後日談2 恋愛に奥手な人たち
俺の妹は、もうすぐ結婚を控えている。中学生の時にはまだ付き合っていなかった妹達も、高校生になった途端に付き合うことになったらしい。俺には正式に報告がないので、当初は全く気付いていなくて、ハッキリ知ったのは1年後だ。前々から怪しいとは思っていたが、俺はそっち方面はからっきし鈍いからな…。
妹が結婚する相手は、俺の親友でもあり悪友でもある人物だ。俺もアイツも妹を持つ兄で、また妹を溺愛している兄として、知り合った当初から馬が合う仲だ。そう言えば…アイツは昔から、俺の妹に妙に優しくしていたな。
アイツは人見知りの妹を、常に優先するぐらいに溺愛して、俺も人懐っこいタイプの妹を、人が良過ぎて騙されると常に心配して…。本当に似たような環境でもあったから、アイツも本性を隠さず本音で接してくれていた。だから俺もアイツには、特別な気遣いはしなかった。
そんなアイツは俺の妹と出逢った瞬間に、柚弦は…華奈に恋をしたのでは、ないだろうか…。今から考えれば…そういうことだと思う…。現状の俺は、あれが一目惚れとかいう類だということも、今ならば理解出来るというものだ。
今の俺は、恋というものがどういうものなのかを、知っている。何故ならば、俺も今は恋人がいるからだ。妹も恋愛関係は鈍かったけれど、俺も相当に鈍かったようだ。妹は、アイツが自分を大切にしてくれるのは、アイツが妹同様に見ているからとか、アイツの妹の大親友だからとか、アイツの親友が俺で親友の妹だからとか…などと、思っていたようだ。
…いや、アイツがそういうタイプじゃないということは、俺は元より知っているんだよ。親友の妹だから…とか、妹の親友だから…とか、確かに表面上は大切にするかもしれないが、ただそれだけという意味ではないだろう。
アイツ自身が俺の妹を妹同様に見ることも、勿論有り得ない。自分の妹が存在しなければ、もしかしたら有り得たのかもしれないが、アイツには溺愛する妹が居るのに、他人の少女を妹のように思うなど、正直考えられないな。やはりあの頃から、俺の妹のことが好きだったのだろう。どちらかと言えば、自分の妹とは別枠で…という意味があったと、今ならばそういう気がしている。あの時の俺は、それがどういう違いなのかは、よく分からなかったものだが…。
今頃になり漸く分かってきた、というべきか。これも…彼女のお陰なのだろうと、そう思う今日この頃であったりする。俺も彼女の年齢を考えると、あまり結婚を引き延ばす訳にも行かないだろうな…。
そう思ってはいるが、知り合いになったのはだいぶ前だったから、付き合っていたと勘違いする時も多々あるけれど、実際に告白して付き合い出したのは、まだここ最近と言った方が良いだろう。
告白したのは、俺が高校を卒業して暫く経ってからだった。常に傍にいた彼女が居なくなって、俺は何処か虚無感を感じていた。本当はもっと早くに気付くべきだったのだろう。それなのに恋愛に鈍い俺は、傍に居られなくなってから、気付くなんて…。もう遅すぎるかもしれない、そう考えるとより虚しくなってくる。
それでも決意して彼女をデートに誘えば、OKを返してもらえた俺は…期待してしまう。彼女は行動的な人だから、自分から告白したりするだろうな…。そう思っていた俺は期待しながらも、否定的な要素を含む事柄を考える。
「良かったら…その、俺と…付き合ってくれ。恋人になって…くれないか?」
「…っ!?………は、はい。あ、あの…私で良ければ、OKですっ!」
正直言って、玉砕するのを覚悟していたから、嬉しくて仕方がない。それよりも、彼女が真っ赤になって少々食い気味に返事してきて、此方の方が驚いたが。つまり彼女は、恋に関しては純朴だったのだな、俺達兄妹よりもずっと……。
今までの先輩後輩の間柄から、恋人に昇格した俺たち。今まで気付けなかったお互いの様々な部分に触れ、初めて知った事実もある。俺から見た彼女は、もっと砕けた人物だと思っていたのに、案外と彼女は真面目で融通が利かないタイプだったようだ。
恋に関して純粋過ぎて、俺の方が手を出して良いのか困惑したぐらいに。勿論手を出すと言っても、まだ手を繋ぐとかキスするとかぐらいだが…。それでも毎回、彼女が赤くなったり固まったりされる度に、戸惑ってしまう。そのぐらい彼女は無垢な女性で、俺から告白しなければ、未だに…彼女からのアプローチはなかっただろうと、あの時の自分に感謝している程である。
本当に…俺から告白して、良かったよ。プロポーズはもう少し演出して、彼女を喜ばせたいと思う。彼女はそういうのに、弱いみたいだからな。きっと受け入れてくれるだろうと、信じて…。
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私は中学生になったばかりの頃から、友人の兄が好きだった。正確に言うと、その頃はまだ好意を持っていただけだ。要するに、私の好みど真ん中だっただけ…なのだが。それは一緒に過ごす時間と共に、ただの自分の好みのタイプから、自分が好きな人へと変わって行く。
私は昔から、見た目は美人だと言われるけど、こういう男の子っぽい性格の所為もあり、男子にモテるのは一時的な期間が多かった。何しろ私は、言いたいことは直ぐに顔や声に出してしまうタイプで、性格も荒々しくて喧嘩早いところは、自分でも悪い点だと分かっているけれど、自分でもどうしたら良いのか分からない…。
