40.女子会は女子トークが華やぐものです
二月も後半になると、学校に行く日はめっきり減った。
もちろん必要な時は行くけど、結果が出た私にその機会は少ない。
ということはクラスメイトと会うことも減るんじゃないかと思うところだけど、むしろ逆に増えてるくらいだった。
周りの受験が終わるのをぐっと待っていてくれていた久美や、つい先日結果が出た絢ちゃん。
そして、せっかくならみんなでと誘ってくれる斉木さんの姿もある。
今日は女子会という設定らしく、結構な人数でショッピングモールに来ていた。
「朋乃ー、これ着てみてよ」
「ちょ……どうしてそんなミニスカート?」
「もうそろそろ春だしいんじゃない? あ、絢も着る?」
「わたしはロングが好きだから」
そんな感じで高校生に優しい価格帯のお店で服を見たり、フードコートでご飯を食べたりと、結構みんな好き好きに遊んでる。
私は久美の着せ替え人形となり、その中で気に入った服は買うことにした。
こういう機会があるおかげで一般的な女子高生になれているんだから、感謝するべきだろう。
満足する買い物をしてからフードコートに行くと、窓際の一角にやんわりとみんな集まっているようだ。
空いてるテーブルに陣取ると、買ってきたたこ焼きとジュースを広げる。
うん、美味しそう。カロリーが気になるけど、買い物で動いたからいいよね?
そう言い訳をしながら三人で熱々をつついていると、久美がまじまじと私の顔を見ていた。
「最近学校ないけど、一ノ宮と会ってるの?」
「えぇ……?」
そんな突然の質問に、うっかりたこ焼きを落としそうになってしまった。
いきなりなんですか、ぶっこみですか。
たこ焼きを楊枝で半分に割って冷ますことにしていると、話を聞きつけたのか斉木さんまでやってきた。
「玄瀬ちゃん、やっぱ一ノ宮といい感じなの? やるじゃんあいつー!」
「あのね、そういうんじゃ……」
「じゃあ連絡してないの?」
「してる、けど……」
勉強という名目がなくなればお家にお邪魔することもなくなるし、わざわざ外で会うこともしない。
スマホでのメッセージは毎日のようにしてるけど、それはお薦めアニメの紹介が多いわけでして。
つまり、それぞれ引きこもってソロで楽しんでるわけですよ。
そんな理由だからみんなに詳細は語れないけど、連絡自体はしてるんだからそう答えるべきだろう。
「付き合ってるのにそれでいいの?」
「いやいやいや、付き合ってないから!」
「うっそ、まだなのっ!?」
斉木さん、そんな大声出さないで!
楽しそうに談笑してたみんながこっちを気にしちゃってるじゃん!
そして口々に驚きの声を上げるのはどうしてなんだろう……。
私、付き合ってますとか言ったことなかったよね?
「私と一ノ宮くんは、別に……仲はいいと、思うけど」
「朋乃は、一ノ宮くんをどう思ってるの?」
しどろもどろの返答に対し、隣に座っていた絢ちゃんが平然とした口調で聞いてくる。
あのですね、一対三は不公平だと思うんだ?
「もう卒業なんだからさー、教えてよー!」
斉木さんの言葉にうんうんと頷く二人。そして周りのクラスメイト女子。
ええっとね、一対三どころじゃなくなっちゃった……。
私に集中するいくつもの視線にたじろぎながら、半分に割ったたこ焼きをつんつんとつつき回す。
「その、一ノ宮くんは……格好いいと、思うよ?」
「それだけー?」
斉木さん、反応早いよ。コミュ障気味の私にはペースが追いつかないよ!
いつの間にか水滴がつき始めていたジュースを一口飲み、ペーパータオルでカップを拭き取る。
「仲良く、してくれてるし……一緒に居ると、楽しいけど……」
それって、一ノ宮くんにとっては普通のことなんじゃないかな?
楽しいことが大好きな一ノ宮くんは、誰と居たって全力で楽しむ人だ。
だから私に対してだって、そういう意味なんじゃないかな……。
「一ノ宮くんにとっては、私はやっぱり友だちなんだと思うよ」
「あちゃー……精神年齢の低さが徒となったかぁ」
そう言うと斉木さんはぺちんと自分のおでこを叩き、しまったというような表情を浮かべる。
そう、そこなんだ。
こっちからだとそういう意味の行動なんじゃないかって思うことでも、一ノ宮くんがそう思っているかは分からない。
私の中にある気持ちと一ノ宮くんの気持ちは、全然違う可能性が高い。
大事な友だち、では居られてると思う。
でも、それとは違う方向の関係は……彼の中にはないんじゃないだろうか?
「じゃあ、朋乃の気持ちは決まってるんだね」
集中していた視線が散った後の絢ちゃんの言葉に、私はぐっと息を詰まらせた。
一ノ宮くんの気持ちは分からない。だけど、私の気持ちはちゃんと分かってる。
口にすることはないかもしれないけど、それだけは確かだ。
だから小さく頷くと、絢ちゃんはぽんと私の頭に手を乗せた。
「朋乃は可愛いよ」
「……なんでそういう話になるかなぁ?」
すると正面に座った久美と隣に立っている斉木さんまで私の頭を撫でてきた。
「玄瀬ちゃん、いい子だね!」
「うん、いーこいーこ」
「だから! どうして! そうなるのっ!?」
三方向から頭を撫でられながらの反発は、誰にも聞いてもらえなかった。
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