第7部 罠を張り巡らす時
「お兄ちゃんのクラスでは、何をするの?」
「俺達のクラスも、
「へえ~。偶然だね。お兄ちゃん達も、お芝居をするのか…。」
「俺は多分、出ないけどな。裏方を志望するつもりだ。それに俺のクラスには、
私のお兄ちゃんは何だかんだと言いながらも、妹の面倒を見てくれる優しい兄である。
お兄ちゃんのクラスもお芝居をするらしいけど、多分ゆっくんがヒーロー役になるんだろう。ゆっくんは所謂、爽やかイケメンボーイだ。誰にでも優しくて、
妹のちぃちゃんはお淑やかで、大人しい美人さんである。誰にでも優しくて、笑うととっても可愛くて。ちぃちゃんも勉強は良くできるけど、運動は…あまり得意ではないみたい。私と反対なんだよね。勉強は中間よりは上程度の私は、運動は超得意なんだもん。駆けっこして、未だ誰にも負けたことがないからねっ!
「ゆっくんがお芝居に出るなら、王子キャラが似合いそうだよ。どうせなら乙女ゲーの王子キャラを、演じてほしいなあ。そしたら、りっちゃんが相手役のお嬢様を演じて、私はモブになって傍で眺めたいなあ……」
「そのアイデア、面白そうだね?…良いんじゃない?…そういうゲームのキャラを演じるのも、案外とウケるかもしれないしね。」
……えっ?!…私の空想に対して、思いもかけない提案が……。じゅるり…と涎が出て来そう…なんて、馬鹿なことを考える私は、これが現実だと気付いて、慌てて後ろを振り返ると。
「ゆっくん…と、ちぃちゃん…。あれっ?…今日、何かあったの?」
やっぱり、私の空想の話に返答して来たのは、ゆっくんだったよ。ちぃちゃんも来てるけど、今日は何も約束してなかったよね…。お兄ちゃんも目を丸くしているから、何も約束してなかったのかな?
「
あっ、心配して来てくれたんだね?…ありがとう、ちぃちゃん。持つべき者はやっぱり、親友だね~。あの時ちぃちゃんに声を掛けて、良かったよ。まだ引っ越して来たばかりで、引っ込み思案のちぃちゃんは、私と同様にクラスメイトから避けられていたんだよ。私と違って、大人し過ぎて勘違いされたんだよね。あの時は私も無視されていて、ちょっと勇気が
それまでは咲歩子ちゃんが一番の友達だったから、私も周りが見えていなかった。咲歩子ちゃんと喧嘩別れみたいになったのは、今も寂しいと思うけれど、それでも今の私は…後悔していない。今はもっと、私のことを理解してくれている、親友や友人ができたから。寂しいけれど、違う意味で寂しくないんだよ、私は。
何時か…咲歩子ちゃんにも、気付いてもらいたい。本当の意味での友達は、そういう利害を求めるようなものではない、と…。そうして、彼女には彼女の気持ちを、本気で受け止めてくれる友人を、何時か作ってほしい…と。
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「それで先程の話に戻るけど、華奈のアイデアをもらっても、いいかな?」
「…えっ?…うん、良いけど…。ゆっくんが…王子キャラを、演じるの?」
「いや、それはまだ分からないよ。俺に決定権がある訳では、ないからね。一応はクラスメイト達に、聞いてみないとね…。」
「おいおい…。本気か?…まあ、アイデアとしては面白いけどな…。乙女ゲームには悪役令嬢が、付き物だろ。誰もやりたがらないんじゃ、ないのか?」
「それについては、ちょっと考えていることがあるんだ。華奈、りっちゃんに連絡取ってくれないかな?…今日のことで、ちょっと訊きたいことがあるんだ。」
「…へっ?……りっちゃんに?…もしかしてゆっくんは、りっちゃんみたいな女の子が、タイプとか?」
「……馬鹿なこと言ってないで、今直ぐ電話して!」
「ほ~~い。」
何でか分からないけど、ゆっくんは乙女ゲームのお芝居に前向きだ。私はゆっくんが王子キャラを演じるつもりなのか、訊いてみる。だって、其処が重要なんだよ。例えば、平凡顔のお兄ちゃんが王子キャラを演じても、絶対にブーイングの嵐だ。お兄ちゃん達のクラスに、ゆっくん以上のイケメンさんが居るかは知らないけど、ゆっくんだったら私も推せる…。うん、やっぱり…ゆっくん意外には、考えられないかな……。
