第16話 ホテル
レストランを出たリュウは紹介された宿に着いた。
昨日の安宿とは違い立派なホテルだ。
「ヒュー! 人助けはするものだねえ。」
少し酔った雰囲気でリュウはフロントに向かった。
「いらっしゃいませ……」
受付の男は酔っているリュウを見て、無愛想に対応した。
「これをオロチから貰った。」
リュウは紹介状の角を親指と人差し指でつまんでヒラヒラさせた。
「確認致します。」
受付の男は紹介状を受け取りオロチのサインを確認した。
「ようこそ、いらっしゃいました! では、お部屋に案内いたしますのでこちらへどうぞ。」
先程とはうってかわって丁寧な対応だ。どうやら男は安心したようだ。
「こちらの部屋をお使い下さい。」
用意されたのは最上階のスウィートだ。
「おー!最高だぜ!」
「何かご要望などがございましたら、枕元の内線でお申し付けください。それでは、ごゆっくり。」
窓からの展望できる夜景は広がる街の明かりと満面の星空でとても美しかった。
少し遅れてホテルのフロントを訪れたのはイッコである。
「いらっしゃいませ。イッコ様。ご連絡頂ければお迎えにあがりましたのに。」
「さっき、リュウという男が泊まりにきただろ。長身で無精髭の……」
「はい!オロチ様の招待状をお持ちでした。どうかしましたか?」
「奴の部屋を盗聴できるか?」
「それは、できません! ホテルの信用に関わります!」
ホテルの男は〈あり得ない!〉とばかりに固辞した。
「あいつは今日知り合ったばかりなんだよ。オロチは信用してるんだけど、あたしは怪しいと睨んでるんだ。天王軍のスパイだと厄介だ。」
「それは、大変です! 何かお手伝いできますか?」
「奴はルームサービスを頼んだか?」
「いいえ。」
「そうか…… 奴の部屋に自然に入る事ができれば盗聴機でも仕掛けるんだが。」
トゥルルルル
内線が鳴った。リュウの部屋からだ。
「ウイスキーをロックで持ってきてくれないか?」
「かしこまりました。しばらくお待ち下さいませ。」
「イッコ様、例の部屋から内線が入りました。事情が事情です。今回は私の責任でリュウ様の部屋に盗聴を試みます。」
「そうか!助かるぜ。」
ホテルの男はウイスキーを手早く用意し、自らリュウの部屋へ向かった。
トントントン
「お待たせ致しました。」
「おー!ありがとな。入っていいぜ。適当なとこに置いてくれ。」
リュウは窓際でくつろぎ、スマートフォンのような小型通信機で誰かと話している最中だ。
「失礼致します。」
ホテルの男は入室し、入口手前のテーブルの上にウイスキーを置いた。
そして、気づかれないようにテーブルの天板の下に盗聴機を仕掛けた。
「では、ごゆっくり。」
ホテルの男は事務所に戻りイッコと様子を伺った。
リュウはラグジュアリー感に包まれたの部屋の中で、リラックスしながら通話をしている。
「今、カンザノートで少し警察隊とゴタゴタしててな。」
『相変わらずね。あまり、事をややこしくしないでよ。』
通話先の壮年は、〈又か。〉と言わんばかりの口調であきれ気味である。
「分かってるよ。ガルーダ。でも、ここのレジスタンスは気合い入ってるぜ! 仲間思いで筋の通ったいい奴らだ。今日、仲間になった。」
〈なんか、誉められてるぞ…… いい奴なのかな?〉
盗み聞きしているイッコは少し悪い気がしてきた。疑い深いが単純なところがある。
『そう。何か情報はある?』
「あるぜ!面白いことに、ここの統括者は第三王子のテンだそうだ。しかも高い税金をかけてて民衆は大反発だ。」
『なんでテンが? おかしいじゃない!』
「だろ? しかもカンザノートに隣接しているエリアはどこも民衆には手厚い保証をしていて暮らしは楽なんだそうだ。」
『まるでテンを陥れようとしているみたいな話ね。』
「その隣接しているエリアの統括者は全てラセツなんだよ。」
『なるぼどね…… 折り合いの悪いテンが居ないのをいいことに自分の印象を良くしたい訳ね。あの第一王子は。』
「ああ。全く、セコい話だぜ! というわけで我らがテン王子の為に一肌脱ごうって訳さ。」
〈あいつ!やっぱりスパイだ!ちきしょうっ!!〉
ここまで聞いたイッコは逆上し、ワナワナと拳を握りしめた。
「一瞬でもいい奴だと思った自分に腹が立つ!もう、帰る!!」
憤慨してホテルをでたイッコ。
屋根づたいにオロチの元に急ぐ。
満月に影を写しながら屋根づたいに走るのであった。
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