第11話 地獄へ

「おーい!ガルーダ。いつまで、飛んでんだよー!」


リュウ達はワイバーンに丸一日乗っていた。

文句をつけるように平行飛行するガルーダに聞いた。


「余裕ないわねー。子供みたいよ。」


ガルーダはたしなめるようにリュウに言った。


「ほら、着いたわよ。」


ここは、ボルボル山の火山口の真上である。


「そうか!やっと着いたか!で、どこに降りるんだ!」


リュウは周りを見渡したが降りれそうな場所はどこにもない。

真下は巨大な火山口でグツグツとマグマが今にも吹き出しそうだ。


ガルーダは一息ついてから微笑しながらリュウを見る。 そして、無邪気に叫んだ。


「飛び降りるのよー!!」


ガルーダは同乗していたラクシュを抱えると

ボルボル山の火山口にめがけてダイビングしていった。


「ちゃんと、後についてくるのよーーー!」


落ちながらガルーダはリュウ達に伝えた。


「嘘だろっ!!」


リュウは目を疑ったがどうしょうもない。

実際、ガルーダは目の前で火山口に落ちていったのである。


「僕はもう驚かないよ。他の世界に行くのは二度目だから。たぶん、本当にここが地獄の入り口なんだよ。」


天はリュウに言った。


「くっ……。しゃあねえな。腹くくるぜ!」


リュウは火山口を見つめ集中する。


「うん。」


天は迷いはなかった。


「ドリャーーー!!!!」


二人共、意を決してダイブした。






暗闇から目を覚ました。


見慣れない風景である。

空は少しピンクがかっていて薄暗い。


地面には草が一本も生えておらず

平野が広がっている。

葉の生えていない樹木はまばらに点在している。樹表も漆黒でまるでシルエットだ。


天達もそれぞれの顔は変わっていないが

服装が今までと何だか違う。

色は黒がベースで

レザーの素材のものがメインだ。

そして流行りなのか、

大きめ貴金属のアクセサリーをそれぞれが着けていた。


「ぷっ!なんだよ。ガルーダ!

その格好は!」


リュウがガルーダを見て吹き出した。


天界でのガルーダのファッションは多少崩しているものも紳士的なフォーマルスタイルだったから無理もない。


今はスチームパンク風の丸いサングラスに海老茶色レザーのジャケット姿であった。


「なによ。これもイケてるじゃない。」


ガルーダはリュウの評価は気にせずに、本人はなかなか気に入ってるようだ。


ピンク色のよどんだ空から何かが大きな音と共にこちらへ向かってやってきた。


ガガタンゴゴトン!ガガタンゴゴトン!


線路のようなものがこちらへ向かって伸びてくる。

遅れてやってくるのは鉄道だ。しかも、これは囚人搬送用である。


ガガタンゴゴトン!プッシュー!フー!


それは天達の目の前に到着した。

中からものものしい雰囲気て降りてきたのは制服を着た、いかつい顔の鬼達だった。


「鬼だ!」


天は思わず声にした。


最後に降りてきた鬼は天に銃剣のようなものをつきつけた。


「黙って乗れ!お前達もだ!」


鬼は頭を車両に向かって振り天達に命令した。


「んだ!てめえらは……。」


「ちょっと、失礼じゃない?」


ジャカッ!!!


他の鬼達も一斉に天達に銃剣をむけた。


「わかったわよ。」


ガルーダ達は両手を挙げ、車両に乗り込んだ。


ガガタン!ゴゴトン!


車内は意外にも快適であった。

向き合う形の4人用のシートはソファーシートで柔らかだ。リクエストすれば飲み物や食事も提供された。


「なんだよ。今までのどこよりも快適じねえか。」


リュウは拍子抜けした表情で言った。


「そうね。この待遇だったらはじめから言ってくれればいいのに。」


ガルーダはアイスティーをストローで飲みながら厚待遇に満足そうだ。


車窓から見える風景は地獄というにはあまりに平和的でどこかノストラジックでもあった。


「リュウさん。閻魔王に会えば私たちはどうなるのでしょうか?」


ラクシュは心配しながら聞いた。


「天界王は地獄界を含む十界の秩序を乱そうとしてるんだから閻魔王も黙ってないだろうよ。

閻魔さまが俺と天の擁護をしてくれれば、ひとまずは安心ってとこだ。うまくいけば人間界に行ったテンを戻してもらえるかもしれねえし。」


リュウは自分の思惑を語った。


「僕、帰れるの?!」


天は思いもよらなかったリュウの言葉に気持ちが高揚した。


「でも、閻魔王は信じてくれるのでしょうか?」


ラクシュは心配そうに言った。


「しかし、スカスカな計画ねえ?でも大丈夫じゃない?熱意を込めて伝えれば。」


ガルーダは軽い口調で言った。


「能天気だな。一か八かで閻魔王に訴えるつもりなのによ!」


列車は街に入った。

近代的な巨大な建造物が立ち並び、とても活気に満ち溢れている。


そんな市街地の中央にひたすら大きな半球状の建物があった。閻魔王の宮殿である。


線路はその半球状の宮殿の中まで引かれており列車は到着した。


プッシュー!


「どうやら、到着したようね。」


ガルーダはすました表情で言った。


ピッ! ヒューン


ドアが開いた。


「全員、降りろ!」


鬼が命令する。


「はいはい。わかったわよ。」


ぶしつけな鬼の態度に少し慣れたようにガルーダ。


「ちっ!」


リュウは相変わらず不快感あらわだ。


列車のドアが開くと鬼の先導でホームにでた。囚人護送専用なのか誰もいない。


無人のセキュリティゲートを抜けると更に広いエントランスに出た。そこには、いくつかのゲートがあった。

そのうちの一つのドアが開いたので天達は乗り込んだ。それはエレベーターのようになっていて天達は上のフロアに向かった。


ピーン!