そう言えば…最近気づいたんだけど、ゆっくんから『華奈』呼びされている。お兄ちゃんは『知夏ちゃん』と呼んでいるから、私の場合は…ゆっくんには妹だと、思われているのかな…。ちぃちゃんとあんまりにも仲良しだから、そう思われているのかもしれないね。…ふふっ、ちょっと嬉しいな。お兄ちゃんが2人に増えた気分だよ。お兄ちゃんもゆっくんも仲良しだし、私もゆっくんのこと…お兄ちゃんだと思ってるよ!……なあ~んて、ふふふふふふっ。
其れよりゆっくんも、恋バナは…恥ずかしいのかな?…ちょっと揶揄ったら、怖い顔で
「あっ!…りっちゃん。今、時間ある?…うん、あのね、ゆっくんがりっちゃんに、訊きたいことがあるんだって。いいかな?」
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「何で、華奈未のことを…お前が、呼び捨てしてんだよ…。」
「…呼び捨てはしてない。彼女も中学生になったことだし、ちゃん付けはもう…おかしいだろ。」
「…いや、おかしいのは、柚弦の方だろ。ちゃん付けするのは、別におかしくないだろ。俺もお前の妹を、そう呼んでいるんだし…。言っとくけど、華奈未は俺の妹で、お前の妹ではないからな?」
「……そんなことは、十分に分かってる。別に…お前から妹として、盗る訳じゃないだろ。逆にお前が俺の妹をどう呼ぼうと、俺は気にしてないよ。」
「………はあ?……妹として盗らないって、何となく引っ掛かる言い方だな…。まるで、それ以外で盗って行くような……」
「……か、考えすぎだろ…。コホン…。兎に角、呼び捨てじゃないし、このぐらい許容範囲だよ。」
「………」
私はこの兄達のやり取りを間近で見ていて、溜息を
私は転校する前から、好きな男の子が居る。だからお兄ちゃんの気持ちは、直ぐに分かった。私も未だにその男の子が好きだから、忘れられないように必死で、手紙を出し続けている。彼からも頻繁に返事が届くので、きっと私の気持ちは届いているんだと思う。一応、将来の約束もしたもの。幼い頃の約束だから、彼も忘れているかもしれないけど…。それでも私は、今でも本気だよ。
華奈ちゃんのお兄さんは、良い人だ。私に好きな人が居なければ、もしかしたら好きになっていたかもね。華奈ちゃんはよく実のお兄さんを『平凡顔のお兄ちゃん』と表現するけど、可愛い系の顔だし…そう悪くない。まあ華奈ちゃんは自分のことも、『平凡容姿の私』とか真剣に表現してるし、冗談ではないみたい。…う~ん。私から見れば、十分に可愛いと思う。南部さんに嫌がらせされるぐらいには…。
実際に華奈ちゃんは女子だけではなく、男子にもモテている。可愛いし優しいし、誰にでも親切だし、うちのお兄ちゃんの見掛けの優しさとは、大違いだと思うよ。だって、うちのお兄ちゃんは普段は優しいけど、お兄ちゃんのお気に入りの人を虐めたりしたら、物凄~く怖い人に変身するんだもの…。よくいう腹黒いってヤツ、なんだよね…。
妹である私や妹同然に大切な華奈ちゃんには、絶対に怒らないけれども、私を泣かせたり華奈ちゃんを虐めたりする人達には、例え相手が女子であっても容赦しないのが、うちのお兄ちゃんなのよ。その兄に比べると、華奈ちゃんのお兄ちゃんは穏やかな人なんだよね。だからうちのお兄ちゃんより、華奈ちゃんのお兄ちゃんを慕う女子も結構居て。でも……。
当のご本人と華奈ちゃんは、全く気付いてないよね…。モテないと思い込む節もあり、まだ恋愛にも興味ないようだし、兄妹揃って鈍すぎるよ…。
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お芝居より前の時間設定です。今回は前半・中盤・後半に分かれており、後半のみ視点が異なります。
時間がちょっと前に戻っています。乙女ゲームのお芝居をすることになった、理由が判明しましたね。柚弦が何か企んでいる…かも?
後半だけ、知夏視点です。既に小学生の時から、両想いの彼がいるようです。時間が出来たら、2人の話も短編で書いてみたいなあ。
※読んでいただき、ありがとうございます。GWが長い人も、もう終わりですね。もう暫くは更新が続きます。よろしくお願いします。
※読んでいただき、ありがとうございます。次回はまた近いうちに、更新します。
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