幕間劇①
怪人の暗躍①
アリエルが龍の領域を去ったあと、怪人ロナルド・フォクシーは龍の女王マルキア・アーリスレクスと対峙していた。
「さて、天宮の一族の母よ。この状況を説明していただけるかな?」
怪人が龍の女王を鋭く睨みつける。
女王は不快なものを目にしたかのように鼻を鳴らすと、吐き捨てるように言う。
「お前の魔の手からあの哀れな小娘を解放してやったまでよ。」
「はて?魔の手とはいったい。皆目見当もつきませぬな。」
怪人が両手を挙げて首を振る。
「白を切るな。私はお前の素性に心当たりがある。同族喰らいの“怪人”め。お前はあの娘を優れた魔法使いにしてまた喰らうのであろう。」
「いったい、何を仰るのかと思えば。女王陛下はお戯れが過ぎますな。」
怪人の嗤い声が草原に響き渡る。
「道化が。今ここで殺してやろう。」
龍の女王がそう宣言すると、周囲の龍の一族たちが怪人に襲い掛かる。
ある者は爪を立て、ある者は顎を開き、またある者は灼熱の魔法を展開し、怪人の身体を蝕む。
怪人の身体は一瞬にして肉を引き割かれ、骨を噛み砕かれ、骨を焼かれて灰になり消滅する。
龍たちは標的の絶命への確かな手応えを確認すると、攻撃をやめた。
「いやはや。天宮の一族のおもてなしとは些か過激ですな。」
頭上から確かに殺したはずの男の声が響き渡る。
龍たちが空を見上げると、そこには埃一つない姿の怪人が龍の一族を見下ろしていた。龍たちは飛び上がり、追撃にかかる。
「ふむ。少々、ギャラリーが多すぎるな。お前たちには眠っていてもらおう。」
怪人が指を鳴らすと女王以外の龍たちはみな、こと切れたように地に伏していった。
「安心したまえ。殺してはいない。」
「……お前は何を企んでいる?」
怪人は帽子を深くかぶり直し、白い牙を覗かせると勿体ぶるようにこう言った。
「劇の団員以外に劇の結末を言ってしまっては元も子もない。それを知りたければお前も私の劇の一員となることだ。マルキアよ。」
「面白い。お前は私を試すというのか。」
「ああ、そうだとも。龍の女王よ。お前が私の脚本の一員として相応しいか試してやろう。お前に私を殺すことはできない。」
怪人が手杖の持ち手を龍の女王に向けて言い放つ。
「全身全霊でかかってくるがいい。龍の女王マルキア・アーリスレクス。」
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怪人ロナルド・フォクシーは龍の洞窟の前でテーブルセットを用意すると、そこに腰かけて紅茶を飲み、思案していた。
龍の女王マルキア・アーリスレクスは見込み通り、私の劇の一員として相応しい。
まさか、その気になれば大陸を一つ破壊しつくせるほどの強大な力を秘めているとは思いもよらなかった。
時が来れば、天宮の一族諸共、舞台に上がってもらおう。
観客を魅了するには彼女ら一族のカリスマが何としても欲しい。
太古の昔より、人々は龍を畏れ敬うものなのだ。
彼女らの参加の是非は問わない。これは決定事項だ。
必要な時にいつでも私の意のままに操り、利用することができる。
私は彼女たちのことを知っているのだから。
それから、弟子の少女について思いを巡らす。
あの娘は私が思った通りに才能豊かで素直に育ってくれた。
山に仕掛けた惑わしの結界も大胆で人目を憚らない方法ではあるが、私の予想外の方法で攻略してみせた。
実に面白い。私はあの娘の成長が楽しみで仕方がない。
時期に彼女はあの“時の止まった隠し部屋”すらも攻略してみせるだろう。
だが、まだ足りない。あの娘を優れた魔法使いに仕上げるにはまだ力がいる。
その為に次はどんな試練を用意しようか。
怪人は紅茶を口に含むと、笑みを浮かべて虚空に問いかける。
「さて、我が愛しの弟子、水瓶の精霊に選ばれし少女よ。お前はこの先どんな踊りを私に見せてくれるのかね?」
夜逃げ少女と幻の魔法使い 岡矢 射懐 @a97120k
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