第12話 師弟

真っ白で何もないだだっ広い空間。

そこで天はトレーニングを続けていた。

地獄へ来てから約半月が過ぎていた。


「だいぶ、動けるようになったな。」


師匠になったクハンダは天に言った。


「はい!おかげさまで!」


天は笑みをこぼしながら答えた。


初めは、この超重力の空間で立っているのがやっとだったが笑顔でトレーニングができるまでになったのだから、ずいぶん成長したものだ。


「よし!ウォームアップは十分だな。」


クハンダは人差し指を天井にさし、何か呪文ような言葉を発した。


すると何もなかったドーム状の真っ白な天井が見る見るうちに変わっていった。

覆うような熱帯雨林の風景が写し出されてやがて全ての空間がリアルなジャングルになった。


「いつも言うがバーチャル空間だと思って、なめてかかるなよ。」


クハンダは天に言った。


「はい!大丈夫です。今日は何と乱取りをするのですか?」


天は特に慌てる様子もなく、

クハンダに聞いた。


「余裕だな?集中しないと食われるぞ。」


バーチャル空間で写し出される映像を利用してはいるが脳に直接に働きかけている装置だ。

ダメージを受けたと脳が感じれば本当に体はダメージを受けてしまい最悪、死に至る事もあるのだ。


遠くから何か狂暴な獣のような鳴き声がする。


バキバキバキッー!!


森林の奥から草木をかき分けこちらに向かってくる。


ゴッガッー!


物凄い咆哮で顔を出したのは爬虫類のような顔のモンスター、サハギンだ。

直立タイプで腕は4本ある。

体長は2mといったところか。


天を見るや素早く巨大な大口を開け攻撃してきた。


「よし!見えるぞ!」


天はトレーニングにより動体視力が向上していた。

サハギンの動きは、なんなく見えた。

少し後ろに飛んでその攻撃をかわし、間髪いれず、モンスターの懐にはいった。

天の肘打ちが炸裂した。


ぐぅお!


もろにみぞおちにそれをくらったサハギンは苦しそうだ。

しかし、サハギンも反撃にでる。

天の頭を狙い2本ある右腕でパンチをくりだした。


1本目の腕は左腕でブロックできたが、2本目の腕が脇腹にヒットした。


天は勢いよく飛ばされた。

しかし、それは自分で飛んで衝撃を和らげていたのであった。


再びサハギンの懐めがけ飛び込む天。

体格では負けているので今度はタックルをベースに多様な攻撃を仕掛けた。


徐々に天が優勢になってきている。


最後はしゃがんだ姿勢からサハギンの足を狙い蹴りを刈り込むように入れた。


体力を奪われたサハギンは勢いよく転倒した。


すかさず天は空中で前転し、そのまま両足でサハギンを踏みつけた。


サハギンはようやく動かなくなった。



「まぁ。上出来だ。」


クハンダの声がすると周りの景色が元の真っ白な空間に戻っていた。


「ありがとうございます。」


天は自身でも成長に手応えを感じていた。


「今日は上がりだ。うまい飯屋に連れてってやる。用意しろ。」


「本当ですか!楽しみだなぁ」


「ああ。地獄の中でも指折りの店だ。」


クハンダは見た目によらず面倒見の良いタイプであった。

天はなかなか良い地獄ライフを送っているようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る