第4話 ガルーダの店
天とリュウが命からがら逃げ込んだのは、様々な種族が集まる活気のある集落だった。
そこの裏路地に隠れるようにある小さな古びた酒場で二人は息をついた。
「ここは、どこなんですか?
あなたは……?」
と恐る恐る天は聞いた。
「おいおい。まだ言ってやがんのか?
俺は相棒のリュウだろが!
ここは天界の外れ。
で、お前はその天界の絶対支配者の息子で
反逆罪のお尋ね者のテンだ!」
「どうだ!納得したか?
その坊っちゃんキャラもやめろ!
気味が悪い!」
リュウはまくしたてた。
「おやおや。どうかしたの?」
カウンターから話しかけてきたのは店の
マスターのガルーダだ。
細身で品のある壮年だが何者にも屈さないという風格がある。
性別は無いと本人は言っている。
年齢も不祥だ。
「いや、テンの奴がふざけてるんだよ。」
リュウは天界王の攻撃を受けて死にかけた事、それからテンが復活したこともガルーダに話した。
天は相変わらずオドオドした様子だ。
「んー……
確かに様子がおかしいわね。どれどれ。」
ガルーダは骨っぽい人差し指で天の眉間を
軽く指した。
「なるほど……
中身は別人ね。あなた、誰なの?」
「僕は五条 天。日本の高校生です!突然、大きな火の玉が降ってきて、気を失って。気が着いたらここに居て、目の前にこの怖い人がいて、それからっ!」
「もう、いいわ。」
ガルーダはおだやかに天の言葉をさえぎった。
「さて……リュウ。これからどうするの?この子、テンじゃないわよ。」
「じゃあ、テンはどこにいんだよ……」
顔色をかえてリュウ。
「さぁ。死んじゃったんじゃない?いいじゅない。どうせ、行く予定だったんでしょ。閻魔王のところに。」
ガルーダは微笑した。
「一人じゃ無理だ。テンがいたから
計画したんだ。」
リュウは天界王が天界のみならず地獄界、人界を制服しようと企んでる事を閻魔王にリークするつもりだった。
「方々から狙われる上に地獄界で訴えても、ただの竜神の俺が言っても信じないだろ。天界の王子の言葉が必要なんだよ。」
頭を抱えるリュウ。
「もし、テンが地獄界にいるなら一人で閻魔王に会いに行ってるんじゃないかしら?」
ガルーダはテンの性格を良く知っている。
「でも、天界王がわざわざ敵を閻魔王の元にやるようなヘマはしないよねぇ?」
と続けてガルーダ。
天が言葉を挟んだ。
「あの……
たぶんですけど。根拠は全くないんだけど、そのテンさんは僕の元に居たところにいるんだと思います。」
「!!」
「どういう事だ!!」
「詳しく聞かせて。」
リュウとガルーダは驚嘆した。
「僕が光に衝突した時に声がしたんです。ちくしょう!!天界王!覚えてろ!必ず戻ってやる!と言ってたと思います。」
天は細かく説明した。
「はははは!間違いねえ。」
「そうね。テンだわ。」
「で、あなたの言う日本というのはどこなの?」
「あなた方のいう人界にあたるところだと思います。」
「やっかいだな……」
「そうね。」
「地獄界には行けるみたいでしたけど同じように人界には行き来はできないのですか?」
「人界はね、少し事情が違うのよ。善と悪と呼んでいいのかわからないけど、二つの両極端の要素が絶妙なバランスで混在する世界なのよね。人界は。」
「天界や地獄の者などが人界に踏み込むとそのバランスを崩しかねないのよ。だから閻魔王はもちろんの事で、天界王も生身では踏み込まないのよ。」
「そうですか……」
天は、もしかしたらすぐに帰れると期待したが、かなわないと覚り落胆した。
少し離れたテーブル席がなにやら騒がしい様子。
「うへへへへ!こっちに来て、酌をしろー!」
「いや!やめてください。」
たちの悪そうな二人組が騒いでいる。
場に馴染んでいない様子の女性が絡まれているようだ。
「ちょっと、あなた達!私の店でなに騒いでいるのよ!!」
「うるせえ!!ばばあ!ん?おっさんか……。うわははは!」
下品な笑い声が響きわたる。周りの客達も迷惑そうだ。
ガタン!
「いい加減にしてください!!」
天が立ち上がり、先ほどまでとは別人のようなオーラを放っている。
天自身も驚いていた。なにしろ今までの人生で喧嘩はおろか、怒った事もないのだ。
体が勝手に反応したのだ。
「おー!言うねえ。」
リュウは意外な天の様子に喜んでいるようだ。
「んだぁ!てめえ!」
「やるのかぁー?おー!」
二人組はこちらにゆっくり向かってきた。そろって2メートルを越す大男達である。
天の眼光は鋭く、変わらず2人を睨んでいる。が、微妙に足は震えている様子だ。
「うーん。反射的にでた言動か。大丈夫か?」
リュウはやれやれといった表情で遅れて立ち上がろうとした。
「!」
「おい。アニキ、こいつはもしかして、お尋ね者のテンじゃねえか?」
「後ろのやつも知ってるぜ。竜神のリュウだ。天王軍の1部隊を一人でぶっ潰したやつだ!」
態度が急変した二人は顔色を変えて店から出ていってしまった。
天は放心していた。
そして緊張が解けたせいで足元から崩れ落ちたのだった。
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