第5部 断罪の結末とその後

 暗に彼女に手を出すな、という意味合いがする言葉を選び、自分の婚約者であることを強調した第二王子シーゼット殿下。それは、公爵令嬢ミーシャーナを自分のものとする発言だと、思われた。


当然であるが、ミーシャーナを大切に思うが故の牽制である。当の本人であるわたくしは…と言えば、これ程大切に思われて嬉しくもあるのが、今迄監視されていたのかと知らされ、嬉しくない部分もあり…。複雑な心境であるのは、間違いない。


わたくしはまたこの春から、この学園に通うこととなるのか…。もう既に…1年も通っていたのに、この1年間は無効とされたような気がして、正直言って嬉しくない。まだレギラーナの存在を知られる中、下級生の公爵令嬢ミーシャ姫として通うのは、中々に心臓に悪い事情である。ハッキリ申せば、わたくしよりも他の生徒達の方が、顔を合わせたくないだろうに…。


 「…シーゼット。お前は…既に、婚約者も居たのか…。どうして話してくれないんだ、誰も……」

 「ええ、そうですよ。兄上には黙っていて、申し訳ないと常々思っておりましたが、兄上は…私が貴方の、ご存じないですよね?…兄上の王太子としての勉強自体は、問題ありませんでしたが、政務などでは問題だらけでした。父上…いえ、陛下は次第に兄上には期待せず、私にやり直しを命じされるようになったのです。ですから私はもう何年も前から、自分の分に兄上の分もプラスされ、自分の時間がない程…でしたよ。」

 「…………」


今度は、王族の兄弟対決かな…。そうは言っても、2人の仲はそれほど悪いものでもなかったが、いて言えば…第一王子が無能過ぎたことだ。黒い笑みを放つ第二王子は、第一王子も逆らえない。今のシーゼット殿下は正にそういう状態で、大層怒っていた。ライオット殿下がエリザとイチャイチャし、好き放題をされておられる間に、シーゼット殿下は2人分の執務をこなされていたのだから…。


ライオット殿下は学園を卒業後、アネモネと直ぐに婚姻することとなる。その為、結婚を強く意識され焦ってみえたのかもしれない。元々アネモネに対し、好意を持てないようでしたし、学園での浮気がなくとも、いずれは…こうなったことだろう。


この国では珍しく王族も一夫一妻制なので、側妃は持つことが出来ないし、愛人を持つことも国の法律では認められていない。しかし法の抜け道もある訳で、一部の貴族は隠れて愛人を持っていた。但し王族だけは、愛人を持つことは絶対に許されない。例えライオット殿下が臣籍降下した後も、愛人を持つことは出来ないのだ。後々でが浮上する場合が、高い為である。


実際に過去には、そういったことが起こったらしい。そういう問題を完全に排除する為、現在は王族に厳しい規則が設けられている。もしこれを破った場合、家族諸共処罰を受けることもあるようで。今のところたがえた王族は居ないが、ライオット殿下は有り得そうなところが怖いよね…。


 「そういう事情で、兄上には王位を諦めていただきたい。私が皇太子となる暁には、此処に居られるミーシャーナ姫が、王太子妃となられます。私は兄上とは違い婚約者を愛しておりますので、その点では兄上に感謝を申し上げますよ。兄上が完全無欠なお人でしたら、姫の婚約者は…兄上だった筈ですからね。」


何時いつの間にかわたくしに近づかれていたシーゼット殿下は、そう語りながらわたくしの腰をご自分の方へと引き寄せ、な、何と…この大勢の者達の前で、婚約者を愛していると…仰られたのだ。…ええっ?!…こんな所で、な、な、何を……。わたくしも…シーゼット殿下をお慕いはしておりますので、彼で良かったとは思いながらも…。その上でわたくしが、ライオット殿下の婚約者になったかもしれない可能性を、皮肉られて。


 「……へっ?…………」


ライオット殿下が目を丸くされ、間の抜けた返答を返されキョトンとされました。今更そういう話をされても、分かりませんよね。わたくしは少々呆れておりますと、ライオット殿下と視線が絡み合い、何となく居た堪れなくなったわたくしの方が、目を逸らし…。アネモネも無言のまま固まられ、エリザも目を見開いていて。


わたくしも好きではないし、それ以前にライオット殿下から、「あんな奴、歯牙にも掛けない。」と否定されそうだったが、第一王子は何も仰られず。漸く彼も、ご自分の立場を理解されたのかな?






    ****************************






 その後、正式にシーゼット殿下が、立太子されることに決定した。儀式にはわたくしも、正式な婚約者として出席することとなり、彼が陛下から王太子として認める儀式を、間近で眺めていた。この儀式に出席出来るのは、高位貴族の代表夫妻だけである。但し、我が家では婚約者の家族として、わたくしの両親と兄も出席している。女性の中で若い女性は、わたくしだけだろう。本来は令息令嬢も歓迎されるべきなのだが、シーゼット殿下が嫌がった所為である。


 「自分の立太子の式に、ご令嬢達から騒がれるのは嫌だし、ミーシャ姫が私の婚約者として、他の令息達からジロジロ眺められるのは、良い気がしない。それにご令嬢達はここぞとばかりに、ミーシャの悪口をいうかもしれないと、陛下にはそうご進言したんだよ。」

