第5話 僕は魔法使い

ガルーダは満足そうに天を眺めていた。


「テンの残留思念のせいか、それともこの坊やの気質なのかはわからないけど、なかなか根性あるわね。」


「使い物になるか、わからねえけどな。

まぁ、案山子にはなりそうだな。」


リュウも満足そうだ 。


「口が悪いわね。こういう子、ほっとけないくせに。」


ガルーダはくすりと笑った。



「ありがとうございました……」


かぼそい声の主はさっきまで大男二人に

絡まれていた女性だ。


「あなたは?

この辺じゃ見慣れないけど……」


「私はラクシュといいます。」


「あなたみたいな可愛い子が一人で

こんなところにいるなんて。

何か訳がありそうね?」


「はい。私は天王局の秘書室におりました。

でも失敗ばかりで……

先輩や同僚からのあたりがきつくて、居るのが辛くて逃げてきちゃいました。」


「あら大変。秘書室の局員が失踪中なら今頃天王局は大慌てね。」


「そんなことないですよ。私、新米だし。」


「そんなこと大有りよー。」


愉快そうに笑いながらガルーダ。


「そりゃあな!天界王もまだ悪だくみを

世間に知られちゃまずいからな。」


リュウも愉快そうだ。


「ところでどこの管轄だったの?」


「主に軍部です。」


「ますます、ダメなやつだわ。これは!」

「追っ手がくるぞ。間違いなく。」


「そんな……。」


「ねえ、あなた。ウチで働かない?」


ガルーダは抜け目がない。

何かあったときに備え

天界王との交渉のカードとしてラクシュを

手元におきたいのである。



「その様子じゃ住むところも困っているでしょ? 2階に空いてる部屋があるのよ。使ってくれると助かるのよ。それにこう見えて頼りになるのよ。あたし。」


「ありがとうございます!

助けてもらった上に仕事と住むところまでいただけるなんて。」


「いいのよ。それにお礼ならそこでのびてる坊やに言ってあげて。」



「ほら!いつまで寝てんだ!」


リュウは天を抱え起こした。


「?!」


目を覚ます天。


「僕、どうしちゃったんだろう?」


先ほどの自分の行動を思い出すが、まだ信じられなかった。


そんな違和感もつかの間、目の前にいる天女に天は目を奪われた。


「先ほどは本当にありがとうございました。お礼をしたいのですが、よろしいですか?」


天は上の空で生返事をした。


「では。失礼しますね。」


ラクシュは天の両手を軽く握り目をつぶった。


「とても澄んでいて濁りのないオーラですね。それにあなたは芸術を愛する心を持っているのですね。」


何か念のようなものを天に送り続けた。


「終わりました。」


そういうとにこりと笑った。


「私の魔力をこの方に分けました。能力と資質を最大限に活かす事ができますよ。」


天は何だか理解出来ない様子だったが体は反応していた。

体温が少し上昇した感じで胸のあたりがムズムズしだした。


「思った言葉をそのまま言ってください。」


又、にこりと笑いながらラクシュは言った。


「ガッシュ!!」


吐き出すように天は言った。


天の指先から絵の具のような物質が飛び出した。


「うわ!うわわわ!」


天は驚いたが、すぐにその魔法を理解し制御した。

空中に舞うその物質を天は自在にあやつる事ができたのである。

思った様々な色を出すことができ、空中に絵を描き出した。


「はははっ!これ楽しいね。」


天は見事な風景画を空中に描き出した。

正面の壁がちょうどいい具合に空いていた。


「ねえ。そこの壁にこれ、いいかな?」


天は意気揚々とガルーダに聞いた。

先ほどまでのおどおどした態度も無い。


「素敵ね。いいわよ。」


その無邪気な天の様子を見てガルーダも嬉しそうに了承した。


「それっ!」


両手をつきだすアクションによりその空中に描かれた美しい風景画は壁画になり店内を美しく飾った。

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