完結後の番外編

後日談1 結婚のタイミングは

 私には幼い時から、大好きな人がいる。幼稚園で同じクラスだった、私の幼馴染の紫真しまくんだ。誰にでも優しい…と言いたいところだけれど、そうじゃないんだよね。彼が優しいのは、一部の人にだけなんだよ。だからと言って、意地悪だとか乱暴者とかではないけれど。


誰にでも優しい人って、偶にいるよね。実は私のお兄ちゃんが、その典型的なタイプだったりする。でも本当は、違っている。お兄ちゃんの本当の姿は、家族とか本当に仲の良い一部にしか、見せないように隠している。結局、誰にでも優しくしているのは、自分の本音を隠すため…みたいなんだよね。お兄ちゃんも色々と、だ。


それに比べて紫真くんは、そういう上辺の嘘をかない人なんだよ。お兄ちゃんみたいに、自分の気持ちを隠すのが苦手な人なんだ。だから何時いつも、自分の気持ちを素直に表してくれるので、私には分かりやすくて、そういうところも好きなんだよね…。


しかし、こういう性格の彼だから、運動も出来て勉強も出来る彼は、本当ならば女子生徒からモテモテでも、ちっともおかしくないのに、何故か…あまりモテないんだよね…。お兄ちゃん程のイケメンではないけれど、容姿はそう悪くはないと思うのに、うん…ちょっとばかり目が吊り上がっているとか、話し方がキツイ口調で怖いとか、最近は…だいぶ不良っぽい容姿に見えるとか、諸々問題はあるかもしれないけれど。それでも私は中身が紫真くんだったら、と思っている。


私が小学2年生の時、両親の転勤で…主に父親が転勤となり、家族で付いて行くという母親の一言で、転校することになった私達兄妹。お兄ちゃんは前の学校もつまらないと思っていたようだから、転校が決まっても何とも思わなかったみたいだけれど、私は…紫真くんと別れることになって、本当は嫌で嫌で仕方がなかった…。


しかし実際に転校してみると、私を理解してくれる大親友が出来ていた。そして驚くことに、お兄ちゃんも…。然も…偶然だったのか必然だったのか、私の大親友とお兄ちゃんの親友が、兄妹だったのよ…。私もこの偶然には驚いたけれど、お兄ちゃんはもっと驚いたみたいな顔をしていた。それにお兄ちゃんは、私の親友が気になる素振りなんだよね…。


…えっ?…お兄ちゃん、ロリコン?…とか思ったけれど、よく考えたらお兄ちゃんは私達より2歳上だけだ。普段から小学生離れしていた所為で、お兄ちゃんの年齢を勘違いしていた時があったっけ…。


お兄ちゃんは幼い時から、周りの女子達からモテモテだ。所謂イケメン少年だったお兄ちゃんは、イケメン顔すぎた所為で、同い年の少女だけではなく、年上とか年下とか問わずにモテている。


近所の小母さんたちは、「うちの子にほしいわ~」とか「将来はうちの子と…」と今から既に、結婚を仄めかされたりする。また年上のお姉さん達からは猛アピールされて、「きゃあ!…イケメン過ぎる…。将来、お姉さんの恋人にどう?」と、本人達からこれまた将来の恋人宣言されたりする。


同い年の女子達からは、「大きくなったら、結婚しようよ。」と、これまた結婚を約束させられそうになり、年下のお子ちゃまからは、「大好き!」と抱き着き攻撃をされながら、告白されている。


こういう環境をずっと続けられたら、お兄ちゃんも屈折したくなるよねえ。私も他人ごとでは、ないんだけれど…。私もお兄ちゃんに似た美少女と有名で、まだ小学生だと言うのに、告白された回数は…もう数えきれないくらいだよ。お兄ちゃんには流石に勝てないけれど、「可愛い」という理由で告白される私も、いい加減にしてほしいと…時々、屈折したくなりそうだ。


私は極度の人見知りなので、大人しいタイプの少女だと思われているけれど、実際は仲良くなる人を選ぶタイプなんだよ。私は誰とでも、仲良く出来なくて…。特にお兄ちゃんと私の周りに寄る人物は、私達兄妹の外側しか見ない人が殆どで、本当にウンザリしてしまう。私もお兄ちゃんも、中身の性格を見てほしいのに…。


前の学校では、そういう人ばかりだった。折角、見掛けで判断しない人と友達になれても、数日も経つとその友達の方から離れて行く。あの頃は…その理由が分からなくて、私もずっと悩んでいたというのに、その理由が…、他のそういうクラスメイトたちの嫌がらせだったなんて、ちっとも気付かなくて。


後から…転校する時に知ったから、本当にショックだったよ。だけどその時思ったのは、「知らなくてごめんね」というような友達へ向けた思いではなく、「私が何か怒らせたとかではなくて、良かった…」という、自分への感情だったのだ。






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 結局、彼女達とはそういう繋がりでしか、ないんだよ。そう考えたら、物凄く楽になっていた。これで…転校したくない唯一の理由は、紫真くんと離れ離れになるのが嫌だ、ということだけ。悪いけど、私はそんなに優しい性格じゃない。だからこれで前の学校の人達と、縁が切れたとさっぱりするのかな…。


