第14話 陰謀の街

ー 南エリア N地区 カンザノート ー


以前は活気に満ちていたこの街も今は殺気に覆われている。

それも、新政権になってからだと街の民達は口々に言う。

なにやら似顔絵の描かれている旗を燃やす者、このエリアの統括者を模した案山子を複数人でリンチの様にズタズタにするパフォーマンスなどが街の所々で見られた。


「この街も随分、様変わりしたな……」


今日は風が強い。砂ぼこりを浴びながら

フード付きのマントを羽織ったその旅人は呟いた。


街の入り口には大きな公園があり、人だかりができていた。物々しい雰囲気でひどい罵声が飛びかっている。


「統括者のテンは退任しろー!」

「何が第三王子だ!私服を肥やすブタ野郎!」


政権に対しての反対デモの集会のようだ


「なに……第三王子テンだと?!」


馴染みのある名前が耳に入り、その旅人は立ち止まった。


人だかりの更に向こう側には壇上があり先導している者達が見えた。


「みんなー!集まってくれてありがとー!

力を合わせて統括者テンを失脚させよー!」


一人は女性だ。パンクミュージシャンのような派手な格好をしている。

コンサートのMCのように群衆を煽っていた。


ギャ!ギューーン!


次の瞬間、エレキギターの高音が会場全体に鳴り響いた。脳に直接刺さるような音だ。


もう一人は全身黒ずくめでハットを深く被っている。

彼のギターは独特のフレーズを奏で、会場を一際賑やかすのだった。


「一体、どうなっちまってやがる!?」


王子のテンはまだ人間界から戻っていないはずだし、もう一人の天、すなわち五条 天(ごじょう てん)が天界に戻っていたとしても統括者を任されているとは思いがたい。


「なんか、腐った陰謀の臭いがするぜ。少し探るか……」


そう呟くと旅人は被っていたフードを取り払った。

長髪で無精髭の顔があらわになった。

竜神リュウである。


情報を求め手頃な店を見つけると、リュウはすぐさま入っていった。

奥のカウンターにおもむろに座り、まだ明るいというのにアルコールを注文する。


「なぁ?マスター。ここらの暮らしはそんなにまずいのかい?」


「あんた、旅人かい? ああ。ひどいもんだよ。何故そんな事を聞く?」


白い顎髭を生やしたかっぷくのいいマスターはバリトンの声でリュウに返した。


「いや、さっき公園を通りかかったのさ。」


人懐っこい口調でリュウは続けて会話する。


「ああ。イッコとオロチを見たのか。」


「あの派手な姉ちゃんと黒マントはそんな名なのか。ここの統括者をメチャクチャ罵ってたぞ。よくパクられないものだな?」


「もう指名手配犯だよ。あの二人は。この街では誰も警察には協力せんがね。」


「そんなに嫌われているのか?ここの統括者は?」


「今夜、ここでイッコとオロチがライブを開く予定だ。興味があるなら又、来るがいい。」


マスターはそう言うと、それ以上話す様子はなかった。


「旨い酒だったぜ。」


リュウは店を出た。




その晩、リュウは再び店を訪れた。

昼間とは違い店内は満員御礼だ。

ライブは既に始まっていた。

公園で見た時の騒がしくガナるようなロック音楽ではない。

ボサノバ調の落ち着いたステージである。

内容はやはり反体制のものだが。


「いいねぇ。こういう雰囲気。」


リュウは気に入ったようだ。


ーしかし、これでは聞き取りができないな。

どうしたものか。


しばらくすると、リュウが座るカウンター席の隣に誰かが腰を掛けた。


「見ない顔ね。お兄さん。竜神族同士仲良くしましょうよ。」


髪の長い遊び慣れていそうなその女はリュウに話しかけてきた。


「いいぜ。好きなの注文しな。」


リュウはその女が同族だったのと結構な美人であったのでノリを合わせた。


「ありがと♪ じゃ、ライチサワーひとつ!」


見た目によらず、可愛いものを頼む。


「あんた。この街の人?」


「そうよ。ここで生まれて、ずっとここで住んでる。」


「ステージの二人は相当な人気者みたいだな。」


「そうね。ここの人達はみんな統括者が嫌いだからね。」


「なんで、あんな危険なことやってんだ?素直にミュージシャンを演っててもいいだろうに。イカした演奏してるぜ。」


「あの二人は一度捕まって酷い拷問を受けているのよ。この街の人達の不満を代弁してね。だから、なおさら意固地になって今も歌い続けているのよ。」


「そりゃ、大したものだ。応援したくもなるわな。」


「ここの統括者は第三王子が務めていると聞いたが?」


「そうよ。3年前からね。」


「ほう。……」


テンとリュウが天界王に命を狙われ逃亡者となったのも3年前である。


「他の地区も同じ有り様なのか?」


「いいえ。この地区に隣接している地区の民には手厚い補助をしているらしいわ。この街に嫌がらせでもしているつもりのかしら?」


「まさか?」


リュウは半分真顔で軽く笑った。


「そこの統括者達は誰?」


「全てラセツよ。第一王子の。」


リュウはラセツの事をよく知っている。自分以外の者を愛した事が無い奴である。民に支持が高いテンとは常に不仲であった。敵対してると言っていいくらいだ。


ー男の嫉妬とは恐ろしいものである。


「ふーん。そうかい……」



「今度はあたしが質問する番よ。お兄さん事、もっと知りたいな。」


女は艶っぽく言った。

潤った切れ長の瞳で見つめている。


「あ……じゃ。楽しかったぜ!又会おうぜ。」


リュウは焦りぎみに席を立ち足早に店から逃げた。



「もうっ!!」



「……なーんてね。」


膨れてみせる可愛い女を演じた後、

すぐさま舌をペロッとだした。


「あなたの事は3年前から知っているのよ。龍神リュウ。ラセツの情報をあげたんだから、いい働きをしてね……」


女は席から立ち上がり、歩きだすと闇に消えた。

そう、この女はアグー配下〈くノ一部隊長〉のズメイである。


再び物語は動き出したのであった。

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