第2話 ランナウェイ
天王軍の武器庫に無断で侵入中の若い
二人組。
「おい、テン。本当に大丈夫なのか?」
「自分の国の備品をさわって問題あるわけがないだろ。」
天界の王子テンと幼馴染みで竜神のリュウである。
「おー!すげー槍があるな。伝説のトライデントじゃないか!これもらうぜ。」
リュウは武器マニアなのか終始ご機嫌である。
「おー。持ってけ。俺はこれかな?」
テンは環状のひときわ鋭く光る二振りの刀を手に取った。
「チャクラムか?マニアックだな!」
リュウは本当に武器に関して博識である。
入口付近からテンのよく知っている威圧的なオーラが近づいてきた。 それも二人。
天界王と軍部最高司令官のアスラだ。
なにやら不穏な会話が聞こえる。
「地獄最下層に幽閉中のサターンの事だが、問題はないか?」
「はい。順調にプロジェクトは進んでおります。しかし、それは彼が目覚めるまでにはあと3年程はかかるかと思います。」
「そうか。」
「天界王様、無礼を承知のうえ、申し上げます。サターンを復活させるには少しリスクが大きいように思います。腐敗した人間界を天界に吸収し支配下におくなら私にお任せ頂ければ充分かと存じます。」
重い空気が流れる。
「アスラ。出すぎじゃ……」
静かに発せられた短い言葉はこの上なく殺気を含んでいた。
「はい……」
アスラはそれ以上何も言えなかった。
この時はまだアスラを含め、誰も天界王の狂気に満ちた本当の野望を知るよしはなかった。
「なんか、やばい話聞いちゃったかな……」
リュウは思わず呟く。
「今、しゃべんじゃねー……」
事の重大さはテンの方が理解していた。
その小声での会話をアスラは聞き逃さなかった。
「誰だ!」
勢いよく武器庫の扉が開いて薄暗い部屋を廊下の明かりが照らした。
〈バレた!〉
アスラと目が合うテンとリュウ。二人は瞬時に窓の外へ飛んだ。
「まだ、誰にも知られてはならぬ事だ。構わん、始末しろ。」
天界王から無情の言葉が発せらた。
アスラは一瞬耳を疑ったが先ほどの殺気に満ちた言葉から天界王は本気だと悟った。
アスラはすぐさま手元の特殊な端末より部下に指令をだす。
軍部敷地内を逃げるテン達を狙い容赦なく銃撃が放たれた。
二人は銃弾を避けながら逃げるが、すぐさま天王軍の兵も追いつき襲いかかる。
「上等だ!」
リュウは先ほどのトライデントを構えた。
「オウリャー!」
そして、力任せにその槍を横一直線に振った。
その威力は絶大で風圧だけで20数人ほどの兵が吹き飛んだ。
テンも環状のチャクラムを軍勢に向かって勢い良く投げた。
すると、まるで意思があるかのように的確に相手の急所目掛けて攻撃をおこない再びテンのもとにブーメランのように帰ってきた。
「おおッ!すげぇ。」
「おっしゃ!このまま逃げるぞ!」
近くにあった軍の二人乗りホバーバイクにまたがり、テン達はなんとか敷地を出ることに成功した。
しかし、天王軍は空からもしつこく追いかけてくる。
「森に入るぞ!」
このあたりの地形はテンとリュウは熟知していた。
「そこは左だ!」
「OK!」
猛スピードの中、ハンドルを素早くきる。
ドドバーーーーン!!
一台、また一台。
追っ手のバイク部隊は森の木々に衝突し散っていった。
森の内部でホバーバイク部隊はその地形の中で二人とのカーチェイスに翻弄され近づく事が出来なかった。
また空からのヘリコプター部隊もうっそうした森の木々にさえぎられ二人の姿を追うのには困難だった。
不幸な事に森の中に巣食うドラゴンの巣に
ミサイルを誤射し、彼らを怒らせてしまった為、その牙により機体が大破してしまうのであった。
「よし!全員まいたようだ。森を抜けるぞ!リュウ。」
猛スピードの中、安堵するテン。
「イーッ ヤッホーッ!」
リュウもガッツポーズで雄叫んだ。
〈 ! 〉
安堵した二人の前方に突如、大柄の男が現れた。
明らかに今までの兵とは違い強大なオーラを放っている。
天王軍屈指の兵、バッダであった。
獣人族の最後の生き残りで最強の戦闘力を持つと言われた男である。
アスラからの信頼は厚く、この男の活躍により天王軍は安定した地位を得ていた。
「どけーーー!バッダァーーー!」
テンはかまわず、立ちはかだるバッダに突進した。
「フンッ!」
ガッシィ――!
物凄い衝撃音が辺りに鳴り響く。
バッダは微動だにしすることなく無表情でテン達の乗るホバーバイクを真っ向から受け止めた。
そして、そのままバッダは恐ろしい怪力でホバーバイクごと二人を持ち上げ頭上の後方へ放り投げたのであった。
たまらずテンとリュウは空中でホバーバイクから飛び降りた。
二人は着地と同時にそれぞれ攻撃に転じた。
リュウは槍で鋭い突きを繰り出す。
テンは勢いを殺さず素早くチャクラを投げた。
バッダは同時に飛んでくる鋭い攻撃に怯むどころかそれぞれの武器を弾じき飛ばしたのだった。
「くっ!」
「マジかよ!バケモノめ!」
バッダは背中に背負った大剣ををすらりと抜いた。その剣は不気味なまでに禍々しい妖気を
放っていた。
「あれは、魔剣ディランダル……か?」
武器マニアのリュウは呟く。
後ろは崖で逃げ場はない
テンとリュウは弾じかれた武器をす
ばやく回収し構えをとった。
ピリつく空気が張り詰める。
バッダはテンに向かって凄まじい踏み込みで間合いをつめた。
万事休すだ。
次の瞬間
リュウは足元の地面を目掛けて力いっぱいトライデントをつきさした。
すると地面が激しく砕け、3人共々に崖下に落ちていった。
下は激流の川であった。
「水の中なら龍神のテリトリーだぜ!くらえ!」
リュウは流れる川の水を自在に操る能力がある。巨大な渦を作りバッダをその中に引きづり込んだのだった。
川から這い上がったリュウとテンは疲弊しきっていた。
「くっ…… だいぶやられたな。へばってないか?リュウ!」
「当たり前だ!しかし、ひでえよな。いくら逃亡者っていってもお前は天界王の息子だぜ。なあ、テン。」
この森での逃走劇にはテンとリュウ、天界王の軍勢の他に目撃者がいた。
ズメイである。
彼女は時に微笑し、又、真剣な眼差しで一部始終を眺めていた。
通信機を手に取るズメイ。
「面白い情報があります。アグー様……」
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