後日談5 お祝いしようよっ!

 「華奈っ!…こっちよ、こっち!……久しぶりだね。思ったより元気そうで良かったよ。」

 「……あっ、まあちゃん!…暫く会えてなかったね、お久しぶり。まあちゃんも元気そうで、何よりだよ。」


私と目が合った途端、大きめの声で大きく手を振ってきたのは、高1の時からの長年の親友である『まあちゃん』だ。本名は『森山 真都厘まつり』さんと言って、ゆるふわウェーブの黒髪ショートボブヘアをした、20代女性である。性格も私と正反対で、ハキハキしたタイプの美人さんと言える。


彼女は私に気を遣ったのか、パタパタと駆け寄ってきてくれた。私もまた彼女の声に応えるように、互いに元気で何よりだと笑顔で伝えて。こうして彼女と会ったのは、実に半年ぶり…なのかな?


 「まだ暑いから、日陰に入ろう。お店直ぐ近くだけど、歩いても大丈夫?」

 「…もう、まあちゃん。私は病気じゃないんだから、大丈夫だよ。それに普段から健康の為にも、少しは歩いたり動いたりしないと、。」


やはり彼女は、私の身体を気遣ってくれている。だけど私も、其れなりに頑張って動かないと、後々で余計に辛くなるだろう。確かに外は未だムシムシしているし、ほんのちょっと動くだけでも、汗ダラダラになる。


今日は久々にまあちゃんと、ショッピングをすることになった。社会人として働く彼女は私と違い、平日は仕事で忙しいようだ。適職に就いた彼女は、毎日が忙しくて自分の時間がなくとも、生き生きした様子だ。短大を卒業した後直ぐに結婚した私は、羨ましいと思うところもある。私も結婚後はパートで働いていたし、働いた経験が全くないとは言わないけれど……


だけどやっぱり、1年か2年くらいは正社員として、バリバリ働いてみたかったというのが、私の本音でもある。勿論のことながら私の旦那さんが、結婚を遅らせることも無理だと言われたし、私が正社員として働くことも渋っていた。


女が働くのが嫌だとか、男が生活費を稼ぐのが当たり前だとか、そういう意味ではなく、一刻も早く結婚したかったらしい。また結婚後は私を…妻を働かせ、自分だけ学生で…というのも、許せないんだと…。せめてパートで働きたいと告げたら、渋々だけど許可が下りた。そのパートも、先月には辞めてしまったのだが。


 「…ふふっ。お腹も大分だいぶ、目立って来たねえ。予定日は、何時いつだっけ?」

 「…うん、そうだね。予定では、来月終わりぐらいかな……」


そうなんですよ。実は私、妊娠しているんです。今年の3月までは、私の旦那さんはまだ大学院生で、研修やら実習やら卒論やら就職活動などもあって、卒業までの2年間は忙しい日々を送っていた。


パートの私と大学院生の旦那さんとは、すれ違う日もざらではなく、あまり一緒に居られず、「華奈と折角結婚しても…」と、ぶつくさ呟いていたっけ…。早くに就職が決まった彼と漸く、今年に入ってからは2人で過ごす時間も、少しずつ増えていく。


そんな時に判明したのが、私の妊娠だ。気付いた時は悪阻が始まる頃で、何を食べても吐いたし、やたらと匂いも気になるし、市販の検査薬ではっきりと妊娠が分かったのだったが……


 「おめでとうございます。間違いなくお目出度ですね。」


それを知った旦那さんが、慌てて私を車で病院に連れて行く。病院で彼の知り合いの医師から、ハッキリと妊娠を告げられた。其れからはもう、旦那さんの私への心配性が、。私が何をやるにしても、「俺がやる」と言っては私のやることを奪う。私の言い分に、全く耳を貸さなくて。


仕事を辞める辞めないと互いに言い合い、パートで働く一件でも、猛反対されたのは言うまでもない。勿論私が「辞めない」で、彼が「辞めろ」の方だけど。いくら私でも、出産前には辞めるつもりだ。少しでも長く、働きたかっただけで。


……私の旦那さんは、心配性過ぎなのよ。決して無理するつもりはなく、勿論仕事よりも赤ちゃんの方が、ずっと大切よ。職場には迷惑を掛けたくないし、きちんと仕事を引き継いでから、仕事を辞めたいだけなのに…。仕事もそれほど大変ではないし、職場の人達も優しくて良い人ばかり。辞めるのは何時でもできるのだから、もう少しの間働かせてほしい……


 「本当に…どれだけ過保護なんだよ、華奈の旦那さんは…。」


この話を聞いた時のまあちゃんは、電話の向こうで呆れたような声で、大きな溜息をいていたっけ。彼女も私の旦那さんが誰なのか、以前からよおく知っているからこそ、「優しい旦那さんだね。」なんて、よね?