 「シーゼット殿下…。もう王太子になられたのですから、あまり他の貴族達を刺激されないように、なされませんと……。」

 「分かっている。それでも私は、ミーシャが一番大切なのだからね。ミーシャさえ私の隣に居てくれるならば、私は何でも出来るだろうな。」

 「シーゼット殿下……。」


相変わらず殿下は、わたくしには甘い言葉を囁かれるのよ…。わたくしが婚約者となった以降から、だったかしら。気がつけばそうなっていたので、何時からなのかは…はっきり覚えていない。


其れよりもあまり他の貴族達を遠ざければ、彼の今後の政務の為にもならないというのに…。今から令息達を味方に付けなければ、いけないというのに。わたくしさえ傍に居れば良いと、仰るなんて…。嬉しいような困るような、乙女心は複雑だ。


 「ミーシャ。貴方には…偶には昔みたいに、呼んでもらいたいな…。」

 「……シーゼ様。」

 「うん。それも良いけれど、昔の呼び名が良い。」

 「…………シー。」


唐突にシーゼット殿下が、昔のように呼んでほしいと仰って。わたくしにはその意味が直ぐに分かったけれども、態と外してシーゼ様と呼んでみる。するとやはり違うと言われ、ハッキリと昔の呼び名でと指摘され…。今更そう呼ぶのは、少し恥ずかしいのよね…。呼ばなければきっと彼は、わたくしがそうするまで、言わせようとするだろう。仕方なく諦め、おずおずと呼び…。


そうすれば、彼はパッと顔の表情を輝かせて、本当に嬉しそうに顔を綻ばせ。心底嬉しそうな表情に、わたくしは更に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にさせてしまったけれど…。本当に、心臓に悪いわ…。


さて、わたくし達はこのようにラブラブな雰囲気の中、あの例の3人はどうなったのか。先ずライオット殿下はあの後、エリザにハッキリ振られて、アネモネにも残念ながらお別れを言われたそうだ。ライオット殿下は一応は未だ王族のまま、結婚相手を探し中である。但し卒業パーティでの婚約破棄の件で、貴族達にはすっかり敬遠されてしまったようだった。これは当分、無理そうね。


アネモネは特に罰は受けないこととなり、自分から礼儀作法を習い直すと言い出して、今は国外に留学中である。留学先の国の王立学園で、一から勉強も礼儀作法も習うということらしい。如何どうやら彼女は、自分より事実が、彼女的には許せなかったようだ。自分の驕りに辟易したと聞くと、彼女らしいかな…と思う。彼女は我が儘だが礼儀は完璧だからこそ、自分自身が許せなかったのだろう…。


そして騒動を起こしたエリザは、どうなったのか…。彼女は責任を感じて庶民になる…訳でもなく、男爵令嬢のままである。しかし、こうなった責任は取ると本人も認めた為、王立学園は自主退学とされている。その後の彼女の行方ゆくえは、領地で父親の手伝いをしながら頑張っている、という噂を聞いたぐらいかな。これでもう、あのような問題を起こすことは、ないだろう。


結局、あの3人の断罪としては、あのパーティ会場で恥を掻いたぐらいで済んだ。3人共あの場で一応は反省した態度だった為、正式な処罰を判断するのは、後日となっていた。そうして改めて陛下に問われれば、3人共別々の道を歩むことを、選ぶこととなった為、のだ、見た目は。


エリザと共に庶民になっても良いとまで、ライオット殿下が覚悟したというのに、多分彼が庶民の生活には向いていない、そう考えたエリザは彼を選ばなかったし、彼女に振られたから自分と結婚する、そう考えそうな殿下をアネモネも諦め、殿下と決別した。殿下も2人に振られ、漸く現実を知ったようで。新しい婚約者を愛する努力をすると決意したようだが、ちょっと遅すぎたような…。


3人は知らないだろうし、今後も知ることがないだろう。これはシーゼット殿下が立てた、計画の一部だということを。3人を別れさせ、自ら3人を国外に行くよう誘導し、結果として国外に追い出したことを。


アネモネは国外の貴族に見初められて嫁ぎ、ライオット殿下は国内では相手にされない為、婿養子として外国の貴族と婚姻、エリザもまた国外の商人に嫁ぎ、今は外国に住んでいる。それらのシナリオが王太子の企みとは、誰が気付こうか?…現にわたくしも後に知らされたのだ、彼らはもう、と…。


こうして、わたくしも本来のミーシャーナとして、シーゼット殿下と共に王立学園に通う新しい生活を送り、その後は彼と共に人生を歩んだのである。






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 漸く、断罪の結末が出そうです。3人は、どうなるのでしょうか…。


正式に第二王子殿下が、王太子となりました。王太子はミーシャーナを選ぶと宣言しましたね。


知らないうちに3人は、国外追放に自ら誘導されていたとは…。シーゼット殿下、怖いかも…。一見して、3人は幸せになっただけの感がしますが、実は色々と問題が……。この真実は、番外編にでも書けたら、と思っています。


これでひと段落つきました。次回からは、話がガラリと変わります。



※読んでいただき、ありがとうございます。既に、GWも終了された人もあるかと思いますが、もう暫くは更新が続きます。よろしくお願いします。

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