第16話 目覚める力

 私は今、後輩の岡江唯ちゃんとランニングを始めた。犬山先輩から逃げるため。それで、そんな私を心配した唯ちゃんが多分私の心配をして一緒に走ることにしてくれたんだと思う。今のところダメダメな先輩です。

「花南先輩のあの力知ってて怒ってるとこですかね?無理をするというか」

 力というのは獣の力といわれているやつ。何かしらの感情で発言をするさ。私のは怒りや憎しみがあると、勝手に発動して暴走してしまう。現段階で元に戻れる方法はお兄ちゃんに止めてもらうしかない。それ以外止まらないことからあり得ないほどの負担がかかるためならないようにしている。

「だと思う。でも、あの人には関係ない」

「私はわからないんですが、犬山先輩が理由もなしに怒ってるわけではない気がするんですよ。それを見つければ仲直りといいますか少しは優しくなるとおもいます。私のことも把握しててしっかりアドバイスくれるような人だし」

「違うよ。私は強すぎる。だから邪魔なんでしょ」 

 私以外の人には優しい。だが私にはそんな優しいことを言わない。あの人は私が力があるから嫉妬しているんだ。それにけがも加わりさらに実力が差ができたからだ。

「そんなわけ」

「それがあるんだよね。そうでなかったら部活をやめろなんて言わないし」

 これもただの強気。こんなのでないのはわかる.

 認めさせれば、そう思って練習した。けど、それでも認めてもらえない。直接対決で勝っても、試合で活躍しても、何をしても私はあの人から嫌われている。だから排除をしたい。それ以外に理由なんてあるわけないと思うしかない。

「そうなんですかね。私はそう思えませんが」

「まだ初対面だしわからないだけだよ。すぐに気づくから」

 唯ちゃんはけがから復帰をしようと頑張っている。それならあの人もそれを支えると思う。だから、私みたいなこともされるわけがない。それはもうわかりきっている。


 そこからは少し重くなった空気のままランニングした。

 大体20分くらい走り体育館に戻った。


「蓮花。あまりパワーで押そうとするな。ガタイのいい奴と当たった時こそパスを大切にしろ。それに、純太はカバーが遅い。女子があまり、フィジカルのある人と一対一にならないように動け。あと大我、幼馴染で仲良くするのはいいが、夏奈を意識しすぎだ。お前と違って夏奈は頭がいいから安心しろ。それと悠斗は女子に合わせすぎだ。バランスよくゲームメイクできるようにしろ。」

 戻ってくると混合のほうのバスケを犬山先輩が見ていた。一人一人に的確なアドバイスをしている。一度みただけで欠点を理解してしまうのかこの人。

「戻りました」

「そうか。お前ら二人もコートに入ってくれ」

 戻ってきたのに気づいた犬山先輩が私たちも練習の中に入るよう指示をした。

「わかりました」

 唯ちゃんは普通にコートに戻った。

「何してんだ早くしろ」

 でも、私は抵抗がある。この人はまた、私にひどいことを言ってくるんだろう。そうわかっていてなんで、練習に参加しなきゃいけないの。

「花南」

 お兄ちゃんが心配した目でこっちを見ている。ダメだよ。私のこと優先しちゃ。お兄ちゃんに心配させちゃう。

「ごめん今行く」

 今は無理をしてでも笑顔でいないと。

「よし、俺、悠斗、唯、夏奈と花南、大我、純太、蓮花で別れてプレの試合するぞ」

 お兄ちゃんと別のチーム。何の嫌がらせ?自分でならいいけど、何で命令されてお兄ちゃんの敵をやらないといけないの?わけがわからない。

「なるほど。頼むぜ花南」

「うん。大我君。頑張る」

 大我君は何を理解したんだろう。よくわからない。


「悠斗と夏奈主体。唯は足に蓋がかからない程度にしろよ。俺も病み上がりだし足引っ張らないよう花南を倒すから」

「わかりました。なら、花南は任せます」


 試合が始まった。まずは私たちが攻め。パスを回し相手コートに入っていく。復活して早々の人が私を止めるとかバカげてる。私が負けるわけがない。それを分からせてやる。

「ボールちょうだい」

 大我君がボール持っている。それにいい感じに私が取りやすい位置にいる。見せつけるならもってこいだ。

「蓮花」

 なんで。蓮花についてるのお兄ちゃんだよ。パスが通るわけないじゃん。

「もらった」

 今のは普通にミスだ。でも、カバーはできる止めにいかないと。

「どこ行こうとしてんだお前」

 私がお兄ちゃんを追いかけるのを犬山先輩が邪魔をしてきた。完全に私に一点集中のマーク。周りのことはまったく気にしていない。

「どいてください」

「抜きたいんなら抜いてみろ」

 ダメだ。完全に私の動きがよまれてる。前なら簡単だったのに。身長あるし奥が見づらい。でもそれだけでなんで病み上がりの人に。

 私が犬山先輩のマークを退けれないまま残りの三人がうまくパスを回して点を入れた。

「大我君今の私がフリーだったなのに、なんで私にパスをしなかったの?それもよりによってお兄ちゃんの」

 少し当たってしまった。でも正論は言ってると思う。

「うーん。単純な確率だ。犬山先輩がお前にパスをしたときに届くような範囲にいた。それに、夏奈は唯ががっちり。お前を軽めに警戒して隙が生まれているあの位置が正解だと思った。だが、読み間違えたようだ。次はしっかりやる」