    ****************************






 「華奈やお腹の子に、何か遭ったら……」

 「私のこと、信じてくれないの?…もういいっ!!ゆっくんのバカっ!!!」

 「…………」


結局、私が頭にきて切れ捲ったら、旦那さんの許可がすんなり下りた。なんやかんや言っても、私に甘々なんだよね…。うちの旦那さんって。喧嘩と言っても、他の家庭みたいに罵り合うこともなく、貶し合うわけじゃない。


私の旦那さんは常に私のことを、心配ばかりしている。過保護なくらいに心配しているから、私の行動を制限しようとするだけだ。私を悪く言ったり馬鹿にしたりなど、彼と知り合ってから一度もなかったし、結婚後も一度たりともなかった。それ以前に暴言暴力なんて、絶対にしない人だ。但し、約1名という、例外が居たけれども…。主に…中学時代に、ね。


こうなったら私は私で、意地になって梃子でも動かない。私の見た目は大人しいというイメージらしいが、存外に頑固な性格の持ち主だ。普段はあまり自分の意思がないように振る舞えど、何かスイッチが入った途端に、自らの意思を何としてでも通そうとする、そういう頑固なところがあった。


私もゆっくん相手に、悪口を言うことはない。怒った時、こうしてバカとか叫ぶことはあれども、それは単に子供が自らの喧嘩相手に、捨てセリフで叫ぶような言い回しに、近いだろうか。決して本心から、そう思うわけではない。


……ゆっくんをバカにすることは、私がゆっくんよりお馬鹿な人間、ということになるんだもの。実際に彼は大学院に行くほど、とても優秀な人なのよ。それに比べて私は容姿からして、平凡な顔とちんちくりんなスタイルで、その上…頭の出来も平凡な人間なんだから。


別に捻くれているわけではないが、現実は…厳しく哀しいものである。誰がどう見ても、イケメンな旦那さんと平凡な私。一緒に居るだけで、何処に行っても目立つ私達は。哀しきかな、もうすっかり光景だ、私にとっては。


 「もう直ぐだね?…華奈も到頭、お母さんになるのかあ…。私も結婚はしたいと思っているけど、今はまだ…仕事が優先かなあ。仕事も上手くいくようになったばかりだし、今が一番楽しくて。それに、役職も与えられたばかりだから…」

 「…ええっ!…出世したの?…おめでとう、まあちゃん!!」


まあちゃんは、出世したのね?!…それは凄くお目出度いことだと、私はまるで自分のことみたいに、嬉しくなっていた。だけど、何故か肝心の彼女が困惑するように、苦笑していて……


 「それほど…お目出度いことじゃ、ないわよ。役職と言ってもまだ、サブが付くだけの補助的な役職で、まだまだ平社員に近い立場なのよね…」

 「会社で女性が出世するのは、簡単なことじゃないわ。それでも出世できたのだから、本当に凄いよ。今日は私に、まあちゃんのお祝いさせて?」

 「何言ってるの?…今日は私が、華奈の妊娠のお祝いをするつもりで、来たんだからね。私の出世は微々たるもんだし、特別祝う必要なんてないわ。」

 「まあちゃんこそ、何を言うのよ。私はまだ出産したわけじゃないし、やっぱり今日はまあちゃんの出世の方を、先に祝うべきだと思うわ。」

 「…はいはい。今はその気持ちだけ、受け取っておくことにするわ。今は生まれてくる赤ちゃんのことだけを、考えなさいね。お産は女性にとって、よく命懸けだと聞くのだからね…」


私が彼女の出世を祝い、彼女は私の妊娠を祝うと、互いに言い張るものの、いとも簡単に彼女にあしらわれた私。お産は命懸けだと言われれば、私も諦めるしかなかったのだ。確かに子供が、無事でも、分からないのだからと。


 「さて、そろそろショッピングしに行こうか?…今日は、新生児の洋服で可愛い服が沢山売っているお店に、幾つか行くんでしょ?…私も今後の参考に、是非とも見ておきたいんだよね…」

 「…ふふっ。まあちゃんは彼氏さんとの結婚を、考えているんだね?」

 「…うん、まあね…。結婚するんなら、今の彼が良いかな…」


まあちゃんはまだ独身だが、3年ほど付き合う彼氏がいる。3年前と言えば、私は短大2年生の頃で、まあちゃんは大学2年生の頃だ。彼氏さんとの出逢いは、後で本から話で聞いただけである。


…まあちゃんったら恥ずかしがって、詳しく話してくれないの。前に一度、彼氏さんとも会ったけれど、特に目立つようなイケメンでもなく、優しそうな顔をした物静かなタイプで、無口な人だと思ったのよね。ゆっくんとは違う意味で、異性からそれなりにモテそうな人だったなあ。


 「彼は優しくて思いやりもあって、穏やかな人。男っぽい私のことも、真正面から受け止めようとする、そういう人なのよ。」


顔を赤くして照れながら話すまあちゃんは、とっても可愛いと思う。確かに彼の人ならば、私の大好きな親友を任せられるだろう。ちょっぴり寂しく思いつつ、彼女には幸せになってもらいたい。大の親友として。


 「だけどその前に、華奈の方が先でしょ?…今日は私が、華奈の赤ちゃんに似合いそうな洋服を、選んであげるよ。だから絶対に、元気な子を産んで。」

 「…うん、ありがとう。何方どっちが生まれるかは、のよ。だって…私も彼も知らない方が、楽しみも倍に増えるでしょ?…ね?」






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 特別企画として、今回は番外編を更新しました。後日譚としての投稿ですが、前回からの続きではありません。


本編完結から見た、後日譚の物語となります。物語の位置としては、主人公が結婚してから約3年目となるでしょうか…。まあちゃんは『重要ポジ』の初登場キャラですが、高校で知り合い仲良くなった…という設定です。中1の時の親友とよく似た子ですが、華奈の友人には似た子が多い……?


後日譚の話をどうするかと迷いましたが、初めての子を出産する間際、という内容にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?



※もしかしたらまた、気が向いたら番外編を書くかもしれません。今回も読んでくださり、ありがとうございました!

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脇役が重要ポジションなんて、聞いてない?! 無乃海 @nanomi-jp

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