脇役が重要ポジションなんて、聞いてない？！

後日談４ この先も変わらない…

　今迄の人生を振り返れば、様々な出来事があったなあ…と思い出す。ゆっくんと知り合ってからは、思えばいつも彼が傍についてくれていて、私は…彼が傍に居てくれるのが、当たり前のような感覚に陥っていた。

それに彼は、陰ながら私を助けてくれていたようで、私が何も知らずにのほほ〜んと過ごして来れたのは、彼のお陰だったのだろう。ありがとう、ゆっくん…。今まで知らなくて、ごめんね…。そう心の中で唱える私は、本当に幸せ者だろう。

初めて出会ったのはまだ小学生の頃で、私が２年生で彼が４年生だったよね。私を見て驚く彼に、私も…。…あれ？…何処かで会ったことが、あったっけ…。一度も会った覚えがないのに、何故だか親近感のような不思議な感覚がして。思えば私もあの時から、彼に惹かれていたのかもしれない…。私の自覚がなかっただけで。

だけど彼はもうその当時から、将来がイケメン有望な美少年だったし、平凡な私とは釣り合わないだろうと、私も理解したからこそ惹かれたくないのだと、無意識に思ってしまったのかもしれないなあ。誰かに似合わないと言われる前に、自ら心に蓋をしたのかも…。

その誰かとは主に、咲歩子ちゃんのことだよね…。あの頃の私は、彼女に嫌われたくなかったから、必死だったのよ。けれども、ゆっくんの妹のちぃちゃんと仲良くなって、段々と彼女の言動に対して疑問を感じるうちに、私は…。

本当は以前から、その事実に気付いていたのだろう。だからもう私も、これ以上は無理だった。転校早々にちぃちゃんを標的にする咲歩子ちゃんに、もうついていけないのだと、私から彼女のお友達をやめよう…と。そして、彼女からちぃちゃんを守ろうと、私も強くなることを決意して。

　「ちぃちゃんの陰口をこれ以上広めれば、ちぃちゃんのお兄さんであるゆっくんには、間違いなく嫌われるよ。ちぃちゃんは、ゆっくんの大切な妹なのだから。」

本当はちぃちゃんには、私の守りなんて必要ないだろうけれど、それでも私は牽制した。何と彼女は、この事実に気付いていなかった。ゆっくんに…ハートマークの視線を送っていた彼女は、この事実に全く気付いておらず、ちぃちゃんの陰口を誘導していた彼女は。

彼女が自分より劣ると思っていた私が、彼女に忠告したことに、また彼女が唯一本気で好意を持つゆっくんと、私が『ゆっくん』と呼ぶぐらい仲良しだと知り、そしてその妹とも仲良くなっていた私には、彼女は全力の敵意を向けてきた。

…これで、いいのよ。これでやっと、咲歩子ちゃんとお別れが出来る…。もう彼女とは、私と知り合った当初の優しさを持つ、幼馴染の彼女ではないのだと、そう諦めをつけて。これで私も漸く、彼女を悪女だと思えるようになるよね…。

こうしてこの時から、私と咲歩子ちゃんは完全に決別した。それでも私は心の中の何処かでは、彼女が心の底から今の彼女自身を悔やんでくれることを、本当は望んでいたのかもしれない…。少しぐらいは…良心が、残っているのではないかと…。私は、そう期待していたのだろう。

その後は、ゆっくんが仕組んだお芝居で、彼女を追い詰めていく。ゆっくんの企てた計画は完璧で、私の知らない裏側でも彼は暗躍していたようで、ジワジワと少しずつ彼女の息の根を仕留めて行く。

彼女を『ヒロイン＝主役』と見せかけた罠は巧妙で、咲歩子ちゃんと彼女の味方の生徒の台本とは、私達他の生徒とは内容が違っていて、如何（いか）にも彼女が目立つ主役なのだと勘違いするように、作成されていて。後で見せてもらった私は、目を点にしたぐらいだよ。ちょっとあくどいよ、ゆっくん……。

　「華奈と知夏の成績なら、俺達の高校に合格出来るよ。」

…え～と。何を当たり前みたいに、勝手に決めているのかな…。ちぃちゃんは兎も角として、私はまだ…何処の高校を受験するとは、誰にも話してもいないのに…。然もまだ…ちぃちゃんと私は、中２で受験生ではないですけれど…。

なのにあれから…ゆっくんは、どうしても私達を自分達の通う学校に通わせたいようで、何かにつけてそう言って来るんだよね…。そんなにも…妹のちぃちゃんが、心配なのかな…。あっ、でも…私にも伝えて来るのは、私も同じく妹として心配されているのかな…。まあ、私のお兄ちゃんも通っている高校だから、皆で一緒に通いたいのかもしれないね。

こうして私とちぃちゃんと、そしてりっちゃんも一緒に、お兄ちゃん達の高校を受験することになった。私達３人は似たような成績だし、この辺では偏差値の高めの高校ではあるけれど、確かに私達の成績なら今から頑張れば、合格範囲内かもしれない。

そう思って勉強を始めた私だけれど、私の勉強をメインで見てくれるのは、何故だかお兄ちゃんではなくて、ゆっくん…なんだよね。そして、肝心のお兄ちゃんはと言えば、りっちゃんの勉強を時々見てあげているようで、何となく変な気分なんだよね。この気持ちは一体、何なのだろうね…。

