第6部 脇役となった裏側で
パチパチパチパチ………
頭上から幕が下ろされた途端に、沢山の拍手と歓声が聞こえて来た。これが異世界の外国風の世界ならば、ブラボー、ブラボーと叫ばれていることだろうが、残念ながら日本人はそう言わない代わりに、観客の全員が心からの拍手を送っていた。
「結構イケてたね~。乙女ゲーム風の異世界が舞台のお芝居なんて、奇想天外すぎると思ったけど、ああこうやって攻略するのかって分かると、意外とゲーマー気分を味わえて面白かったかな…。」
「そうだよね。今までは、乙女ゲーなんか興味ないと否定してたけど、面白そうだし、私も一度乙女ゲーを、やってみようかな……。」
「てっきり、ヒロインキャラが主役なのかと思ったら、悪役令嬢が主役だった…という最近の乙女ゲーの
「ホント、ホント〜。あの波乱続きの展開には、その先が読めなくて、つい…引き込まれちゃったよね〜。」
…などという感想が聞こえて来て、お芝居を頑張った甲斐があったなあ、と嬉しくなる。主人公なんて大役を初めて演じることとなり、マジでどうしようかと不安になった。私が主人公に抜擢されたのは、どういうことなのか展開について行けず、何の冗談なのかとプチパニックに陥ったのは、昨日のことのようである。
私は脇役どころか、チョイ役しか演じたことがないし、セリフなしもあったっけ。セリフの多い役柄は、元々苦手である。勉強はそこそこ出来ると思うけど、長々としたセリフを話すのは、マジ無理…。覚えるのが…ではなく、セリフを噛みそうだとか感情移入できないとか、そういうのが苦手なんだよね…。
主人公にしてはセリフが少なめだけど、代わりに心の中の声がめっちゃ多かった。アレも私のセリフかと思えばマジで憂鬱だけど、録音するから見ながらでも良い…という許可が出て、何とかなったけど。
心の中の声が流れる間は、周りの人物達は動きがないので、当然私の動きだけになるんだけど、その私のセリフに合わせた動きは、めっちゃくちゃ適当だった。あれで良かったんだろうか…とか思っていたけど、今日動いた感じでは、そんなに違和感なかったかな…。
実はこれは、中学校での文化祭での催しだったりする。私達1年生のクラスでは、ほぼ喫茶系のお店が多数なので、うちのクラスでは劇をしよう…という案が出た。劇は王道の白雪姫をすることになり、ヒロイン役には私の幼馴染が選ばれた。
しかしこの幼馴染には、問題がある。何かと自分を悲劇のヒロインに見せたがる、という悪い癖があるのだ。普段は他人思いの優しい性格で、彼女の見かけの優しさに、私もずっと騙されていたようだ。当初は私も何かの行き違いだと思い、何度かそうじゃないと彼女を信じようとしたけど、ある日彼女に…裏切られたのである。
クラス劇をする時に、私をヒロインに彼女自身が推薦して置きながら、同級生には私が無理強いしたと嘘を
その状況もある時から、変化した。兄の新しい友人が偶々気付き、私を助けてくれたのだ。それ以降、彼女を妄信する生徒の一部が、代わりに私を信じてくれるようになる。小学校ではまだ味方は少なかったけど、中学から合流した別の小学校出身の生徒達は、私の言い分を信じてくれた。有り難いよね…。
相変わらず小学校からの同級生達は、彼女を妄信していて、別の小学校から来た生徒達から見れば、彼女の言動がチグハグに見えるらしく、彼女の言い分だけではなく私の言い分も聞いてくれた後、一般的に辻褄の合う私の言い分を通してくれた。その所為でクラスは、常に二分したようなものだけど…。
お陰で時々、私を睨むように見ている彼女と、バッチリ目が合ったことも…。一瞬だったから気付かない生徒が多い中、私の味方をしてくれる友達が偶然見たらしくて、「怖っ!」と言っていた。
何がそこまで…私を目の敵にするのか、今一理解出来ていない。私が友達を止めたから怒っているのか、それとも自分が利用していた幼馴染が、自分より優位に立つのが嫌なのか、どちらにしても彼女の都合で怒っている気が。そんな相手と何年も仲良くしていた私は、どうしてこうなったのか…と自問自答していた。
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「それで
「私達のクラスは、劇をすることになったんだけど、
「……ああ。また、あの子か…。最近はあまり関わって来なかったのに、また何か言われたりしたのか?」
「うん……。ちょっと、ね…。」
咲歩子ちゃんというのは、例の問題のある…私の幼馴染だ。彼女は自分がヒロイン役に選ばれ満足気だったのに、また厄介なことを言い出していた。私の2歳上のお兄ちゃんも、咲歩子ちゃんの性格をよおく知っているので、また何か言い出したのは、私に関してだと気付かれた。実は昔から彼女の本性には、お兄ちゃんは早くから気付いていたようだ。
お兄ちゃんも私も、咲歩子ちゃんから見れば平凡だと、真面目なお兄ちゃんは融通が利かないからと、昔から無視されていたようだ。これで私の兄がカッコいい人ならば、きっと愛想を振り撒いているのだろう。実際に兄の親友ゆっくんには、彼から避けられているにも拘らず、毎回彼女から話しかけている。確かにゆっくんは、超カッコいいもんね?
