第20話 土と影
竜神リュウは全身青色の肌を持つ巨人、風の魔神ジンの圧倒的な攻撃を受け絶体絶命だった。
そんなリュウを救ったのは、地獄での修行を終え、たくましく成長した五条 天〈ごじょう てん〉だった。
天が使う円状の刀〈チャクラム〉によりジンは首を跳ねられ倒れた。
残すは目の前にいる天王軍屈指の将軍バッダのみである。
味方には幻術や影をたくみに操り、癖のある攻撃を繰り出すオロチがいる。
更に天を加え、こちらは三人でバッダを迎え撃つ。状況は充分に有利だ。
突然の再会を果たしたリュウと天であったが
今は交戦中である。
つのる話もあるだろうが、それどころではない。
現にオロチとバッダは今も緊張の最中で命のやり取りをしている最中だ。
ジンを倒したリュウと天はバッダと対戦中のオロチに加勢にはいった。
「よぉ!頑張ってるね!オロチの旦那。」
「俺も組織のリーダーを張ってんだ。これくらいはやれるぜ! で、そいつは誰だ?」
「僕は五条 天です!うわっ。危ない!」
ドヒュン!
バッダの振りかざす大剣が天の頭をかすめた。
何度も説明するが今は交戦中である。挨拶している場合ではない。
バッダは三人相手でも怯むことなく攻撃してくる。
戦闘スキルにそれほどに自信があるのである。少しの隙も命取りだ。
天、リュウ、オロチはそれぞれの武器を構えバッダを囲む。
バッダは自身の体を自転させた。
バガガガガガ!!
その様は巨大な電動式ドリルが土を掘っているようだ。
バッダは物凄い勢いで地中に入っていった。
「なんて奴だ!こんな芸当もできるのかよ!」
「地面を移動しているようです。気をつけて!」
ドバッーーシュ!!
地中からバッダの剣先がリュウを目掛けて飛び出した。
リュウは高くジャンプしてそれを避ける。
「動くな!」
オロチが指示した。
「奴は足跡で俺たちの位置を確認している筈だ!」
「じゃ、次も俺を狙ってくるじゃねえか!?」
今しがた着地したリュウが一番位置を把握されやすいからだ。
ドバッ!ドバッ!
なんと次は天を狙ってきた。
天も高いジャンプで逃げる。
「くそ!全員の位置を把握してやがる。」
「これじゃ、防ぎようがないよ。」
オロチは目を閉じて合掌した。
何やら瞑想しているようだ。
オロチの足元の影が体を中心に広がっていく。
かなり広範囲の地面が影に覆われた。
「な、なんだ気色悪いな。」
「静にしろ!」
また地面から剣先がリュウを襲う。
しかし、今度は剣先が自由に地面に出ることが出来ない。地面を覆う影がゴムのように伸縮して剣先が地面から出る事を阻んでいるからだ。
「これなら楽に避けられるね!」
「やるねー!旦那!」
「長くはもたないぞ!気を付けろ!」
バッダの武器も名だたる物の一つ、
妖剣「デュランダル」である。
そのうち影の術も破られるであろう事はオロチも理解していた。
「今のうちに逃げるぞ!」
「それが賢明のようだな。」
「わかりました!」
オロチ達三人はその場を足早に後にした。
「オロチさんの影がラバーゴムみたいで足音を消してくれたね。」
「ああ、簡単に逃げれたな!優れものだ。」
「たまたまだ……」
リュウとオロチの確執は取れたようだ。
「この車を拝借しよう。」
そばにあった自家用車のドアをオロチはピックで器用にこじ開けると又、そのピックでエンジンをかけた。
ドルルル!
「泥棒だ。」
「悪党だ。」
「借りるだけだっ!」
三人はまるで旧年来の仲間同士のようなノリである。
「 ところで五条 天とか言ったな?リュウとはどんな関係だ?」
オロチは天の素性が気になるようだ。
リュウはまだスパイの容疑が晴れていないのである。無理もない事だ。
「んー。ちと、ややこしいんだ。」
リュウが口を挟んだ。
「とりあえず、こいつは天界王の第三王子のテンだ。」
「!」
「てめえがテンかぁ!」
先ほどまでの能天気な空気が一変した。
オロチは偽物のテン拷問を受けているのである。その偽物はその場におらずオロチは顔を知らなかった。
「ストープっ!まぁ、話を聞けよ。」
「聞けるか!お前も馴れ馴れしいんだよ!スパイが!」
「なら、さっきのバッダとの戦いは何でだったと思う?! あれは天王軍最強の将軍だぞ!」
それを聞いてオロチは冷静になった。
ーふう。
懐からだしたタバコを咥え、火をつけた。
「どういう事だ。説明しろよ。」
落ち着いたが、まだ不機嫌だ。
リュウは事の流れをオロチに説明した。
「何だか信じられんが、とりあえず味方だと言う事は理解したぜ。」
とりあえず仲は修復出来たようだ。
そんなこんなで三人はカンザノートの街の中心部へと戻るのであった。
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