第8部 主役への大抜擢?!

 「急な話なんだけど くだんの 文化祭では、俺達のクラスで決まっていた、今流行はやりのゲームを題材とした劇を、僕達3年生のクラスと君達1年生のクラスが、合同でお芝居することになってね。それでメインは1年生から、配役を決めたいと思っているんだよ。」


私達の1年生クラスでそう語るゆっくんは、放課後に私達のクラスに顔を出すと、合同の劇をすると発表して来た。…何ですと?…昨日の今日で、何でそういう展開になってるの?!


あれから今日の放課後の時間までに、3年と1年の担任やら、学園祭を管理する生徒会・クラス委員・執行部などの生徒達やら、3年生の彼らのクラスメイト全員にも、既に話を通しているらしくて。…えっ!?…あの〜、まだ半日ぐらいしか経っていませんが…。のかな…。


ゆっくんの素早い手際の良さに、私はあんぐり呆けるよりも、内心では冷や汗ダラダラの気分でいた。ゆっくんの周りの人を掌握する力は確かに凄過ぎだけど、人当たりも良く人気があるからこそ、出来ることだよね…。まあそれだけ、みんなから信頼されているのだろう。ゆっくんは、超が付くイケメンだからね~。そういう点でも女子を説得するのに、役得だ。ゆっくんの場合は人望も厚いから、きちんと説明して納得させているよね?


 「では早速ヒロイン役なんだけど、白雪姫のヒロインで決まった南部のべさんに、お願いしても…いいかな?」


南部さんとは、咲歩子さほこちゃんの苗字だ。とってもいい笑顔で笑うゆっくんは、彼女の方を向きにっこり微笑んだ。…あれ?…何となく腹黒い…ような?…もしもし、ゆっくん?……何か、企んでいませんか?


普段は咲歩子ちゃんを無視し捲っているのに、お芝居のヒロイン役に咲歩子ちゃんを推して。私達のクラスで選んだ配役を、そのまま利用して選ぶなんて、何時いつものゆっくんならば、配役を変えようと絶対に言い出すだろう。それにゆっくんのあの笑顔には何となく、裏がありそうな嫌な予感がするのは、何故だろう…。


 「……っ!!…はいっ!…勿論ですっ!…私、頑張りますっ!」


ゆっくんの問いに対し、顔を綻ばせほんのり赤く頬を染めた咲歩子ちゃん。彼女は大喜びで、もう元気一杯といった様子である。騙されているとも知らないで…という言葉が、頭の中にふと浮かぶ。…んん?…あれれっ?…私、今何を…考えた?…自分でも覚えてないけど、一瞬だけ浮かんだ気が…。


 「では次に…悪役令嬢役は、これも魔女役に決まった『田中 利都花りつか』さんに、お願いしていいかな?」


田中さんは私の親友の1人で、私はりっちゃんと呼んでいる。咲歩子ちゃんが私に魔女役を推薦して、怒ったりっちゃんが魔女に立候補してくれたけど、りっちゃんが悪役令嬢キャラを演じるの?…確かに彼女は、ちょっときつめの美人さんなんだけど、口調もハッキリしていて曲がったことが大嫌いで、何時も私を庇ってくれるお姉さんタイプだ。悪役令嬢キャラには、ピッタリだよ。但し、お芝居でも彼女が断罪されるのは、嫌だな…。


 「はい。私もそれで、いいですよ。」


ああ…。りっちゃん、悪役令嬢役を受けちゃった…。自分が目立ちたいとか悪役はヤダとか、そういう我が儘は絶対に言わないからね…。そう言えば昨日の電話で、ゆっくんに何かお願いされたんだっけ…。予め、そういう話をしたのかな…。


 「後の配役も、俺達に任せてもらえるかな?…まだ何も決まっていないし、3年生も何人か出演する予定だよ。大勢必要なモブキャラや裏方は、立候補してもらっても構わないよ。」


前々から思っていたけれど、ゆっくんはこういう指揮的なことは、一段と上手い。頻繁にこういう経験をしていて、慣れているという感じである。乙女ゲームをしない筈のゆっくんは、昨日の夕方から…調べたりしたのだろうか?…それとも、誰かに詳しく聞いたのだろうか?…それとも、ゆっくん自身が転生者…だったりして、な~んちゃってね…。


最近の私は、乙女ゲームに嵌りかけていて、何でもかんでも全部を、乙女ゲームの何か出来事や誰かの人物像などに、当て嵌めたくなるんだよ。これは乙女ゲームと同じような出来事だなあ…とか、この人はあのキャラに似ているなあ…とか、思ったりする訳で。非現実の事柄を現実の日常に当て嵌まるのが、するのだ。






    ****************************






 「はい、これが…華奈の分だよ。」

 「………へっ???………」


あれから数日が経ち、ゆっくんからヒロインに選ばれた佐保子ちゃんは、もうそれはそれは…上機嫌な様子だ。私の顔を見た途端に物凄く睨んでくるのに、この数日間は私と顔を合わせるたび、「ふふんっ!」という風に私を見下すような顔で、自慢気に薄笑いをして来るので、私は逆に得体が知れなくて気味が悪くて。私がまだ配役に選ばれていない上に、自分はヒロインだというのが嬉しくて、そういう態度を取って来る彼女は、御目出度おめでたいとしか言えないね…。


