第13話 大宇宙の法則

岩山の頂上で座禅を組む天。


この地獄での生活も3年が経っていた。


以前の少しナヨナヨした雰囲気も失くなり天は細マッチョでたくましい体型を手に入れていた。

表情もずいぶん変わり、もう立派な成人男性だ。


「クハンダ師匠。僕はどうでしょうか? 天界で戦えるでしょうか?」


クハンダはいつの間にか天の真後ろに立っていた。


「ああ。問題ないだろう。万が一、命を落としたら、ここで俺の部下として働いてもらってもいいぞ。」


クハンダは笑いながら言った。



「ご恩は返したいのですが、死んで地獄に来ないように功徳を積みたいですね。」


苦笑いで天は返した。


「実は、天に閻魔王から出頭依頼が来ているのだ。」


「え?僕に。」


「ああ。そうだ。俺も同行する。」



翌日、天とクハンダは閻魔王の前に立った。


以前に閻魔王と会った場所は大ホールのような裁判所だったが今回は直接の部屋に呼ばれていた。普通の会社オフィスの一室のような殺風景な部屋だ。

閻魔王も以前は巨人のように大きく見えたが、今は大柄だが普通のサイズに見える。


「クハンダ師匠。閻魔王様は体のサイズを変化させられるのですか?」


天はクハンダに小声で聞いた。


「はっははは。天君。君は私の体格が以前は怪物のように巨大に見えていたのであろう?私は前よりこの体格だ。人は自分の精神状態により随分、物の見え方が変化するものだからな。

地獄の軍人並みに力をつけた今は自信もついたであろう。それも今の君の成長の証だ。」


天は小声で言った言葉を聞かれてバツが悪かった。しかし、それとは裏腹に自分の成長を実感として確信できて嬉しかった。


天は密かに「地獄耳だ。」と呟いたとか呟かなかったとか……。



「それで本件だが天君、君の様子はクハンダから報告を受けておる。十分に天界で生きていけると私は判断した。したがって本日をもって天界への帰還を許す。」


「あ、ありがとうございます!」


天は満面の笑みで喜んだ。


クハンダも横で嬉しそうに頷く。


「でも、どうやって帰るのですか?」


「うむ。迎えが来ておる。」


後のドアが空いた。

入ってきたのはガルーダだった。


「久しぶりー♪随分いい男になったわね。そろそろかな?と思って迎えに来たわよ。」


やはり、ノリが相当に軽い。


「じゃ。ありがとうね! 又、来ることがありそうだけど、もう行くわ。」


「お世話になりました。」


天は深々と閻魔王とクハンダにお辞儀をした。


「じゃあな!天界の俺にヨロシクな!」


クハンダは冗談で天の帰還を祝福した。



閻魔王の宮殿を出たガルーダと天。


「これからどうするのですか?」


ガルーダは無言で両手を広げた。


「はっ!」


気合いと共に ガルーダの体は、みるみるうちに大きくなっていった。

炎のように燃えているように見える。

両腕が巨大な翼になり、不死鳥の姿になった。


「えー!」


天は仰天した。


「さ、いくわよ。」


ガルーダは天を乗せて大空に飛び立つ。


「ガルーダさん?本当に世界の境界を越えれるのですね?」


「時間だって越えられるわよ。」


ガルーダは微笑みながら応えた。


「でも、飛べるなら地獄に来るときも、そうしてくれれば良かったのに。」


天は笑いながらガルーダに聞いた。


「この姿を見せるのは本来、禁じ手なの。ましてや凡夫のあなた達を異世界の境界線を越えさせる事もね。

今回は特別なのよ。

それほどまでに天界王のやっていることは十界の世界の理に影響を与える悪行なの。」


「ガルーダさんは誰かの指示で動いているのですか?」


「しいて言えば大宇宙の真理かしら?」


ガルーダは少し笑いながら言った。


「だから、天君が正しい考えと行動をしたなら、必ず正しい結果になるわ。」


「なんか、僕が天界に来たのもはじめから解っていたかの様ですね?」


「それはどうかしら?生ある者は意志があって、そのときの感情によって動くからね。状況は日々一刻と移っていくわ。」


「天界王とテン王子はこれからどうなるのでしょう?」


「それは、彼ら本人次第ね。

大宇宙はどんな事があろうと、ただ永遠に有り続ける。

天界王を含める命に限りのある者は自らの結末を自ら因を作って決めていくのよ。私たちはその者達が酷い結果にならないように慈悲をもって見守るだけよ。」


天はガルーダの話を聞いて何か使命のようなものを感じ始めていた。


先程までは天界に戻る事に漠然とした感情だったが、今は確固たる意志が芽生えている。


「成すべき事をやるだけですね。」


天はガルーダの背中の上でそう呟いた。




第一部完

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