第21話 嵐の予感
カンザノートの街の中心部では歓声がおこっていた。
「ざまぁみろ!天王軍め!」
「革命を起こせー!」
「いいぞ!いいぞ!俺たちはやれる!」
政治不振によるデモが発展し内乱状態にあるカンザノート。
この街の民衆が制圧にきた天王軍をはねのけたのだ。
指揮しているリーダーはオロチだ。彼は別行動で街の入り口まで来ていた天王軍の援軍をくい止めてたった今、戻ってきたのである。
「どうやら、本拠地も無事みたいだな。」
同行していた竜神のリュウが言った。
「ああ。ここの指揮はイッコに任せてあったからな。安心だ。」
「立派な街ですねぇ。」
五条 天〈こじょう てん〉も一緒である。
「何、他人事みたいに言ってんだ。形の上ではお前はこの世界の王子で、この街の統括者なんだぜ!」
相変わらずリュウは天の世話係だ。
「おう!戻ったぜ!」
オロチは本拠地の皆に帰還の挨拶をした。
本拠地は学校の校舎である。
校庭には屋外用の舞台のようなものがある。
そこで街の民衆達は勝利に酔いしれていた。
「オロチ!みんなで天王軍をおっぱらったよ!みんな頑張ったんだよ!」
「そうか!みんな、よくやった!こっちも援軍の奴らを片付けたぜ!」
「おおー!さすがだぜ!」
「こいつらが手伝ってくれた!紹介するまでもないがリュウだ!こっちは、なんとテン王子だ。」
場内が騒ぎだす。
「 おい!どういうことだよ!!」
「意味わかんねぇよ!」
「気が狂ったのか!!」
イッコをはじめ皆、納得いかない様子でオロチに詰め寄る。
無理もない。形の上では天王子は敵の御大将なのだから……
ドン!!
オロチは頭上目掛けて短銃をぶっぱなした。
「俺が無事に戻ってるんだ!理解しろよ。こいつらは仲間だ。」
オロチは笑顔だが、目はすわっている。
「わかったよ……」
イッコは素直に了解した。
それを見て皆も納得したようだ。
「みんな!すまんな。乱暴なやり方だが俺を信じてくれ。」
今度は笑っていない。深々と皆の前で頭を下げていた。
オロチの統率力は見事である。
「じゃ!改めて祝賀会だ!」
酒屋のゲンブが明るい声で叫んだ。場の雰囲気が一気に変わった。
「おおー!」
「いいぞー!」
「酒、持ってこいー!」
その場で大宴会りが始まった。
オロチはリュウと天、そしてイッコと同席だ。
「そういうことでだな。俺たちは、はめられたんだ。天王子の偽物に!」
リュウはイッコに事のいきさつを説明した。
「天でいいですよ。オロチさん。」
「ん?ああ、そうだな。王子じゃないもんな。 しかし、ややこしいから皆の前では王子の素振りをしておいてくれ。」
「しかし、軍人でもないのにここの連中の腕っぷしは大したもんだな。」
リュウはただの民衆の集まりであるこのレジスタンスの統率力と武力に感心していた。
「ああ、ここには特に凄いのが四人いてな。それぞれのブロックのリーダーをしてもらっている。」
「この酒を提供してくれてる気前のいいおっちゃんかい?」
「ああ、そうだ。おーい!ゲンブさん。」
オロチは自分達の席にゲンブを呼んだ。
スキンヘッドでガタイのよいゲンブはどこにいてもよく分かる。
「他のブロック長はどうしてる?」
「スザクは向こうの席でポーカーをやってるよ。」
確かにひときわ盛り上がっている席があった。
「やれやれだな。あまり皆から巻き上げるなと後で言わなきゃな。」
「俺もご一緒していいかい?」
小柄で恰幅のよい男がビールを片手に現れた。
「ビャッコだ!よろしくな!」
「ビャッコさんは西側のブロック長だ。普段は土建屋の親方なんだ。」
オロチはリュウと天に紹介した。
「それと爆薬のエキスパートだ。頼りにしてくれよ。」
恵比寿顔のビャッコはそう言うと (にい) と笑いながら言った。
「セイリュウさんの姿が見えないが。」
「セイリュウは見張り台にいるよ。」
ゲンブは言った。
「相変わらず神経質な人だな。」
セイリュウは凄腕のスナイパーだ。
見張り台に入り浸っては廻を警戒している。
「でもよ。バッダの奴はすぐに追ってくるぜ。ひょっとすると慢心して一人で来るかもよ。」
リュウがつまみを口に入れながら言った。
「まさか……普通、体勢を立て直すだろ。一人で来たらアホだぜ。」
「俺を仕止めようとジンとか言う奴まで連れてきたのに自分の部隊まで全滅させられているからな。恥ずかしくて本部へは戻れないと思うぜ。あいつ、プライド高そうだし。」
「一応、警戒しとくか。」
「……」
イッコは無言のままだ。まだ本心ではリュウと天に心を許していないようだ。
「なんだ、イッコ。機嫌が悪そうだな。」
「別に……。 あたしはセイリュウさんの様子を見てくるよ。」
イッコはそう言うと席を外し、見張り台へ行ってしまった。
「やれやれだぜ。すまんな。そのうち打ち解けるさ。」
オロチはリュウと天に謝った。
外は雲行きが怪しくなってきた。
ポツリポツリと雨雫が落ちる。
見張り台ではセイリュウが一人、静かに遠方を見つめていた。
直立不動のまま眉間にシワを寄せている。風が銀色の長髪をなびかせていてダンディな様である。
「灯りくらいつけたらどうだい?セイリュウさん。」
「ん……。 イッコか。 暗い方が気が静まるし、集中できるのだ。」
「そうかい。わかったよ。じゃあ、このままにしておくよ。」
「オロチが帰ってきたようだな。」
「うん。仲良くスパイと敵の大将をつれてね。」
「どういう事だ?良く理解できないが。」
「街の入り口でそのスパ……いや、リュウと天が援軍の壊滅を手伝ったんだって。」
「そうか、援軍の大将はスザクの情報だと、あのバッダだったらしいぞ。オロチだけではもたなかったかもな。」
「セイリュウさんもあいつらを認めるのかよ! あたしは気に喰わないね!」
ピカ!ゴロゴロ!
稲光が走った。本格的に天気が崩れだしたようだ。激しく雨も降りだした。
ピシャッ!!ゴッゴーン!
雷が近づいて来ている。
その稲光に一瞬だが人影が写った。
「何か来たようだ……」
セイリュウはそれを見逃さなかった。
冷静にライフルのスコープを覗き込む。
-!ー
「まさか!」
見えたのは雷雨の中、鬼の形相で潜むバッダの姿であった。
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