第17話 脱出

リュウはその日、最悪の朝を迎えていた。

昨晩は最上階スウィートの柔らかなベッドで眠りについた筈だったのに。


「なあ、どういう事なんだ。説明してくれよ。」


リュウは椅子に座らされて、頑丈な鎖を後ろ手に繋がれていた。地下室の様な薄暗い部屋で大勢に囲まれている。

中央でオロチは立っていた。


「俺も残念で仕方がないんだよ、兄弟。」


繋がれたリュウを前にしてオロチは本当に残念そうに言った。


「よくも、裏切ってくれたな!

お前、テン王子の仲間だよなっ!! 

少しは、いい奴だと思ってたのによ!」


隣でイッコは顔を真っ赤にして怒っている。


「そっかー! 俺の話を盗聴したんだな? 

なかなかエグい事をしてくれるじゃないか。」


リュウは冗談を言うように笑いながらイッコに言葉を返した。


「で、俺達の何を探っている?」


今度は真顔でオロチは短銃をリュウに向けた。


「まぁ。待てよ! あれは誤解だ!」


リュウが弁明を試みた次の瞬間。

後ろのドアが慌ただしく開いた。


「大変だー!天王軍が攻めてきた!」


「何っ! 警察隊じゃなく、軍だと!」


オロチは事は重大だと判断し、リュウを横目にすぐさま部屋から出ていった。


イッコがそれに続くと、そこに集まっていた街の人達も次々と出ていってしまった。


リュウは椅子に縛られたまま、その場に取り残されている。


「おーい!置いてくなよ! 誰か。助けてくれ!」


薄暗い部屋の中でリュウの悲壮な声が響いた。




「…… いいわよ。」


部屋の奥から女の声がする。

部屋の暗さのせいで姿がよく見えない。


カツ  カツ  カツ


ハイヒールの足跡がゆっくり近づいてきた。


「久しぶりね。覚えている?」


最初の店で会った女であった。

どうやら先程の群衆に混じっていたようだ。

勿論、リュウはこの女の正体がアグーの配下のズメイである事は知らない。


「おっ。 おー!覚えているぜ。あの夜は楽しかったな!」


リュウは精一杯とりつくった。

何せ〈あの夜〉は彼女のアプローチを断り、そそくさと逃げたのだから。


「私は寂しかったわぁ。」


「そっかっぁ! 悪かったな。 

ははっ。 今晩、又飲み直そうぜ!」


リュウのひきつり顔は続く。


「今日は随分、セクシーな格好してるわね。ゾクゾクしちゃう。」


女は繋がれているリュウの頬を両手で挟むように撫でながら言った。優越感で高揚して悦に入っているようだ。


「へっへへっ。ありがとよ。俺もあんたみたいなベッピンと知り合えて嬉しいよ。

なぁ。そろそろ、腕の鎖切ってくれないかな?」


「あら、都合良すぎない? こう見えても怒っているのよ。私……」


女の顔は笑っているから尚更、怖い。


「わ、分かったよっ!! この間の事はすまなかった。謝る、この通りだ!」


「それだけ?」


「何が望みだ!何でも聞いてやるぞ!」


リュウは苦し紛れに言った。

この手の女性に〈何でも〉は非常にリスキーなのに……。


「本当にっ! 嬉しいぃ! 嘘は許さないわよぉ。」


女はそう言うとリュウの後ろに素早く回り込み縛られた両手の鎖を外した。


外れた鎖を見ると何か鋭利なもので断ち切られていた。

リュウの視界には鎖を外せる器具らしきものは見当たらない。


恐ろしい女だ!リュウは思った。


〈こりゃ、あまり、深く関わらない方がいいな……〉


「さぁ、約束よっ! 何して貰おうかなっ?」


女はリュウに飛び込むようにバグしてきた。


「ま、まてっ! 天王軍が攻めてきたきてるんだぞ! とりあえずこの部屋から逃げなきゃ!……ねっ?」


そう言ったとたん。爆弾が落ちたような様な轟音が鳴り響いた。部屋全体が揺れ、内装の一部がパラパラと落ちてきた。


「こりゃ、本当にヤベー。逃げるぞ!」


リュウはどさくさに部屋を出ることに成功した。


先程の幽閉されていた部屋はホテルの隠し部屋であったようだ。

リュウはエントランスを抜けホテルの外にでた。


ガガガガガガッ!

ドッバッーン!!


既に天王軍の激しい攻撃が始まっていた。


大勢の歩兵の他に2台程、戦車が目に入る。

装甲したボディーには〈制圧〉の文字が電工サインで表示されている。


「何で、自分とこの街を抑えるのに軍が出張るんだよっ!」


しかし、リュウの疑問はすぐ納得に変わった。


後方に指令を出しているらしき車両から人影が見える。


リュウは、双眼鏡を出して覗いた。


「あっちゃ~!! 又、奴かよっ!」


リュウと因縁のある例の天王軍屈指の将軍である。どうやら身元がバレていたようだ。


「こりゃ、ハードモードだぜ!」

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