第9部 今こそ反撃開始だ!
「まあ…
ゆっくんのその言葉を聞いた時、私は「やられた~!」と思った。ゆっくんに対し「マジ怖すぎ」という心の声を、また声に出していたのを聞かれたのかと、私は物凄く焦っていたのに…。ゆっくんは如何やら 私の表情を
「華奈は本当に分かりやすくて、助かるよ。」
はて?…どういう意味だろう。私が分かりやすいというのは、心の声が出たり顔に出たりということだろうけど、それのどこが、何でゆっくんが…助かるの?…全く意味が分からないし。
あれ?…今気付いたけれど、お兄ちゃんはまだ帰って来ていないみたいだ。今日はゆっくんだけで、ちぃちゃんも来ていないみたい。…ということは、ゆっくんと私の2人っきりみたいだね。何となく2人っきり…という言葉に、ちょっと恥ずかしく思えたのは、何故だろう…。まあ、いっかあ……。
「あっ、そうだっ!…私が主役だという話だけど、一体何の役なの?…ヒロインは
「そうだね、まだ役柄を教えていなかったね。華奈の役は、悪役令嬢の取り巻きの1人だよ。」
「…………はい?!……主役が、悪役令嬢の…取り巻き?!」
…悪役令嬢の取り巻きの1人が主役ということは、それってモブが主人公ってヤツですかね…。なるほど…。今まで私は脇役ばかりだったけど、その脇役が主役だというならば、理解出来ました。ふむふむ…。確かにモブキャラが主役の乙女ゲームも、ちょこちょこ見かけますものね。それならば、私が主役でも良さそうです。
…あっ、でも…良くないんだけれどね…。モブキャラだろうと、主役は主役です。一番目立つことは、必須ですものね。出来ることならば、目立ちたくない私には、主役はキツイ。それでも、ゆっくんが私の為に考えてくれた計画なんだと思うと、絶対にやりたくない…とは言えないよ。
「
……うぎゃあ。これは…責任重大なのでは、なかろうか…。断罪シーンなんて、乙女ゲーの愛好者から見れば、最も重要で面白い場面ではないだろうか、と。因みに最近嵌った私も、乙女ゲーの断罪シーンは毎回見物なのである。これを見る為に、ゲームを楽しんでいる人も存在するのでは…。
しかし、これはゲームだから楽しいのであって、現実には楽しくないだろう。例えそれが断罪する側であっても、断罪する側・される側とは関係なくとも。今回はお芝居ですることになるけど、それでも断罪する側もされる側も、出来れば演じたくないと思ってしまうのは、私だけ…なのかな…。
選りに選ってモブキャラを演じる私が、断罪する役になるなんて…思わなかったなあ。あれ?…私の役柄は、確か…悪役令嬢の取り巻きだよね。取り巻きの令嬢ということは、悪役令嬢よりも身分が低いのでは?…お花畑のヒロインと王子を断罪するのならば、身分が低い取り巻き令嬢が断罪するのは、おかしいのでは…?
だけどそういう事情を、ゆっくんが全く考えていないなんて、逆に考えられない。ゆっくんは文武両道という言葉が似合う程、運動神経も良くて、頭脳明晰な人なんだよ。そんな彼がお芝居だからと手を抜くなんて、考えられないのだ。きっとこれには、他の設定があるのだろう。私もバカではないので、そのぐらいは理解出来ている。もっとちゃんとした理由が、ある筈で。何となく…嫌な予感が。
まだ1年生には、話を通していない。一番の問題は、咲歩子ちゃんが納得するかどうかでは、なかろうか…。きっと彼女は自分が主役だと思ったから、嬉しそうに引き受けたのだろう。それなのに私が主役で、然もヒロインの彼女は断罪される側だと知ったら、どういう顔をするんだろう。それを考えるだけで、怖いかも…。
「大丈夫だ、華奈。
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「……ということで、3年の生徒達の投票にて、この配役で決定しました。3年生の殆どは、その他大勢のモブキャラ&舞台裏方&衣装作製の方へ、回ってもらうことになっています。1年の皆さんにはセリフはなくとも、それなりに舞台上で演じてもらいますので、よろしくお願いしますね。」
漸く俺のクラスの3年生への根回しを済ませ、昨日のうちに華奈への説得を成功させた俺は、今日の放課後には華奈達のクラスへと、足を運んでいた。そうして配役が決まったと告げて台本を配り、本当の主役が誰なのかを説明すると、にっこり微笑んで1年生達を見回した。誰にも文句を言わせないように、隙の無い笑顔を見せて…。見回した中に例の南部さんを見つければ、彼女はピクピクと顔を引き攣らせていた。…くくくくっ。仕返しの第1弾は、成功したようだな。
