第15話 最後の晩餐

リュウはカンザノートの安宿で目を覚ました。なにやら外が騒々しい。怒号も聞こえる。

この街で起こっている暴動のせいだ。

窓から下を見下ろすと狭い路地で民衆と警備隊がやりあっている。


その群衆の中で存在感を放っている二人組が目についた。


一人は派手なパンク風の格好をした女性。

サーベルのような武器を片手に孤軍奮闘している。

もう一人は全身黒ずくめでハットを深く被っている。ギターケースは隠し銃になっているのか。実弾ではないだろうが警備隊にむけて発砲している。



〈イッコとオロチだ。〉



「知らん顔もできねぇか。」


やれやれ。といった顔でリュウは伝説の槍〈トライデント〉を手にして部屋をでた。



場面は警備隊が押していた。

今まさにイッコが捕らえられようとしている。


「うおおおおありゃあ!!」


リュウは宿から勢いよく飛び出し、

自慢のトライデントを振り回した。

イッコごと警備隊が20数人ほど風圧でふっとんだ。


飛ばされたイッコは猫のように空中で体制を整え向かいの建物の屋根に器用に着地した。


「おおおおおお!」


リュウの槍は止まらない。

続けて警備隊を襲う。


「退けー!」

「退去!退去ー!」


たまらず警備隊は撤退していった。


辺りは舞っていた砂ぼこりが徐々に失くなっていき、静寂を取り戻した。



「あんた何者だい?」



屋根から身軽に降りてきたイッコが

リュウに語りかけた。


「あんたらのファンだよ。」


リュウはニッと笑って返した。


「ファンのわりに乱暴だな!怪我するとこだったよ!」


イッコは少し怒りながら言った。


「でも助かったぜ!あんた強いな。何かおごらせてくれよ。」


後ろからオロチの声がした。オロチはリュウにゆっくり近より礼を言った。



ー その日の午後



この街でも高級な部類のレストランにリュウは招待されていた。

オロチは地下組織のリーダーであるようで、このレストランもその傘下であるようだった。


「あんたのお蔭で皆、士気があがってるぜ!今日はありがとう。」


オロチはビールを片手にリュウに乾杯を求めた。


「いや、あんたらの活躍を聞いてオレも感化されただけさ。」


リュウは差し当たりのない返答をして乾杯に応じる。


「もう少し丁寧に助けてくれたらパーフェクトだったけどさ!」


イッコは冗談交じりに皮肉を言った。


「すまなかったな!許してくれよ。」


リュウは人懐っこい笑い顔をイッコに向けた。

がさつな行動が多いリュウだが、いつもそのくったくのない笑顔で大抵の人は許してしまうのである。


「ところで、あんた軍人かい?

その立派な槍だって一兵卒には手に入らない物だろう。」


オロチはリュウの強さに尊敬の意味を込めて聞いた。


「いや、いや。オレは単なる盗人さ!この槍は天王軍の倉庫から頂戴したものだよ。」


「盗みはいけねえが、天王軍の倉庫からなら天晴れな話だな!」


こんな調子でこの夜、オロチとリュウの談笑は続いた。


「ところでそのテンって奴はそんなに酷いやつなのか?」


リュウは二人に聞いた。


「ああ、酷いよ!

奴が統括者に就任してから税金が倍になった。ここは見ての通り下町だ。皆、物作りや小売りで生活している。実入りもそんなに多くないんだ。」


イッコが不機嫌に言った。


「とりわけ何か新しい政策がある発表もなく、街にも変化がない…… これでは皆、不満も言いたくなるわな。

俺とイッコはミュージシャンだ。歌で皆の思いを訴えてみたよ。

その後は見せしめの為、公開拷問に掛けられたんだがね。」


静かだか、オロチも怒りを隠していない。


「テンはその場に居たのか?」


「いや、顔も見せないよ。偉そうな奴だ。腹立たしい!」


「そうなのか。」


リュウは納得した表情でうなずいた。


しばらくしてイッコがリュウに言った。


「しかし、あれだけ暴れてくれたからな。天王軍も黙っていないと思うぞ。あたしたちの仲間が経営している宿があるんで、リュウはしばらくそこで泊まったらどうだ?」


「それは、助かるぜ!俺も隠れ家が欲しいと思ってたところなんだ。」


「そいつはいい!又、酒もって押し掛けてやるぜ!」

オロチはすこぶるリュウが気に入ったようだ。


酔いも深くなり、リュウは宿を店をでた。

そして、紹介してもらった宿へと向かった。


「オロチはリュウの事を気に入ってるようだけど実際のところどう思う?」


イッコは落ち着いた表情で聞いた。


「そうさなぁ。きな臭いところはあるが、あの腕っぷしは欲しいな。悪い奴では無さそうだ。」


「オロチは優しいね。あたしは気が抜けないよ。」


そう言うとイッコはリュウの後をつけて、店を出た。

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