無機質にフロアの到着を知らす音が鳴る。


ドアを出ると又、数人の鬼がいた。

天達は案内されるままに部屋に入ると、そこは大きな会館のような空間だった。

壇上にはひときわ大きな人物が座っており

こちらを睨んでいる。


閻魔王である。


「西の辺境地帯で未登録の者達を連行してきました。」


鬼は閻魔王に報告した。


「クハンダ大将、ご苦労だったな。

さて、貴様達は何者だ。この地獄界ではすべての民が人民登録をしておる。未登録の者などありえないのだが。」


閻魔王は怪訝な顔で言った。


「閻魔ちゃーん!久しぶり~♪」


軽く声をかけたのはガルーダであった。


「!! な、何故あなたがここに……」


閻魔王はたじろいだ。


「貴様!無礼であろうが!」


先ほど連行してきた鬼のクハンダはガルーダに向かって詰め寄ろうとした。


「やめろ!クハンダ!その方は、私が閻魔になる前の前任のお方だ。今は悟りを開いて生命境涯を離脱しておられる存在だ。お前がどうこうできるお方ではない。」


閻魔王はクハンダをたしなめた。


「ガルーダ、俺ちょっと引いてんだけど……」


リュウはガルーダとは付き合いは長かったが素性をはじめて知ったようだ。


「あなたがここに来る理由とはなんでしょうか?」


閻魔王はガルーダに質問した。


「私は付き添いなの。隣のリュウが伝えたい事があるのよ。」


ガルーダはリュウの肩を軽く叩いた。


リュウは神妙な口調で話し始めた。


「閻魔王、俺は天界の住人です。天界王の野望を知ってしまい、追われています。天界王は天界のみならず人間界をも傘下に入れようと画策しており、この地獄に幽閉されているサターンを利用しようとしています。

さらには俺と行動を共にしていた第三王子のテンもその野望を聞いたと知ると容赦ない仕打を行いました。

今は俺の隣にいるのがテンですが、彼は人間界のテンです。天界の王子は今は入れ替わりで人間界におります。全ては天を恐れた天界王の仕業なんです。」


閻魔王はリュウの告白を静かに聞いていた。


「そうか……信じられん話だが、ガルーダ氏が同行となると事実と認めるしかないようだな。その王子は絶命による転生なら元居た世界に戻す事が可能だ。本来の寿命を違法に変えられたのだからな。

天とか言ったな。人間界へ戻してやろう。」


閻魔王は静かに言って手招きした。


天は手招きに応じ席を立った。

クハンダの案内があり別室に連れられた。


扉が開くと中には近代的な装置が設置してあった。


「この中に入るのだ。」


装置のハッチが開き、シートのようなものが見える。


「さぁ、座って。」


天はクハンダの言われるままに中のシートに座った。


「では、転送を始める。」


そう言うとクハンダはハッチを閉めた。


キューイーン キューイーン


転送が始まった。


装置の中は暗くなり、細かなLEDライトの点滅だけが残った。


ブーン


一瞬身体中に電気が流れる感じがした。


数分か経った。


「え、もう戻ったのかな?」


天が半信半疑のまま装置のハッチは再び開いた。


顔を出したのはクハンダだった。


「?! え、戻ってない?」


天は装置の外にでた。


「そのとうりだ。ここは地獄だ。転送は失敗に終わった。」


クハンダは困ったように天に言った。



天は再び閻魔王の前に戻された。


「どうやら、そなたは絶命による転生ではないようだ。したがって地獄の転送装置では無理であった。強大な霊力によって術をかけられておる。しかもそれは天界王のものではない。」


閻魔王は説明した。



「いったい誰の仕業なの?」


ガルーダは聞いた。


「アグーという者をご存知ですかな?」


閻魔王は重々しく言った。


「なんで!アグーが……」


リュウは意外な人物の名前に絶句した。


「誰ですか?」


天は聞いた。


「天界王のお兄さんよ。厄介な相手だわ。

アグーはテンの能力を認めているのね。

天界王との不仲も承知の上で……

民に人気もあり、戦力になるテンを手駒にしたい思惑があるのかもね。」


ガルーダは言った。


「まだ、政権をあきらめてないのかよ。」


リュウは呆れながら言った。


「どうすれば、戻れるのですか?」


天は閻魔王にすがるように言った。


「とにかく、アグーに会う事だな。術を解くのは本人しかできん。」


閻魔王は言った。


「対立したら、最悪の結果になるな。」


リュウは呟いた。


しばらく考えてからガルーダは言った。


「閻魔ちゃん。お願いがあるの。」


ガルーダは含み笑いをしている。


「なんでしょうか?」


閻魔王は聞いた。


「この子を、ここで鍛えてくれないかしら?」


天を指差しガルーダは言った。


「器量はたいしたものなんだけど、武器も使えないのよ。このままじゃ天界に帰っても生きていけないわ。

あなたも天界王を裁くとなると苦労するでしょ? 私たちが力を貸すわ。その時に天君はいい仕事してくれると思うのよねぇ。」


ガルーダはお願いしているように語っているが閻魔王に拒否権を与えるつもりは一切なかった。


閻魔王もそれはよくわかっている。


「わかりました……クハンダ。彼を戦力になるまで頼んだぞ。」


「……はい。」


クハンダもまさか自分が人間の師匠になるとは思わなかったようだ。


「では、サターンの警護も改めて厳重にするように!」


閻魔王は部下の鬼達にそう伝えると、席を立った。



そんな経緯で地獄で修行することになった天であった。人間界へ戻る道のりは遠い。

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