第9話 卒業式を欠席しました。
また朝が来た。
私の部屋のベッドでいつものように私は寝ていたのだ。部屋に飾ってあった卒業パーティーのドレスが目に入る。
昨日…あのドレスはボロボロになった。
そしてアロルド王子やカルロッタ様が無残にも魔獣に殺された。目の前であの赤い鮮血を思い出し私はついに吐いた。
すると侍女のメアリーが入ってきて驚く。
「お嬢様!?大変!!誰か!」
と人を呼び、そこへヨニーが駆けつけた。
「お嬢様!!」
とヨニーはさすりながらメアリーに
「すみませんが医者を!お嬢様は今日とても卒業式に出席できません!」
と昨日の惨状を知っているヨニーが言う。
「ええ!?で、ですが…」
とメアリーが渋ったが医者を呼びに行った。
「ああ…ヨニー…私もう…無理…怖くて…皆を見ただけで昨日のことを思い出してしまう!」
「お嬢様……今日はお休みしましょう!どこへも行かずに休んでください!」
「で、でも…行かないと皆…また殺されるかも…」
ヨニーはグッと私を掴み唇を噛んだ。
「だとしても!どの道巻き戻ります!惨劇をわざわざ見に行く必要もありません!酷い事を言いますが…僕は…お嬢様の方が大事です!例え誰が死のうとも!……今は…何もできないんです!どうする事も!」
「ヨニー…ううっ!」
と私はまた吐いた。
そこへお父様が入ってきた。
「アンネット!具合が悪いそうだが…今日は卒業式だぞ!?何とか回復薬を飲んでもダメか?」
とお父様は学年首席の私の立場からそう言う。
「旦那様!!お嬢様は無理です!お願いです!魔導人形に代わりに行ってもらいましょう!お嬢様の姿をさせます!」
とヨニーが提案した。
何故今までそうしなかったのか!身代わりを立てればいいんだ。
その後私の姿をした魔導人形が制服を着て出かけて行った。これで今日は普通に断罪されて終わるかもしれない。でももし魔導人形とバレたら…が恐ろしかったが、私は寝込んだ。熱が上がり医者から薬をもらい安静にした。
ヨニーはずっと側で額に絞った布を置いてくれたりした。
「ヨニー…私が昨日眠った後…どうなったの?」
「騎士団が到着して魔獣達を退治し我々は助け出され…僕とファーゲシュトレーム先生は事情聴取されました。ようやく終わったのは夜中で…お嬢様はその間保健室でお休みになられており僕は天球儀に光を集めて…とりあえず疲れて眠りました。
「そう…大変だったのね…」
「巻き戻ったのでもう大変ではないですよ……。混乱に乗じて犯人がどこかで見ていたかもしれませんが…もし今日同じことが起こっても学園内でのこと…心苦しいですが、また巻き戻るなら…命も巻き戻ると言う事です」
とヨニーは言う。
「でも…何も知らない生徒や先生達が殺されるのは辛いわ…」
「お嬢様…今は休息を…お水を飲まれますか?」
とグラスに注いでくれた水を飲み干す。
ヨニーは私の手を握り
「眠るまで側にいますから」
と言ってくれた。それにドキンとした。
ヨニーの気持ちを知っているし、最近はずっと一緒にいるし嫌でも距離は近く信頼でき安心できる存在へと変わっていたのだ。
「ありがとうヨニー…」
私も少し強く握り返し心配そうなヨニーの胸に頭をつけて泣いた。
昨日の惨劇は私のトラウマになりつつあった。
もう2度と皆が死ぬところを見たくない…。ここで休んでる暇など本当ならないのだろうけど、今は対策を考える事も出来ずただ、精神だけが疲れ切っていたのだ。
「アンネット様…」
空いた手を背中に回してヨニーは落ち着くようにさすってくれ、彼も本当は怖かったろうにどこまでも気遣った。
今の私にはヨニーがいる。もし…目の前で昨日のヨニーが殺されて記憶も消えてしまったらまた私は一人辛い思いをしていた。
最悪こんなことが毎日起きるなら朝起きた途端に自害して何度も巻き戻ろうかとも思った。
でもそうしたら今度はヨニーが死んだ私を見て辛くなるんだろうな…と思ったらできない。
「さぁ、横になってお休みください…アンネット様」
とヨニーがベッドに寝かせて眠るまで手を握ってくれ安心して私は眠りについた。薬も効いてきた。
*
夢の中で誰かが嘲笑っている気がする。
「誰なの!?どうしてこんな事するの!?」
と叫ぶと昨日の王子の首が転がってきたり、カルロッタ様が魔獣に喰い殺されるところが再び再現されたように移り変わって私は悲鳴を上げる。
遠くでヨニーが駆け寄って来ようとして…魔獣達がヨニーの方へ行く。必死で戦うヨニーの後ろにもう一匹が潜み襲いかかりヨニーの首に噛みつく魔獣を見て私は叫び声を上げた。
*
「………さま!お嬢様!アンネット様!」
と私を呼ぶ声で目覚めると焦ったようにヨニーが目の前にいる。
どうやら悪夢にうなされていた私を心配していたようだ。
「うう、ヨニー!ヨニー!」
とがっしり首に抱きつく。
「おお、お嬢様!?だ、だだ大丈夫ですか?」
とヨニーは言う。
「怖い夢を見たわ。貴方が魔獣に襲われる悪夢」
と涙を滲ませ言うと
「ええ…夢の中でも役立たずですみません…泣かないでアンネット様…」
指で涙を拭いてくれる。
「今は…何時?」
「もう夕方です。これからパーティーが始まるようです。先ほど一度戻ってきたお嬢様の魔導人形が再びドレスを纏い出かけて行きました」
「そう……」
また悲劇が起こったらどうしよう?私のせいで…。何故巻き戻るのがこの日なのだろう。どうせならもっと前に巻き戻り、カルロッタ様と王子を応援して円満に婚約破棄されていればこんな事にならなかったのでは?
何度そう思ったか。
「何か食べます?スープなら通ります?」
とヨニーが言う。侍女メアリーに頼み持ってきてもらう。ヨニーはスープを私に運んで世話してくれる。
すると何か慌ただしく屋敷がバタバタし出した。メアリーが飛び込んできて
「お嬢様!ヨニー!大変です!学園の方で…魔獣が現れて生徒達や先生を襲っているとか!今…伝令があり、騎士団が対処しているようですが…お嬢様が人形だと言うことがバレてお嬢様に王子殺しの疑いがかかりました!…裏に馬車を用意しましたからお逃げください!」
とメアリーが急いで支度を手伝い私はヨニーと逃げた。
なんてことなの!やはりバレてしまった!!
また皆が無駄に死んでしまう!ううっ!
馬車の中震える私をヨニーは抱きしめ…
「アンネット様…魔女様の所へ行きましょう…」
と言い…私はうなづく。
それからヨニーは私の頬を優しく撫で近付き、目を見つめる。私も見つめ返す。
顔が火照る。ヨニーも既に真っ赤だ。
でもヨニーは恥ずかしさから私の額にちゅっとキスを落とした。
ヨニーの事がとっくに好きになっていた。
ヨニーは照れて笑うと頭を寄せて着くまで静かに肩を抱き寄せてくれた。ヨニーも私を大事に想ってくれている。繋いだもう片方の手からそれが伝わる。
「このまま…アンネット様を連れて逃げたいですけど…解決しませんね」
「ええ…私はそんなに薄情じゃない。必ず犯人を捕らえてみせる!」
「……はい!」
とヨニーが言い私も顔も知らないあの手紙の差出人に負けてやるかと思ったのだった。
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