私が羨ましがっているとでも、思っているんだろうなあ…。どちらかと言えば今回の私は、より近くでお芝居を観察出来れば、文句なしなんだよね~。実写版の乙女ゲームが間近で見れるんだから、。ハッキリ言えば、楽しみで仕方がない方だ。それに普段ならば、脇役か裏方がしっくり来る私が、ヒロインになりたいなんて思うことも、ないのに。


ところがゆっくんが、我が家に持ち込んだあるモノに依って、その気分が…反転することとなる。私の分だと言いながらゆっくんが手渡したのは、お芝居の台本だ。台本を渡された私は、夢にも思っていなかった状況に、変な声が出てしまって…。我ながら、色気のない声だな…。もう少し真面な声が出ないのか、華奈未かなみさん…。(※テンパって、自分で自分に問う華奈未)


いや、いや…。そういう事ではないよね?…お芝居の台本って言われても、個人的に台本を渡されるほど、私の出番は…ない筈だよね?…セリフという程に、多くないよね?…私の役柄は、脇役モブキャラで良いよね?…そう自問自答しながらも、何か特別に…悪い予感がするのは、私だけなのかな…。


 「だからこれは、華奈の台本だよ。華奈の出番は多いから、頑張ってね?」

 「……っ!?……はいっ???」


いやいやいや……。何を言ってるの、ゆっくん…。私の出番が多いとは、どういうことなのよ~。私、お芝居マジで下手なのに…。セリフを喋ると異常に緊張して、棒読みになるんだよ…。お芝居失敗したら、どうすんの?!


 「大丈夫、大丈夫。俺が暇を見て、劇の稽古にあげる。俺はこう見えても、芝居には自信があるんだ。演技が上手くなるコツも、教えてあげられるよ。」

 「………」


いやいやいや…。そういうことじゃないよね?…教える手間を掛けないで、もっとお芝居の上手な人にやってもらえば、いい話だよね?…何で態々、演技の超下手っぴな私の出番を、大幅に増やしてるのよ~。くう~~~。(※泣き出しそうに…)


 「南部あの子にギャフンと言わせるには、これが一番良い方法だと思うよ。華奈があの芝居の中の主役を演じ、華奈が劇で一番目立てば、南部あの子をこれ以上ないくらいに、痛い目に合わせられるからね?」

 「…………あ…ぅ~~~」


あの子とは…もしかして、佐保子ちゃんのこと…かな。ギャフンと言わせるとは、一体何をするつもりなの?…はあっ!?…何ですとっ!?……私が、主役とは!…む、無理無理無理~~~!!…難易度が高すぎるわっ!……選りにも選って、何故に私が選ばれた…。心の中で、そう叫んでいた私。如何やらゆっくんは、彼女に挫折を味わせる為だけに、私を主役として目立せるつもりなのだ。ゆっくん、怒ってるの?…ゆっくん…マジ怖っ!


いや、待って…。私の気持ちを無視しないでよ、ゆっくん。私は、お芝居が超苦手なんだって~。主役なんて、私には荷が重すぎる…。絶対に緊張し過ぎて、本番であがればセリフとか忘れ、失敗するだろう。最早泣きそうどころか半泣き状態で、気付けば…ブツブツ呟いている私。


 「大丈夫だよ、華奈。俺が華奈の相手役になる予定だし、もしも華奈がセリフを間違えたりすれば、俺が出番を早くしてでも、フォローするつもりだよ。そういうことだから、チャレンジする前から諦めないでほしい。」

 「……うっ……。ず、狡いよ…ゆっくん………」


優しいゆっくんが、私の相手役?…私は一体、何のキャラ?…そういえば役柄は、まだ聞いてない。自分の出番を早めてまで、私をどうやってフォローするつもりなのか、分からない。私はじっと、ゆっくんを見つめ返して。しかしこのゆっくんのセリフは、お芝居の中のセリフみたいで、カッコいい…。このセリフには誰も…勝てないし、狡いよね、ゆっくんは…。


 「あはははっ…。相変わらず華奈の心の声は漏れていて、丸聞こえだよ。折角、態と南部あの子に乙女ゲーのヒロイン役を譲っても、華奈が主役を演じてくれなければ、俺が立てた計画が成り立たないんだよね…。」

 「………」

 「こういう俺は、そんなに…怖いのかな?…俺のこういうところ、華奈は…嫌いになる?」

 「………っ!?………」


…うっわあ~~。これら全てが、ゆっくんの企みだったのかな…。もしかして私が「乙女ゲーが…」と言い出した時から、こういうトラップを企んでいたりして…。マジで怖過ぎじゃん…。怖がっているのも気付かれた挙句に、こうゆう…ゆっくんを嫌いなるかどうか、訊かれた私は、慌てて無言のままブンブンと首を横に振る。こんな理由で、…ならないよ。


 「華奈は直ぐ、顔に出るからね。声に出さなくても、丸分かりなんだけどね。」

 「…………」


直ぐに顔に出ると言われて、こういうところが演技下手なのかもしれないと、遠い目をして話題を逸らした…私である。






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 今回も、お芝居より前の時間設定です。主人公視点となります。


前半が、前回の翌日の出来事で、後半が、更にその後日の出来事です。主な配役が決定していく、段階でして。


ゆっくんの目的が、復讐だと判明しました。果たして計画通り、咲歩子がギャフンとなるのか?…華奈未じゃなくても、ゆっくんが怖いと思うけど……。


※読んでいただき、ありがとうございます。GW期間は終わりましたが、もう暫く更新が続きます。よろしくお願いします。


※読んでいただき、ありがとうございます。次回はまた近いうちに、更新します。

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