　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　「…華奈、君が好きだ。俺と付き合ってほしい。」

以前、度を超えた事態を引き起こしたゆっくんだけど、私が中学を卒業する直前の高校受験に合格した時に、ゆっくんのお陰で合格したと報告しに行くと、突然告白されてしまった…。流石にこういう恋愛話に鈍い私も、その意味は理解出来て、驚き過ぎて固まった。顔全体が急激に熱を持っていくのが分かり、きっと私は真っ赤になっていることだろうな…。

暫し赤くなったまま呆然とする私に、「その表情は…ＯＫということかな？」と彼に言われたので、まだ頭が働かない状態で、首を縦にコクンと振る私…。唐突に、彼にギュッと抱き締められて………

…うぎゃあっ！！……こ、これって…私、ゆっくんに抱き締められている？…ゆ、夢じゃないよね……。これ、本当に現実？？

　「良かった…。これでも、俺も…緊張ＭＡＸだったんだからな…。華奈に断られたらどうしようかと、思っていたんだ…。」

私の耳元で…そう低音の心地良い声で、何時もよりもちょっとだけ低い声で言われた私は、心臓がどくんと鼓動して、キュン死しそうになりました…。ううっ…あ、危なかったわ…。そういう艶っぽい声色で耳元で言われた時には、恋している相手じゃなくとも、コロッと堕ちてしまいそう……。

その後、正式にゆっくんと私が付き合うことになったのは、言うまでもありませんでしたよ。あの運命のお芝居から、私は知らぬ間にドンドンと、彼を好きになっていたみたいなの。告白されて気付いた私は、もう彼でなければ駄目みたい……。

高校では堂々と付き合っていた私達には、不思議と誰も告白して来なかった。勿論主にゆっくんに…ですよ。ゆっくんの恋人が私なんて、何時「似合わない」とか言われるかとビクビクしていたというのに、誰も因縁付けて来なかったし、寧ろお似合いとか言われたりしたし、どうなっているのだろうと…逆に不思議に思ったよ。言われないに越したことはないし、私ももう絶対に譲れないけれど。

　「…華奈。君が卒業したら、俺と結婚してほしい。俺には君が必要なんだ。華奈でなければ、駄目なんだ。」

　「……えっ？…結婚って……早過ぎじゃない？…まだ２年あるけれど……」

私が短期大学に入学して、ゆっくんが３年生になって直ぐ、彼が私にプロポーズして来た。このプロポーズには私も目を点にして、「…えっ？…早過ぎない？」と返してしまったよ。だって、私はまだ入学したばかりなんだけど…。短大だから２年で卒業するけれど…。それでも、気が早過ぎなんだよね…。

　「俺は…これ以上待ちたくない。同棲でも良いと言う奴もいるけど、それは単に結婚を引き延ばしたいと思う奴の言い訳だと、俺は思ってる…。だから俺は、きちんとケジメを付けて、華奈と結婚したいんだ。」

　「………」

いくら何でも…急すぎだよ。お互いに卒業までまだ２年あるし、もう少し待ってほしいと頼んだのだけれど……

彼はその後、毎日のようにプロポーズして来て、私は…到頭根負けしてしまったのよね…。蚊が鳴くような小さな声で、彼のプロポーズに応じた私は、恥ずかしさで真っ赤っ赤になっていて…。

　「……はい。此方こそ…よろしくお願いします……。」

　「…華奈。プロポーズを受けてくれて、ありがとう。結婚の準備は、ゆっくりと俺達らしくしていこう。」

震えた声でＯＫした私に、彼は満面の笑顔でそう言って。結婚の準備は私が２年生になる頃から始め、私達らしくじっくりゆっくりと、この１年間は時間を掛けて、結婚式の準備をして来た。そして結婚数か月前には、彼と一緒に住む決心をして、徐々に段階を経て行くことになる。

同棲のことだって、「そろそろ、一緒に住もうか？」と、彼が毎日のように言ってきたからである。絶対に…ゆっくんって、確信犯だよね…。今迄のこと全部、計画通りだったでしょ？…そう思ってはいるものの、私もそう告白される度にドキドキしている私も、少しでも長く一緒に居たいという気持ちは、彼と同じで。

結婚式が終わった後も、私と彼の関係はそう変わらない。ただ…旦那さんと奥さんになっただけで。私は彼と居る時が、一番私らしい自分でいられるのだから。何も飾らない自分でいられるのは、彼がそれだけ私にとって…大切な人だからなのだろう。

　「今日からよろしくね、ゆっくん……。あっ、違った……。今日からよろしくお願いしますね、旦那さま……」

私が改まった口調で、挨拶のような言葉を言えば、彼は目をパチクリさせキョトンとして。…ふふっ。驚いてる、驚いてる…。偶には私が驚かそうと、意表を突いたけれど…。それでも…彼の方が一枚、上手なのよね…。

　「…こちらこそ、今日からよろしく。俺の世界で一番大切な…奥さん。」

こうして…漸く家族になった私達は、これからもずっと物語（ストーリー）を紡いでいくのよ……きっと………

　　　　　　　　　　　　～～　　ＥＮＤ　　～～

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　このお話は既に終了しており、夏休み企画として番外編を更新しています。

後日譚としては最後となります。今までとはまた別の人物視点です。

本編が完結後の番外編　part４です。過去を交えながらの、後日のお話です。

因みに流れ的には番外編５の後日で、主人公の結婚式直後の話も、含みます。

新郎の方で結婚前夜を書いたので、新婦としては結婚後の話…という感じですね。

本編の話を含みながらも、本編以外の過去の情報も追加しています。どうやって結婚まで行ったのか、分かりやすく書いたつもりですが…。

さてこれで、脇役ポジはこれにて完全終了となりました。今まで応援してくださり、ありがとうございました。