だが彼女への仕返しは、まだまだ用意してあるんだ。これで終わりだとは、言わせないよ。あの南部さんのことだから、3年が決めた配役を覆そうとはしないだろうけれど、華奈には嫌がらせをしたり、華奈自身が主役を降りるように持っていかれたり、するかもしれないね…。勿論俺は、そういう裏の部分でも抜かりがない…と言える。俺の腹の中は、真っ黒だからね。妹の
『森村 葉壱』は、俺がこっちに転校して来た時からの親友だ。小学4年生の3学期に転校して同級生となったのが、切っ掛けである。偶然にも妹の知夏も華奈と同級生となり、仲良くなっていた。妹に紹介される形で華奈とも知り合ったのだが、初めて会ったような気が…しなかった。華奈と知り合えたのが嬉しかったのを、今でも覚えている。
華奈は1人の女子生徒の所為で、クラスメイトから誤解され無視されていた。その原因の女子生徒が、南部さんである。彼女の見掛けは優しい思いやりのある女の子だが、本音の部分は性格が悪くて、俺と同類の匂いのするヤバイ奴だった。裏表のない真面目な葉壱も、彼女のそういう部分が見えたらしい。妹を大切に思う彼に、彼女の裏の部分はお見通しだったのだろうな。
妹は人見知りではあるものの、一度好きになった人間には心を許すタイプである。その為、華奈のことでは知夏も、相当なお冠だ。知夏は俺ほどには腹黒くないけれど、それでも好きになった人物のことになると、俺以上に腹黒くなる一面もあるんだな、これが…。
今は華奈とは別のクラスだが、今回の白雪姫の劇の配役の一件も、知夏からの情報である。普段は人見知りで大人しい知夏も、大好きな親友・華奈のことになれば、華奈の友人達から情報を受け取ったりしているほどに、積極的なのである。知らぬは本人ばかりなり…ってか。
以上のような複雑な事情もあり、華奈を慕う人間達がメインとなって、今回の一計を案じた訳である。本人も…何か俺が、良からぬことを仕掛けるとは気付いていても、彼女の周りの人間も自分が協力しているとは、一切教えていないのだ。
3年の女子は皆、華奈の味方であった。流石に上級生ともなれば、南部さんの見掛けには騙されないようだ。3年の男子も大体が気付いていたし、気付かない者達も華奈には同情的だった。これには信頼出来る葉壱の妹、というのもあるのだろう。そして俺達兄妹も仲良くしている…という点でも、華奈の方が信頼出来る、と思われていたようである。華奈の周りには、人徳者が集まっているからね。
そういう点で比べたら、南部さんの周りには見掛けしか見ていない、愚かな人間ばかりが集まっていた。それだから彼女の言い分を、そのまま信じてしまうのだろうな。まあ俺も、人のことは言えた義理ではないけれど、それでも彼女のように、自分以外の誰もがどうなっても良い、と考える訳ではないからね。
そういう点では彼女の方が、悪役令嬢にはぴったりなのだが、流石にこの役は
華奈は決して心が弱い訳ではないし、自分でも納得出来ないことには従わないけれど、それでも俺が嫌なんだ。彼女がそういう思いをするだけで、俺が我慢出来ないんだよ。だからと言って、今の俺には特別な権力がある訳でもないし、これと言った対策が出来ずにいた。一応相手は、俺より年下の女の子だから。下手をすれば、俺達の方が悪者に見られるだろうし、一度そういう評価が付くと、挽回するのは大変だろうから、ここは慎重に動かないと。
そうして、漸く掴んだ機会である。俺自身が悪く思われるのは、別にどうでもいいが、華奈までが影響を受けるのは、辛いんだ。たから俺は、この機会を逃すつもりはないし逃したくもなくて、こちらから仕掛けることにしたのだった。
さあて、南部さん。これから君には、華奈の受けた倍以上の屈辱を、受けてもらうよ?…覚悟を…してよね?
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今回も、お芝居より前の時間設定です。前半と後半は別視点となります。
前半が、主人公視点での前回の続きの出来事で、後半が、柚弦視点での更にその後日の出来事です。
ゆっくんの復讐が具体的に明らかとなりました。咲歩子は彼のこの仕返しに、耐えられるのだろうか…。
※読んでいただき、ありがとうございます。次回で、本編は最終となりそうです。よろしくお願いします。その後は、番外編がある予定です。
※読んでいただき、ありがとうございます。次回はまた近いうちに、更新します。
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