第8話 惨劇の1日

 カルロッタ様とアロルド様とヨニーに私は教室で何かが起こることを待った。

 辺りが薄暗くなってきた。


「本来なら卒業パーティーに顔を出す時間なのにな!もうとっくに遅れているし、私を探す者もいるだろうな!」

 とアロルド様に睨まれる。


「……申し訳ありません王子。明日巻き戻ったらそのイライラも消えます。ここでの記憶も全てなくなります。カルロッタ様も同様に」

 カルロッタ様はため息をつく。


「私も巻き戻れたら証明になるのに…お二人だけ巻き戻れるなんて…」

 因みにヨニーが巻き戻れるアクセサリーを持っていることは隠して伝えてある。


「そんなのホラに決まっている。カルロッタ…何も起こらないよ」

 と王子が言った後に地鳴りのようなものが起こった!!


「うわっ!!?」


「きゃあ!!」


「何かに捕まるんだ!!」

 とヨニーが咄嗟に言い、王子はカルロッタ様と机の下に隠れた。

 私はヨニーに頭を抱えた形で守られた。

 揺れが治ると王子は


「何だ今の揺れ!?」

 と机から這い出してきた。


「何か起こりましたね」

 とヨニーが王子にそれみろと言わんばかりに顔を向ける。


「……確認をせねばならない!お前達が細工したのかもしれない。カルロッタ!信用してはいけないよ?」

 とまだ疑っている。同じ場所にいたのに。


「では会場の方に行ってみますか?」

 と皆で移動を始めた。しかし…何か嫌な気配を感じた。会場からだ。


「何か変だ…魔力の暴走のようなものを感じる…」

 と王子が敏感に悟った。魔力の感知だけはこいつ得意ですからね。

 会場に近づくと悲鳴と血の臭いがした!!ただ事ではない!!


「王子!カルロッタ様!アンネット様も危険です!明らかに異変が起こっております!会場に入らない方がいいのでは!?」

 流石のヨニーも異常事態に緊張した。


「しかし…どうみてもおかしいし、悲鳴も上がっている!何か起こっている!助けねば!」

 と王子が行こうとするのをカルロッタ様も止めた!


「ダメです!おかしいです!危険です!」

 と泣きそうに首を振る。


 そこでバンと会場の方の扉が開いた音がしてこちらに数人の者が走ってきた!王子や私たちの姿を見て


「ひっ!!たすけ…」

 そこでその走ってきた数人の教師と生徒達が一瞬にしてバラバラになった!


 え?

 あまりの惨劇に声が出なくなったがカルロッタ様のつんざくような悲鳴で我に帰る。


「きゃああああああ!!」


「カルロッタ!見るんじゃない!」

 と王子はカルロッタ様を抱きしめ見せないようにした。


 それから…意を決して前を見ると追いかけてきた黒い獣達がバラバラになった者たちを食べ始めた!


「ひっ!」

 ヨニーは私の口を抑えて慌てて結界を貼った!王子もハッとして結界を更に強固なものにして、黒い獣達がこちらに気付いて駆け寄りバシンと弾き飛ばされる。


「おい!何なんだあれは!?魔物!?ここは魔術学園だぞ!?通常の結界はどうなってるんだ!?」

 普段なら学園には外敵から身を守る為結界が張られているから外から魔物は入れない。


「……おそらく!内部からの攻撃ですわ!学園の結界が敗れたとは思えません!」

 と私が言う。


「なるほど…王太子の私を狙ったか!?」

 とアロルド王子は勘違いしている。どう見ても私への忠告だろう。私とヨニーとカルロッタ様は呆れたが無視して


「これからどうしますの?アンネット様!この結界もそう長くは…」

 とカルロッタ様が怯える。


「とにかく生きている人は?先生達は?」


「この時間…殆どの先生はパーティーに出席していただろう…空いている教師…など…あ…」

 とアロルド王子は思い出す。


「ファーゲシュトレーム先生なら?」

 マテウス・エリオット・ファーゲシュトレーム先生は人嫌いのくせに教師になった変わり者だ。いつも空いた時間は大体研究室に引きこもっている占星学の地味教師だ。


「先生なら研究室にいる!パーティーになんか出てないだろう!行こう!」

 と私達は研究室に向かって走った。しかし渡り廊下の向こう側からまた黒い犬みたいな獣が地面から湧いてきた!