 あの人がカットしに行こうが私は何があってもとる。

「今度は私に回して。しっかりするから」

「おうわかった」

 相手の攻撃。私はお兄ちゃんのマークとなった。

「なんなのあの人」

「っまお前と相性が悪いのはわかっていたし。それでもあの人はしっかり考えていると思う。それに気づけるかはお前次第だ」

 私次第。なんで、あの人のことを考えないといけないの?お兄ちゃんもあの人の味方なの?おかしい。結局私は一人なんだ。

「お兄ちゃんに勝てば。!!」

 何か違和感を感じた。なんだろうこれ。

「花南?」

 この感覚。まさか獣の力?いや、何かが違う。

「悠斗!!」

 気をそらしたときお兄ちゃんにパスが渡った。

「ナイスパスだ」

 動きを見たわけでもないのにお兄ちゃんに勝てないのが見えた。それでも止めないと。

「花南お前は夏菜を止めろ」

 かかさず大我君が私に声をかけてきた。

「兄は私が」

 大我君なんかにお兄ちゃんは渡さない私がこの人を倒すんだ。

「夏菜!」

 お兄ちゃんはフリーになった夏菜ちゃんにパスをし、そのままゴールに入る。

 大我君はカバーをしようとしていた。なのに私が、犬山先輩とのけんで動揺し周りが見えていないから。だからお兄ちゃんに抜かれたときすぐにカバーをしてくれた。それに気づけないんだ私。

「ごめん」

「気にするな。それより大丈夫か?」

「え?」

「いったん力を抜け」

 一度経験してるし大我君は気づいたようだ。私が獣の力が発動しそうになったの。でも、感覚的には何か違う。そう。獣というより猛獣が入ってきたような。あれなんなんだろう。一瞬何かに呑まれそうな感覚が体を走っていた。


 今度は私たちのボール。今度はすぐに大我君からもらった。

「んじゃま。止めるか」

 犬山先輩がきた。パスもできない。これは一対一。絶対抜かないと。

「やっぱり早いわお前。だが、弱い」

 煽ってきた。私のミスを狙わせようとしている。そんなのに乗らない。落ち着いて一本そうすれば勝てる。

「大我君!!」

 うまくフリーになった大我君にパスをした。そして、そのままゴール前に駆け出した。

「ナイスタイミング。決めろ!!」

 大我君も私の動きに合わせてパスをした。

「作戦通りだ」

「え、」

 蓮花にしっかりマークをしていたはずのお兄ちゃんが私とボールの間に入った。蓮花を見ると犬山先輩がマークをしている。私がパスをしてそのままゴールを決めるのすらよまれていた。嘘だ。どこからばれたんだ。完璧に罠にかけれていたはずなのに。

「花南とれ!!」

 諦めていた私の後ろから純太君が走ってきた。そして、お兄ちゃんに届く前にボールを後ろにはじいた。

 そのボールに合わせてうまく動きゴールを決めた。

「ナイスゴールだ」

「ありがとう純太君」

「気にするな。なんか調子悪そうだし俺がカバーしてやんよ」

 勝ちたいって気持ちは強い。でも、思えば思うほど獣の力が近く感じてしまう。一回入り込んだからこそ勝つために必要だと思ってしまっているんだ。

 力を抜こう。一人じゃない。支えてくれる人がいるんだ。

「大我くん。次はしっかりやる」

 お兄ちゃんを見てる暇もない。

「わかった。なら唯を頼む。悠人は止める」

「うん。まかせて」


「先輩私につくんですね。でも負けませんよ」

 目がやっぱり変わってる。試合になった時の真剣さが強い。圧倒されそう。

 

 お兄ちゃんたちのボール。大我くんはお兄ちゃんを止めている。先輩は純太くんが。

「蓮華!!」

 犬山先輩が夏菜ちゃんにパスを飛ばす。

「!!」

 まずい。前に痛めた足がひびいてる。やっぱり試合はきついか。

「カバーはいる。パスカットよろしく」

 さっきのお兄ちゃんたちが見せたあのプレイを再現する。

「わかった」

 うまく交代できた。蓮華ならパス警戒する。ならしっかり。

「唯!!」

 はやい。陣形がまだ間に合ってない。もっと早く。もっともっと!!

 

「ないす花南。よくカバーしてくれた」

 一瞬の出来事だった。どうやって止めたのか。いや自分が止めたのすら気づいていない。全てがおかしい。瞬き一回でゴールに入ってる。私が決めている。

 入ったっていうの?でも入る時の感覚を何を感じなかった。いつもとやっぱり違う。

「私じゃない。あれは。あれは」

 急に力が抜けた。前が歪んで見える。

「花南!!」

「やっぱりこうなったか。ひとまずコートから出すぞ。冷やすもの持ってきてくれ」

 今聞こえた声。犬山先輩だ。やっぱりって。いったい。

 熱い。熱がある感覚がある。さらに何か眠い。獣になったのなら無理もないか。

「ごめん少し眠る」

 

「花南をメンバーからやっぱり外すべきだ」

「なんでですか!!獣は確かな危険ですが」

「それが問題なんじゃない。練習中にあれになるのがまずい」

「と、いうと」

「花南にはいうなよ」

 犬山は花南の今回の力を知っているようだ。

「俺も全ては知らないが、これだけは言える。あの力は花南を壊す」

 いったい花南が感じた新たな力は一体なんなのだろうか。それはいずれわかるであろう。

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