紫真くんは私達兄妹を、全く見た目で判断しない人だったから、お兄ちゃんも本音で接していたっけ。「気が楽だな…」とか言って。「知夏ちなつの好みは変わっていると思うけど、まあ…良い奴であるよなあ。」と、おかしな褒め方だったけれど。


お兄ちゃんはそれなりにそつがなく、前の学校でも大勢の男女の友達を作っていたようだし、お兄ちゃんは上手に自分を隠して来た。だけど私は、お兄ちゃんみたいに器用じゃないから、苦手な人とも誰とでも仲良くは出来なかったのだ。逆に言うと何時も、紫真くんが傍に居てくれたから、私もそれなりにやって来れたのかもしれない。


だから転校するのはとても不安だったけれども、前に住んで居た家の近くには、親戚の叔母さんや叔父さんは誰も住んでいなくて、まだ子供の自分だけが残ることは出来なかった。


嫌な筈だったのに、将来もずっと続きそうな大親友に出会えて、結果的には転校したことでは…後悔はしていない。勿論、この学校でも嫌な出来事は遭ったけれど、何方かと言えば…私に対してではなくて、大親友が嫌がらせされていた。私は勿論味方になったけれど、なんて、予想もしなかったのよ。だってお兄ちゃんは何時も、誰にも自分からは近寄らないのに。それが、年下の女の子になんて、想像もつかなかったよ…。


 「それで柚弦ゆずるさん、1人暮らしの部屋を引き払った後なのか…。久しぶりに一緒に飲もうと思って、尋ねたんだけどな…。もうすぐ結婚かあ…。大学卒業して直ぐ結婚なんて、早過ぎないか?…俺はもう少し働いて、自立してから結婚したいと思うけどな…。」

 「…ええ~~。それじゃあ、私が年増になっちゃうよ…。それでなくとも、華奈ちゃんが先に結婚しちゃうのに……。」

 「そう言われてもな…。俺は後2年は、大学生だからな。それに俺は大学院に行こうと思っているから、少なくとも4年間は、結婚するのは無理だからな。」

 「…ううっ。紫真くん、真面目過ぎだよ…。大学生は別に結婚しても、大学には通えるんだよ。お兄ちゃんだって医師を目指しているから、まだこれから2年は…そうなんだよ。」

 「…いや、そういう問題じゃないだろ…。柚弦さんは何でも器用だから兎も角として、俺は…その、そういうのを両立出来るタイプじゃないんだ。2年後に結婚したとしても研究に夢中になりそうで、ちなのことを幸せに出来そうにない…。」

 「別に…紫真くんに特別幸せにしてもらわなくても、良いんだよ。私は紫真くんと一緒に居られるだけで、幸せなんだからね。」

 「それでも俺は…結婚した以上は、ちなを幸せにしたいと思っている。中途半端な結婚はしたくない…。」

 「………」


…ふうぅ~。紫真くんは融通か利かないくらい、真面目過ぎるんだよね…。もうだいぶ前から私達の間には、結婚の話もチラホラと出ているんだけど、何時も似たような会話になるんだよね…。結婚の話は、私が転校する時に約束していたけれど、ずっと手紙も出していたけれど、再会したのは高校生の時だ。2人で同じ高校を受けて合格したんだよ。


転校した時は、物凄く遠くに引っ越した気がしていたけれど、日帰りで十分に行き来が可能な距離で、受験生の頃には案外と近距離だと気付いた。少し遠くても2人の中間地区で、2人共似たような成績ならば、家から通えそうな高校を選んで、実際は…彼が私達の選んだ高校に、学校の寮に住んでまで通ってくれた。嬉しかったけれど、悪いことをしたと思っている。だって…私は、大親友ともお別れしたくなかったんだよ。折角、心から分かり合える親友が出来たというのに、また…知らない人ばかりがいる高校に行くのが、怖くなって。


それでも、漸く…会えた私と彼は。再び巡り会えた後、将来は絶対に結婚しよう…と再度約束して。お兄ちゃんも私も、んだよ。そしてお兄ちゃんは、もうすぐ…その想いが報われることになる。だから…次は、私の番なのよ。


私はどうしても早く、彼と結婚したいと思っている。いや、結婚していなくとも彼とはなるべく、一緒に過ごしたい。


紫真くんはああ言っているけれど、正式に結婚しなくとも一緒に居られる方法は、他にも色々とあるよね。お兄ちゃんも結婚前にそうするつもりなのだから、私も…無理矢理、押し掛けるつもりなのだ。……ふふふっ。そういうつもりだから、覚悟して置いてよね、紫真くん!


私がこの人生のヒロインなら、貴方は…私のなのだと、信じてる。例え、貴方が脇役だろうとモブキャラだろうと、貴方は私のヒーローよ。



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 このお話は既に終了しておりますが、番外編を短編で書くかも…を、此処で実現させてもらいます。夏休み企画として、特別に続きを作りました。


流れ的には後日譚となりますが、誰視点になるかは…その都度変わる予定です。


本編が完結後の番外編です。過去を交えながらの、後日のお話です。


因みに流れ的には、番外編5の後日となっています。主人公達の結婚数週間前(1か月以内)の他の人物達の日常です。


『友人その1』のその後です。漸く彼氏の名前が登場しましたが、今回限りとなりそうですね。だから、苗字は特に考えていません。因みに『ちな』は、紫真が知夏を呼ぶ時の愛称呼びとなります。


後日譚のお話、もう少しだけ続きます。

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