第6話 そして、事は動き出した。

「バッダ様! 大丈夫ですか!!

誰かバッダ様に至急、手当てを!」


半死半生で宮殿に戻ったバッダを見た

衛兵達はあわただしく迎え入れた。


「……。」


無言で駆けつけた救護兵を押し退け、

ふらつきながら睨むような表情で

部屋に戻る。

そして、そのままバッダは意識を失った。


次にバッダが目を開けたのは

生命維持装置の中であった。


「百戦錬磨の貴方がここまで苦戦されるとは、天界の王子はやはり甘くは無いですね……」


目の前にいるのは最高司令官のアスラだ。


「申し訳ありません……。アスラ司令官。」


低くかすれた声でバッダ。


メノウ川の下流にて天とリュウの二人を逃した事と直ぐに再戦を望む事をアスラに伝えた。


「わかりました。しかし今は十分に養生して下さい。」


アスラは静かにバッダに伝えた。



この世界の領土のほとんどは天王軍の

システムで管理されている。

しかし、いくつかは違法のバリアシステムで管理から逃れている場所がある。


それが逆に違法者達の場所をアスラに教えていた。

メノウ川付近の管理から逃れているエリアを特定するのには時間がかからなかった。




ー自然豊かな山道ー


ガルーダの店から出た数キロのところに天とリュウの姿があった。


なぜかガルーダも一緒である。

ラクシュもついてきている。


「俺たちだけでいいのに、なんでついてくんだよ!」


馬車の手綱を握りながらリュウは悪態をついていた。


「だって、あなた地獄への行き方知らないじゃない? 親心よ。感謝なさい。」


貨車の中でなにやら嬉しそうなガルーダ。


「ごめんねえ。ラクシュちゃん。知り合って間もないのに同行なんか頼んじゃって」


ガルーダは悪びれていない様子だ。


「いいえ。私、行くところ無いし、むしろ

感謝しています。

それにガルーダさん達と一緒にいる方が安心できます。」


ラクシュも揺れの中で嬉しそうだ。


「ちっ!勝手にしろ!」


やれやれという様子のリュウ。



ー その夜 ー


少し開けた野原に馬車を置いて野宿中の

天達。


「うー……少し冷えるな。」


交代で見張りをしているのはリュウだ。


「いけねえ。小便、小便。」


用を足しに少しの間、持ち場を離れた。


その隙をつき、草影から荒々しい息を吐きながら、もの凄い勢いの影が馬車めがけて近いてきた。


中型の野獣、キメラであった。


「!」


リュウは異変に気付くが間に合いそうにない。


突進するキメラの牙が馬車のホロにかかる!


とその瞬間


キメラの体が発火した。

キメラの特殊な能力なのか?


そうではなさそうだ。

キメラは地に落ち、のたうち回っている。


「なんだ!なんだー!?」


天達も気づいて馬車から顔をだす。


「下がって!」


ガルーダが皆をかばう姿勢をとる。


リュウもようやく駆けつけた。

が、状況がよくのみこめない。


「なんだ、こりゃ?!」


困惑するリュウ。


そうしていると、

もう一頭、草影からキメラが

飛びかかってきた。

今度はリュウの槍の一振りで

キメラは一刀両断された。


「ちっ!囲まれたか。」


緊張が走る


天は無意識に馬車から飛び出していた。

腕に装着しているチャクラムを投げようとするが、重くて上手くいかない。

焦りの中、無我夢中で唱えた。


「ガッシュ!」


更に連呼する。


「ガッシュ!」「ガッシュ!」

「ガッーシュ!」


天の指先から例の絵の具ような物質が

大量に草影目掛けて放たれた。


それらは殺傷力はないが

キメラ達の目鼻に直撃した。


キメラ達は怯んだ。又、蛍光ピンクという

発色の良い色を出したため、

移動するキメラの姿が良く見えた。


「よし!でかした。天!」

とリュウ。


又、リュウの槍が縦横無尽にキメラの群れを

切り裂いた。


「スパッタリング!」

天は唱えた。


馬車の周りを霧状の物質が包む。


「乗って下さい!リュウさん!」

と叫ぶ天。


「おう!」

リュウは馬車に飛び乗った。


天達は足早にその場を後にした。


「やるな!天!この分じゃ、この先も心配はないな。」笑顔でリュウ。


「いや!いや!ちがいます。違うんです。何かおかしいんです。」


と怯えながら天。


「僕の意思と関係なく、体が勝手に動くんです。」


天は、まだ震えている。



「平行世界ってしってるかしら?パラレルワールドの方が馴染みがあるかもしれないけど。」


ガルーダは天に言った。


「人間界と天界はある意味、平行世界とも言えるわ。あなたは本当にテンなのかも知れないわね。」


ガルーダの見識は広い。妙な説得力があった。


「ところでキメラは何故、燃えたのでしょう?」


ラクシュは皆が疑問に思ったであろう質問を聞いた。


「どこかに頼もしい助っ人がいるのかもな。」


皮肉めいた口調でリュウは言った。



馬車の外にはリュウの予想どうりに

天達を追う影があった。


「安心してね。ちゃんと見ててあげるから……。」


天達の動向を監視するズメイである。

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