「何、言われた?」
今日のお兄ちゃん、特にしつこいなあ…。前々から思っていたけど、お兄ちゃんは咲歩子ちゃんのことを嫌っているみたいで、昔からよく彼女と遊ぶなと、忠告してたっけ…。私の所為で、お兄ちゃんを心配させていたのかもしれない。結局は彼女の自己満足に利用され、一時期はクラスメイト達からも孤立していて。
私は勉強が得意な方だったし、咲歩子ちゃんに教えてあげていた。まあそれも利用され、クラスメイト達からは彼女の方が頭がいい、と思われて時期もあるようだ。但しそれも中学になるまでの話で、通知表やテストは誤魔化せなくて、その上私が教えなくなった途端、彼女の成績は更に下降したようだ。流石にお人好しの私も、孤立してからは完全に彼女と、
ちぃちゃんはゆっくんの妹で、ある日
1人で寂しそうにしていたちぃちゃんに、私から話し掛けると、咲歩子ちゃんに疑問を持った他の生徒も、私達に話し掛けて来て、漸く私も孤立から脱却出来たんだよ。あれからずっと、ちぃちゃん&ゆっくんの兄妹とは、私達兄妹も仲良くしているんだよ。…ふふふっ。
「白雪姫には、悪い魔女が登場するでしょう?…その役を私が合うとかで、咲歩子ちゃんが推薦して来たの。」
「…はあ?…まだアイツ、懲りていないのか…。それで、まさか引き受けた訳ではないだろうな?」
「ううん、私が断ろうとする前に、クラスメイトのりっちゃんが…怒っちゃってね。りっちゃんが魔女をやると、立候補してくれたの…。」
咲歩子ちゃんは白雪姫のヒロインを、私には白雪姫にリンゴを食べさせる悪い魔女をさせ、私の印象を悪くしたかったのだろう。お芝居なんだから、誰かは悪人を演じなければいけない。けれど私が演じることで、余計に印象が悪くなるように誘導する、自信があるのだろうな…。咲歩子ちゃんの洗脳術、恐ろしいよね…。
「…そうか。友達が庇ってくれて、良かったな。だけど華奈未が魔女を演じたところで、お前の演技力では悪役の魔女には、足らないと思うが…。」
……うっ。お兄ちゃんにズバリ、演技が下手だと遠回しに言われた。私はセリフが棒読みだ。一応、感情を込めてセリフは言えるんだけど、本番になると緊張しすぎて棒読みになったり、噛み噛みになったりするんだよ…。その上、演技力も元々上手い訳ではなく、お前はロボットかっ!…という程に、緊張するとギクシャクな動きになっちゃって…。
「咲歩子ちゃんの信仰者は、熱狂的過ぎる信者みないなものだから。」
「お前は、まるで他人事みたいだな…。アイツに散々利用されたんだから、お前はもっと怒っても、良いんだぞ。」
「うん、まあ、そうなんだけど。咲歩子ちゃんとは、今後は仲良くする気はないよ。でも、咲歩子ちゃんと遊んだ思い出まで、無くしたくないんだよ…。辛い想い出もあるけど、楽しい思い出もあったから…。」
「……はあ~。お前らしいよ…。本当に華奈未は、人が良過ぎるな。」
「そんなこと、ないよ。私だって怒ったりするし、咲歩子ちゃんとはもう仲良くしないもん。ただ…思い出だけは、楽しかったと思いたい。」
お兄ちゃんは私が優しいというけど、私は別に特別優しくないし、自分が可愛いから何しても良いと、他人を悪く言う人とはもう仲良くできないよ。私の容姿は平凡顔で、今のところ出るとこ出てないし、顔もスタイルも良い咲歩子ちゃんには勝てない、と思うだけでそういう部分は、仕方ないと思っている。人間諦めも肝心だ。要するに私は、信じてくれる人がいれば良いんだよ、其れで…。
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今回からガラリと、内容が変わりました。現代世界の話になっています。
実は、今までの話は…お芝居でした、というものになっています。今後は、現代版の方の断罪?がメインとなっていきます。
主人公の兄とゆっくん&ちぃちゃん兄妹のフルネームは、次回以降に出てくる予定です。
※読んでいただき、ありがとうございます。既に、GWも終了された人もあるかと思いますが、もう暫くは更新が続きます。よろしくお願いします。
※読んでいただき、ありがとうございます。昨日に引き続き、投稿となりました。
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