外はまだ激しい雷雨だ。雨を避けながらグライダーのある場所へ急ぐ。



「気を抜くなよ。」


「わかってる!」


グライダーのハンドルを引き機体が浮く。雨風が邪魔をし不安定だ。



二人はバッダが倒れた場所の上空までたどり着き、適当な場所に降りたった。



「たしか、この辺りの筈だ。」


草木を掻き分けると

そこには確かにバッダの遺体があった。


「うわっ!本当に居た!」


遺体に対して「居た」という表現は不適当に思われるが、その横たわる巨体は死しても存在感を放っていた。


しかし、眉間から後頭部にかけて見事に銃弾が貫いていた。間違いなくそれは遺体であった。


「死んでいるな。」


「うん。死んでる…… 首でも持って帰る?」


「バカを言うな。」


バッダが背負っている妖剣デュランダルがセイリュウの目に入った。


「これを持って帰ろう。何よりの証拠になるだろう。」


セイリュウはバッダの背中からこの妖剣を外し手にとった。


「うっ!」


セイリュウは剣を持った瞬間、得たいの知れない吐き気に襲われた。そしてその場に膝間付いてしまったのだった。


「どうした!? セイリュウさん!」



「うわぁぁぁ!おおおあ!」


セイリュウは突然気が触れたように暴れだした。妖剣を無造作に振り回している。


「わぁぁぁっ!?」


イッコは突然のセイリュウの豹変ぶりにその場でしりもちをついてしまった。


「ちょっ!まって! わぁっ!」


なんとか体制を整え、イッコはその場をなんとか逃げ出した。


遠くでまだセイリュウの叫び声が聞こえる。


「ぐおぉぉぉぉ……」



イッコは走る。


「どうしたってんだよぉ。セイリュウさん。」


泣きながら走る。




イッコは、ようやく本拠地の学校に戻ってきた。


「オロチ!大変だ!セイリュウさんがっ!」


「どうした!?」


セイリュウがバッダを倒した事、その後に妖剣を持ち帰ろうとして気が触れて暴れまわった事、その全ての成り行きを全てオロチに話した。



「そりゃあ。厄介だな。」


リュウが話に割って入った。


「バッダの所持していた剣は妖剣という異名で知られている代物だ。不用意に触ると意識を乗っ取られるのさ。」


「なっ!? じゃあセイリュウさんはどうなってしまうんだよ?」


「さぁな。なにせ妖剣デュランダルは自らの妖力の増大する為に生き物の血を求めるらしい。殺人を見境無く起こすかもな。」


「バッダはどうして正気だったンダ?」


「あいつはデュランダルを飼い慣らすのに成功した稀なケースだ。強靭な精神力で抑えたが、それでもほとんどの視力と引き換えだったらしい。」


「きっと、セイリュウさんも大丈夫だよ!」


「ああ、あの人も精神力ならバッダに負けていない。きっとデュランダルの所持者になれるさ。」


「なら、いいのだが……」


「なんだよ!セイリュウさんをバカにすんのか?! あたしは、まだお前たちを疑ってんだよ!」



その時、外から来客があった。

外はずいぶん小雨になっていた。


「おーい!誰か来たぞ!」


「何人だ!」


「二人だ!年配の男と若い女だ。」


「よし、入れてやれ!」


部屋のドアを通された二人は丁寧に挨拶を済ませた。


「ガルーダ!ラクシュ!よく来たな!」


部屋の奥からリュウは叫んだ。


「酷い、雨だったわぁ。びしょ濡れよぉ。」


ガルーダは相変わらずだ。

年齢性別不詳、清潔感のある紳士である。


「お久しぶりです!」


ラクシュも変わらず爽やかな笑顔だ。

少し自信を持ったのか、三年前より良い感じの淑女になっていた。


「あ、あんたガルーダかい?!」


イッコはガルーダを見て言った。


「はて。ごめんなさい。どこかでお会いしましたか?」


「あたしのじっちゃ……いや、祖父のキンナラが生前お世話になっておりました。」


「あー。キンちゃんのお孫さんでしたか。」


「はい!祖父は本当に貴方の事を尊敬しておりました。」


「やめてよぉ。貴方のお祖父様の方がずっと出来た方でしたよ。」


「ごめんね。リュウの素行が悪くてご迷惑かけてるでしょう?」


「いえ、あたしが一方的に警戒してただけです。貴方のお連れさんなら信用できます。ごめんなさい。」


「ですって。リュウ。」


ガルーダはリュウへ微笑みかけた。


「俺は元より何も思ってないぜ!色々迷惑かけたな!」


とリュウ。



ガルーダの存在はどうやらイッコの確執を払拭させたようだ。


「しかし、どうしたものか?」


訝しい表情でオロチは悩んでいる。

セイリュウの事である。何せ手がかりが無いのである。


「明日もう一度現場へ足を運びましょう。」


天が言った。


「いや、あんた達にゃ関係ない話だ。それに直ぐにここを発つのだろう?」


「いえ、当面はここに滞在しようと思います。よければ貴方の手伝いをさせてもらえませんか?このカンザノートの自治を確立しましょう。」


天はカンザノートの統括者に自分の名前が使われている事に責任を感じていた。

こうするのが正しいと信念をもって発言した。


「そうか。正直なところ助かるぜ。」


「そうこなくちゃな!元々、お前の統括エリアだもんな。偽物退治といこうぜぇ!」


リュウが囃し立てる。


「まずはセイリュウさんの足取りを探るのと同時に、ここを統括している領事館を攻めませんか?」


「よし、わかった!早速作戦を練ろう。」


新たな仲間を加えてこのレジスタンスは新たな局面を迎える。


そして夜は更けていった。

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