別に本心から喧嘩したい訳じゃないし、誰彼に他人を攻撃したい訳でもない。気付いたら攻撃した後…という感じで、後の祭りという状態だった。こういう自分だからこそ、異性には興味のないフリをしていたんだよ…。
友人の兄は、妹思いの滅茶苦茶面倒見の良い人で、私は直ぐに懐いてしまうぐらいに優しい人だった。もう1人の友人の兄も同様に妹思いなのに、何故か全く惹かれないけどね…。その理由は明白だよ。もう1人の兄の方は、本心を隠した所謂厄介な人物なのだと、私は悟っていたからだ。あの人を本心から好きになってはいけないと、私の理性が告げて来るのだ。それに彼は、イケメン過ぎる部分も私にとっては近寄りがたく、好みの範疇からも外れていた。
後から徐々に知ることになったけど、やはりあの人は一筋縄ではいかない、曲者であるようだ。本当にヤバイぐらいに、一線を画した部分を持つ人だ。生理的に私が受け付けない、そういうタイプの人だな…。道理で、気分が憂鬱になる訳だよね。あの人がマイナス要素の空気を常に放つので、八つ当たりされた訳ではなくとも、変に気を遣うのだ。
こういう人間の傍に居ると、私は疲れるんだよ。根本的に性格が合わない、というヤツだ。私もこの人に惹かれないが、向こうも私を何とも思わないだろう。何しろこの人は、私の友人でこの人の妹の親友に、恋しているのだからね。要するに私が好きな人の妹が、恋愛対象なんだよね。
大事な親友達と好きな人が被らなくて、良かった…。ガサツな私が言うのも変かもしれないが、親友2人が別々の人を好きで助かったよ。好きな人に振られても、恨みっこなしで済みそうだ。これでも私は案外と、後々まで引き摺るややこしいタイプなんだよ。こんな卑屈な私に好かれた親友の兄は可哀そうだと、私本人も同情してしまうのに…。
好きな人が卒業して大学に進学した後、私は物凄く後悔した。告白して振られて置けば良かったと、悔やんでいたのだ。私の好きな彼はイケメンではないけど、容姿が悪い訳ではないので、案外とよくモテる人だ。純粋に誰にでも優しくするので、優しくされるうちに他の女子達も皆、好きになるみたいで…。これ程ヤキモキするなら、振られた方がすっきりしただろうに…と。
肝心の彼は、そういう色事には全く関心がない人で、恋愛にも相当に鈍い人だったりする。お陰で…私の好意に全く気付かないし、ホッとするやら撃沈するやらと、当時から複雑な心境だった私……。
ある日突然、その彼からデート(自分で勝手にそう思っている)に誘われ、二つ返事でOKした私は気合を入れ、デートに臨んでいた。彼から告白されるのを、期待していないと言えば嘘になるが、彼に誘われたことが嬉しくて…。せめてデートぐらいは彼に好意を持ってもらおうと、私なりに精一杯のお洒落をして。
普段はパンツルックスタイルの私も、今日は長めのスカートを履き、流行通りとはいかないまでも、これでも流行りの要素を取り入れ、彼の好みに合わせようと必死で努力していた。
兄妹の関係は、無視できないわね。彼の好みを知っているのは、当然彼の妹である親友からの情報なのだから…。こういう時、持つべきは友…と言えるだろう。妹を味方につけている私は、ある意味では最強なんだよ。後は、自分に自信を持てば良いと、親友からもよく言われるけどね。自信満々なのも、何気に自意識過剰みたいで、嫌だなあ…。
「君が良ければ…だが、俺と…付き合ってくれ。恋人になって…くれないか?」
突然その彼から告白され、頭の中が真っ白になった割りには、ちゃっかり了解していた私は、嬉し過ぎて食い気味に返答しちゃったよ…。だって…考えるまでもないんだもん…。約2年近くなった今、思い出しても恥ずかしい……。
彼の妹が結婚を控えている所為か、最近結婚を意識するような素振りが、時々見られた彼。私にプロポーズする機会でも、伺っているのかな…。それが本当だとしたら、嬉しいな…。
今も…私は、気付かないフリをしている。彼がどういう風にプロポーズしてくれるのかと、今から楽しみで…。サプライズに弱い私は、知っていても…きっと泣き崩れるわね…。
親友に会えて良かった。そして…彼に会えて、本当に良かった…。私は…もうすぐ結婚する親友よりも誰よりも、彼との未来に想いを巡らせ、幸せを噛み締めていたのであった……。
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このお話は既に終了しておりますので、夏休み企画として番外編を更新しただけとなります。後日譚となり、今回はまた前回とは別の人物視点です。
本編が完結後の番外編 part2です。過去を交えながらの、後日のお話です。
因みに流れ的には、番外編5の後日となっています。主人公達の結婚数週間前(1か月以内)の他の人物達の日常です。
前半は主人公の兄、後半は友人『その2』視点で、其々のその後です。意外な組み合わせとなりました。本編更新中から思い描いていた2人なので、今回こうして更新できて良かったのかも…。
後日譚のお話、もう少しだけ続きます。
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