「きゃあ!!」

 カルロッタ様が叫び飛び退く。


「おのれ!」

 とアロルド王子がバシっと魔法で攻撃すると獣が燃えて行く。


「どうだ!ざまあみろ!!」


「………いや、あれを…」

 とヨニーが炭になった魔獣を見ているとボコボコと身体が分裂していき、新しく魔獣が生まれてこちらを睨んだ!

 更にまた分裂を始め何体かに増えてしまう。これではラチが空かない。


「くっ!…分裂出来るのか!?殺しても無駄か!」


「魔力も残り少ないです!先程の結界もいつ破れるか…完全に挟まれています!」

 とヨニーも王子もハァハァと限界が近づく。


「私が時間を稼ぐから先に行け!カルロッタを頼んだ!」と王子が言う。


「ダメです!貴方は王太子ですわ!私が時間を稼ぎますからお二人とも逃げて!ヨニー!闘うわよ!」

 私は杖を出して構えてヨニーは魔法剣を取り出した。


「どうかお二人ともご無事で!」


「どうにか逃げて先生を呼びに行き、王立騎士団とも連絡を取って援護に来てもらう!それまで耐えろ!」

 と言うと結界を解き、私は魔獣達に攻撃魔法を放つ!ヨニーも魔獣達を一気に切り裂いた。王子はカルロッタ様の手を引き逃げた!


 頼んだわよ!

 私達は魔獣達を倒しても倒しても湧いてくるから一旦そいつらを纏めて結界に封じ込め逃げた。


 裏庭まで来て座り込み二人とも息をハァハァ整えた。ヨニーは傷だらけで私もあちこちドレスは破れている。

 かすり傷もある。


「ヨニー…平気?」


「お嬢様…こそ!こんな目に合うなんて…もう魔力尽きそうです…このままだと死にそうだ。うう」


「私もだわ。今襲われたら…」

 するとヨニーは私を抱きしめた。


「お嬢様…アンネット様…僕に力がもっとあれば…」

 と震えている。人が死に過ぎた。


「私が今まで通りにパーティーに出て断罪されなかったからこうなった?私のせい?」


「何故です?そんなわけありません!許せないのはこれを仕掛けた犯人です!」

 その時後ろの茂みから何か転がってきた!


「え?」

 ヨニーと私はそれを見て固まりヨニーは直ぐに私の目を塞ぐ!

 一瞬見えたそれは…王子の首だったように見えた。


 いつの間にか魔獣達に囲まれていた。

 モシャモシャと王子の身体を引きずっている。そこにカルロッタ様が現れて錯乱し魔獣に向かい魔法を打ち込んだ!


「うわぁぁぁ!!アロルドさまを!よくもっ!!」

 ドンドンと魔法を放つカルロッタ様の首目掛けて魔獣が飛びかかり鮮やかな血が舞い、カルロッタ様は魔獣達に喰われてしまう。

 動かない私の身体を何とか抱えてヨニーは逃げ出した。先生のいる研究室に何とかたどり着いて扉を閉めた。


「先生!先生!」

 と叫ぶと暗闇から先生が顔を出して


「あああ…恐ろしいことが起こった。学園長に何度言っても聞いてもらえなかった。私のせいじゃない!私の占いでは今日は災厄が起きると出ていたんだ!こんなことになるとは!」

 どうやら水晶で状況を見ていたらしく酷く錯乱している。


「先生…落ち着いて!とにかく連絡を…」


「もうした。王立魔法騎士団に連絡を入れてある。時期に到着するだろう!」

 と聞いて少し安心したが…ドンドンと魔獣達が扉に体当たりする音がした!


「ひいい!!」


「ヨニー!机を寄せて!先生結界を!」

 と先生は結界を張り震えた。

 とりあえず机やソファーを何とか扉に置いたりして防いだ。


 もう体力も魔力も限界で流石に私も倒れそうになるのをヨニーが支えた。窓から下を見ると高くて魔獣達は登れない。


 その魔獣達の赤い眼をみていると気分が悪くなる。ヨニーの胸に私は倒れた。


「お嬢様!大丈夫ですか!?」

 凄く疲れた。騎士団の声が遠くから聞こえた気がする。

 しかし私の意識はそこまでだった。

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