第3話 ようこそ!天界へ

森を抜けたテンとリュウは帝都の越境地点で

足止めをされていた。


天王軍の警備兵に囲まれているのだ。


「もう少し行ったら逃げ切れるぞ。

気をぬくなよ!リュウ!」


「当たり前だ!テン!

こんなところでくたばってたまるか!早くガルーダの店でうまい酒をのもうぜ!」


目の前のメノウ川を越え、そこから数キロのところに目指す場所はある。


普段なら楽に行く事ができる場所でも今は力を使い果たし、手負いの状態である。

目的の場所はほどほど遠かった。


と、その時


頭上から轟音が轟き、辺り一帯が光に覆われた。


ゴゴゴゴゴ。


「やばい!伏せろ。リュウ!」


巨大な閃光が一直線にこちらに向かってくる。


ビッシャーン!!ドドドドドドー!!


二人はなす術なく、その光に直撃した。


リュウは竜神ならではの硬い皮膚により命はとりとめた。


一方テンの方は、かなりのダメージを受けた様子だ。


「テン…… 生きてるか。」


「……」


「おい。冗談よせよ。へへっ。なぁ。おい。」


「……」


「おい!てめえ、ふざけんなよ。きたねえぞ!おい!目をあけてくれよッーーー!」






2021年 日本


チチチ!チチ!


美しい数羽の山鳥が美しい森の中で囀ずる。

とても晴れた心地よい午後だ。


町から山頂まで伸びている一本道を少年は歩いている。目一杯森林浴を楽しんでいるようだ。


目的地に着くと少年は一息ついた。


「今日は美術部部長としての最後の部活かぁ。」


五条 天(ごじょう てん)は高校生活最後の部活動の場所として校舎の裏山に来ていた。


「ここは、本当によくきたなぁ。僕だけのお気に入りのスポットだけど、もう来ることもないかな。優雅なボッチ生活も終わりだ。」


美術部員は5人いるが天以外はいわゆる幽霊部員で、実質は一人だけの部である。


少し開けた高台からパノラマに町が見下ろせる最高の場所に陣取りイーゼルを立てた。


A2サイズのスケッチブックを開くと完成間近の風景画が顔をだす。


「いつ来ても言い眺めだなぁ。」


意気揚々と筆を走らす。


山は紅葉の時期。

色とりどりの山鳥達が更に風景の美しさを際立たせた。


昨日の寒さが嘘のように今日は暖かな日だ。


「あー。今日はいい天気だなー。太陽がいつもより近く感じるよ。」


うららかな空気の中に少し違和感を感じた。


「ん?……」

「なんか、ほんとに近くない?」


ゴゴゴゴ!


「え!!」


巨大な火の玉が一直線に頭上に向かって落ちてきていた。


「え?、ちょっと待って!え?えー!?」


光は天を包み込むように覆ってきた。痛みはなかった。

しかし、体のコントロールは効かず何かに流される感覚だ。


何か聞こえる。


「……!!……!っー!」


不思議な空気に包まれながら天は光の中で自分ではない何者かの声を聞いていた。



ドッドーン!!!






「んっ、んー……。ここは……?どこ?」


天は目を開けた。


「おっ?おっー!!!

ははっ、はっ。本当に目をあけやがった!」


天の目の前に最初に目にはいったのは泣いているとも笑っているともとれる表情の長髪、無精髭のいかつい男だった。竜神リュウである。


「あの。あなたは誰……ですか?」 


「なんだぁ? 何とぼけてやがる!!

とにかく、良かったぜ!!

よし!逃げるぞ!テン!」


あきらかに今までいた所とは異質の光景だったが、ひしひしと感じる緊張感に圧倒された天はリュウの後に着いて行くしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る