第21話 練習試合

「やっとお前らとできるな」

「楽しみ」

 今日は大会直前の練習試合。相手は神奈斗たち率いる大河原高校。この学校は特に有名校というわけではないが、アメリカからきた強い兄妹がいるということで地味に有名になってきている、

「私の学校の生徒二人がすいません」

 顧問が俺らに謝ってきた。神奈斗と桃花ちゃんはよく俺らの学校に来ている。頻度は相当なものだ。その自由さはこの二人の実力があるからこそである。

 とはいえ、顧問からしたらほかの学校にちょっかい出すのはダメな案件なのだろう。こっちからしたらやる気がでたからよかったものだが。

「いえ、気にしないでください。強い二人の実力を生で見れるのはしげきになるので」

 顧問の対応はしっかりしている。こう見えて部活あんまこないけどバスケやってたらしいし、スポーツマンとしてはしっかりしてたと聞いている。

「よろしく頼むは大輔」

「慶友こそ」

 こっちの部長の東郷大輔先輩と大河原の部長の桐生慶友(きりゅうけいゆう)先輩は中学時代の仲間らしい。大河原も俺らと似て混合で成績を残す気でいる。それはもちろん俺らと同じように男女別のほうでは難しいからである。しかし、この学校はそれだけでなく、神奈斗と桃花ちゃんという最強の二人を合わせることが何よりも混合の試合に力を入れる要因である。俺ら以上にあの二人は一緒になると実力がやばいからだ。


「悠人と花南ははじめは下がれ」

「なんでですか」

 監督よりいきなりのスターター落ちの宣告。実力の関係ではないのはたしかだ、いきなり神奈斗とやれないのは少しだけつらい。

「あの二人はバケモンだ。お前らが序盤でばてるのはさすがにまずい。こっちはお前らを同時投入するときは差をはなしてからだ。そこまでは、差が離れないようにうまく交代していく。心配していると思うが、大河原はうちと同じく二人が主体だ。それ以外は、穴があく」

 監督の言い分は一理ある。だが、それは実際の試合の時にやるような作戦。練習試合で勝ちにこだわる必要はない。今まで作ってきた連携を崩すのはなぜだろうか。

「その関係で司令塔は来馬。攻めは岡江中心にする。三井と小野はガードをしっかりしろよ。もし二人同時投入してくるのであれば、岡江が宮川妹を小野と西島で兄を止めろ。カバーは三井に任せる」

 つまりスタートは唯、蓮花、夏奈、大我、純太。ものすごくバランス型。守りも攻めもしっかりできる編成だ。

「私一人でですか」

 強さを目の当たりにしたことがある唯にとって桃花ちゃんを一人で止めるというのがどれほど難しいことか理解している。それにまだ、体力が完全に戻ったわけでない。

「わかっている。お前は抜かれてもいいが目を鳴らせ。相手はお前のことを知んないから容赦はしない。花南みたいに」

「なるほど」

 花南は自分では手を抜いている感覚はないが、唯と練習では力が抜けてしまう。おそらく体力面などでの心配からである。

「桃花ちゃんは早いけど対応力は低い。最初に桃花ちゃんがつくったゴールまでの複数のラインをすべて止めれれば動きは止まるから」

 さすがに花南は桃花ちゃんのことを理解できている。桃花ちゃんは本能タイプに見えて実は頭脳タイプ。獣の力を使えば本能になり止めるのは困難。だが、それ以外の場合は相手の動きを予測して一番最善のゴールまでのラインを想像する。さらに阻止されることを予測して複数の枝分かれの道を作る。桃花ちゃんのすごさはそのラインが無数にあること。一度感覚がつかめれば次の予測もできなくなるわけではない。ミスをするからこそさらに多くのラインができてしまう。

「わ、わかりました。なら予測してみます」

 唯も結構考えながらやるような選手だからもしかしたら攻略できるかもな。


「えー。二人でないの?」

「多分監督の指示だろうよ。どっちもでいいけど俺ら二人がでりゃ勝てるし」

 相手はフルメンバーを投入してきた。おそらく神奈斗だけでなく、全員がレギュラー。こっちとは差ができそうだ。

「悠斗。よく観察しろ。お前にはそれが大事だ」

 観察か。まだ見たことのないプレイがあるのだろうか。

「お兄ちゃん。今日は禁止?」

「もちろん」

 あれ以来。花南は獣の力を制御はできないが、限界が来る前に元に戻ることができるようにはなった。(だいたい十回やったら一回くらいのペースで)

 まだ獣の力を開放しながら自分の意志でプレイはできていないし、相手が強いと元に戻れないことがおおい。リスクを考えると公式戦以外での使用は禁止にしておいたほうがよい。

「わかった」


 ピー!

 笛の合図とともに試合が始めったジャンプボールは神奈斗がせいした。そのまま桃花ちゃんがボールを持ち。一気にゴールに切り込む。

「させない」

「君が花南姉の代わりか。でも、私には勝てないよ」

 桃花ちゃんのするどいドリブルが完全に圧倒している。誰しもがカバーに入るか入らないのかのせとぎわだ。だが、一歩踏み出すだけでもパスコースができてしまう感覚もあるためなかなかカバーに入れない。

「・・・・」

 唯が完全に集中している。誰しもが警戒をしているなか、唯はただ、京香のボールだけを追っている。

「いきなり、すごいね」

 花南は攻めるのをあきらめ後ろにいる神奈斗にパスを回した。

「攻めないんだ」

「む、」

 さらに唯は挑発をする。おそらく自分の限界を悟らせないためだろう。今の一瞬だけでも相当な力を使っている。これはフルではきつそうだ。

「唯ちゃんすごい」

 花南も関心をしている。

「あいつを止めるのはすげーわな」

 いつもなら難しくても攻撃をしかけるのか桃花という人物だ。その性格上逃げ腰になる光景はあまりないと思う。だが、いまの唯は威圧だけで桃花ちゃんを圧倒させた。あのワンプレイだけで自分のほうが上だと圧をかけることができたのだ。これが試合の時の唯ということか。

「多分次は止めに行く」

 花南にここまで確信的なことを言わせるということは今のワンプレイはそれほどの実力をみせつけたということだ。

「お前のかんはあたるからな」

 逃げた先は神奈斗。考えてみたら桃花ちゃんはよく見てたけど神奈斗が一人で攻める光景はほぼ初かもしれない。初めての時だってチームプレイ意識していたし。

 神奈斗は特にじゃ間もなくすんなりとゴールを入れた。それは桃花ちゃんとは全く逆で、いつの間にかゴールが入っていたような感覚。それほど、神奈斗動きがきれい。

「よし初得点はもらった」

「ボール私に回してください」

 おいおいおい、あれか。今のワンプレイで火をついたのかあいつ。めじらしく唯が燃えている。

 

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