第10話 このお方をどなたと心得る!
「おい!いつまで寝てんだ!」
「うーん。眠いよ。」
天は強い口調の若い女性の声で目覚めた。
「うー。もう少し寝かせろよ。」
文句を言いながらリュウも目覚めた。
女性の声はこの家の主の妹だ。
名前はククリといった。
「他の二人はもう起きて仕事手伝ってるんだぞ!ただで泊めてやってんだ!文句を言うな!」
「ちっ!気の強えー女だ。」
しぶしぶリュウは言うことを聞く。
「すみません……」
天も反省しながら彼女に従った。
「こら、こら。客人にきつく当たるな。」
優しくたしなめる声が玄関口からした。
この家の主人のタヂカラだ。
農作業から帰ってきたようだ。
「兄貴!何でこんなやつら拾ってきたんだよ?うちは自分達の食べる物でも余裕ないんだよ?!」
ククリの言うことはもっともだ。
「そういうな。家の前で倒れてたら放っておけんだろ。」
タヂカラは終始穏やかな口調だ。
「妹が失礼な態度ですみません。両親がいないゆえ、少し他人への配慮が欠けて育っております。どうかお許し下さい。」
大男の丁寧な謝罪はそれだけで恐縮する気分になる。
「いや……。悪いのこっちだ。」
リュウは珍しく素直に謝った。
「感謝します。本当にありがとうございます。」
天も深々と礼を言った。
天達はバッダの襲撃で食料と馬車を失い、7日目でとうとう空腹で動けなくなっていた。そこをこの兄妹に助けられたのである。
「今頃起きたの?もう昼前よ。」
「あー!気持ちよかったー。午前中からいい運動になりました。」
ガルーダとラクシュも畑仕事の手伝いから戻った。
「さぁ!ご飯できてるよ。汚れを落としたらこっち来な!」
ククリは手伝いから戻った二人に声をかけた。
「お前らも食う?」
少し意地悪に今起きた二人にも声をかけた。
「いただきますー。」
しょんぼりして天とリュウは居間の囲炉裏に呼ばれた。
「よっし!そういうしおらしい態度なら許してやるよ!たんと食ってくれ!」
ククリは機嫌をなおしたようだ。
「食料に余裕がないのに本当に申し訳ありません。」
天は恐縮している。
「かなり、大きな敷地の畑や田んぼをもっているのに何故なのですか?」
ラクシュは聞いた。
「実は納める年貢の率が今年から上がったのです。私くらいの田畑面積でもなかなか生活は厳しいのです。」
タヂカラは言う。
「それにライスホッパーの大量発生もあったし。大損失さ!」
ククリも言った。
「おかしいですね?
そんなこと私、知らなかったです。
国の方針では100年は年貢率は4割から上げないはずだけど。ちなみに何割なのですか?」
ラクシュは言う。
「8割です。逆らうと土地を没収されます。ひどい話です。」
少し眉間にシワをよせながらタヂカラ。
「お姉さん、詳しいね。」
ククリは聞いた。
「この娘は先日まで天界局の秘書室にいたのよ。」
ガルーダが説明した。
突然、荒々しく扉が蹴破られた!
「こらー!タヂカラァー!年貢が足りねぇーぞー!どうゆうつもりだぁ!」
このエリアの天界局の役人だ。
「すみません。今年は不作でしてこれが精一杯です。」
「客呼んで、飯食ってるくせに何言ってんだ!ふざけるなよ!!」
土下座するタヂカラに凄む役人。
「いい加減にしろよ。てめー。」
リュウが我慢できず口をだした。
「あなたの、上役は誰ですか?年貢の率8割は違法ではないですか?!」
ラクシュは問いただした。
「なっ!……。なんでそんなこと!誰なんだ?てめえら!」
うろたえながら役人。
「その慌てよう……。ふん!横領してるわよねぇ。絶対。」
ガルーダは疑いの目で役人を厳しく見つめる。
「うるせえ!」
役人は一番奥に座っている天に気づいた。
「え??……!!まさか!あなたは、テン様??」
テンは天界の第三王子である。天界局の者が知らぬ訳がなかった。
「ひいいー!お許しをー!」
「おい!小役人!えらい悪事をしてくれたなー!ええ!」
リュウが天の代わりに凄んでみせた。
「もう!しません。本当にっ!!私、妻も子供も3人おりまして!何でもします!許してっ!」
「ここの事は黙っててやる!ばれたらお前は処刑されるぞ!しかし、お前が着服したここの分はちゃんと責任もってお前の給料で返すんだ!わかったか!」
「はいいいー!ありがとうございますううー!」
涙と汗と鼻水をたらしながら役人はでていった。
「……。」
タヂカラ
「……。」
ククリ
「大変ご無礼いたしましたー!」
ククリは土下座して平謝りをした。
「いや、いや、いや!やめてください!」
天は慌てた。
「天は記憶を失っててね。本人は王族の認識がないの。しかも、訳あって逃亡中。」
ガルーダはククリに言った。
「この辺は王都からずいぶん離れているからまだ天さんが逃亡中という情報が届いていないようですね。」
とラクシュ。
「そういう訳で、俺たちの事は只の旅人として接してくれねぇかな?」
リュウは笑った。
「わかりました。このご恩は忘れません。体が癒えるまでゆっくりしていって下さい。」
タヂカラは天達に言った。
「有り難うございます。でも、じきに僕たちを追って天王軍かやってきます。今日中に発とうと思います。こちらこそご恩は忘れません。」
天は深々と頭をさげた。
「では、裏につないであるワイバーンをお使い下さい。目的地まで送ったら、勝手に戻るよう言っておきます。」
ワイバーンとはここらの農夫が交通につかう飛龍である。言葉でのコミュニケーションが可能だ。
「それは、ありがてえ!」
リュウは小躍りして喜んだ。
家の裏には納屋のような建造物がありその中に2体のワイバーンが待っていた。
ガルーダとラクシュ、リュウと天に別れてそれぞれまたがった。
「では!お願いできる?」
ガルーダはワイバーンに話しかけた。
「もちろん。」
ワイバーンはそう言うと羽ばたき大空へとびたった。
「おおおー!」
「すごーい!飛んでるよー!」
天達は夕焼けを背に西の空に旅立った。
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