第14話 ひと時の夜
あれ、ここどこだろう。たしか、神奈斗君と桃花ちゃんの家にいたはず。しかし、ここは家でない。二人もいない気がする。
「花南速く来いよ」
奥からお兄ちゃんの声が聞こえている。そちらのほうを見るとはっきりとお兄ちゃんがみえる。
「待って」
走って追いかけた。しかし一向に追いつけない。お兄ちゃんは動いていないのに。「だーめ君は僕の人形さんなんだからクイーン」
急に目の前に竜ケ崎が現れた。
「彼のパートナーはあの子」
竜ケ崎が指をさしたところから誰かができてきた。顔が見えない。でも、私の学校のユニフォームを着ている。
「やっときたな」
「ごめーん」
お兄ちゃんはさっき私を呼んでいた。そして、あの子を見て私が来たように反応した。え、じゃぁ。
「行こうぜ花南」
お兄ちゃんは偽物の私を連れてどこかに行こうとしている。
ち、違う。そいつは私じゃない。騙されないでお兄ちゃん。
「いいや。あれは彼の物。君は僕の物だよ」
パチン!
竜ケ崎が指を鳴らした。それと同時に一気に力が抜けた。
「何をしたの?」
息がしずらい苦しい。
「クイーンは僕の物。だからどこにも行かせない。ただの器にしてあげる」
「…!!」
声が、出ない。まさか本当に人形にされているの?力が抜けてきたからだ。今度は感覚すら感じなくなってきた。
「これで、また二人で仲良くできるね」
い、嫌だ。私はお兄ちゃんとバスケがしたい。神奈斗君たちと対戦したい。まだまだやりたいことがたくさんある。あの時とは違う。
「いいやちがわない。君は変わっていない。結局君は一人なんだよ」
ちがう。ちがう。ちがう!私は一人じゃない。お兄ちゃん助けて。早く。そうしないと私。
「これからよろしくね」
いや。いや。いやーーー!!
「花南姉大丈夫?」
あ、あれここは部屋?じゃーさっきのはゆめ?
「大丈夫だよ。ごめんね起こしちゃって」
「でも涙出てるよ」
桃花ちゃんにいわれるまで涙が出ているのには気づかなかった。私泣いてるんだ。
「大丈夫。恥ずかしいから少し一人にしてもらっていい?」
「うん。部屋に戻るね。何かあったらまた呼んで」
時計を見るとまだ一時。ぜんぜんたってない。
「ごめん」
「気にしないで」
桃花ちゃんが部屋から出て行った。
「ちゃんと動く」
完全に力が抜けた。あれを体験したせいか動けることがうれしかった。お兄ちゃんが離れて行った。それは初めてお兄ちゃんがいないで夜を迎えたからだと思う。じゃぁ。あの竜ケ崎は?今までクイーンといわれていても人形とは言われたことがない。ただの私の空想なの?それとも本当に人形にしようとしてるの?
「花南姉、入っていい?」
桃花ちゃんの声だ。涙はひいたしもう大丈夫。むしろ一人でいるほうが怖くなってきた。また同じようなことが起こる気がして。
「いいよ」
「花南ちゃん。悪いな。俺が変なこと言ったばかりに」
桃花ちゃんと一緒に神奈斗君が入ってきた。
「神奈斗君は悪くないよ。ただ、喧嘩のせいでだと思うけどお兄ちゃんが離れて行く夢見て」
竜ケ崎のことは隠しておこう。まだ、二人に話せる状況じゃない。そういえば、私、神奈斗君の部屋でて泣いたんだ。それからどうしたんだっけ?
「私何でここにいるの?」
「やっぱり覚えてないか。分かりやすく言えば俺の部屋を出た後変な音がしたんよ。それで扉開けたら君が寝ていた。それで連れて行き桃花の鍵を開けて、俺は部屋にもどろうとした。そしたら花南ちゃん起きたんだよ」
全く覚えていない。
「起きたと思ったんだけど、全然動かなくて、そのまま目を閉じたの。だから起きてなかったのかもね」
起きていたのに動かない。人形みたいだ。竜ケ崎が夢で言った計画。それが、リアルにも反映されてしまった。催眠術的な効果が起こってしまったと考えたほうがいいかも。
「二人ともごめん。こんな時間に。もう大丈夫だから」
「わかった。なら戻るわ。何かあると悪いし桃花と寝な」
「そうする」
「やった!」
桃花ちゃん嬉しそう。
「花南姉おやすみ」
一緒のベットに入ると桃花ちゃんはすぐに目をつむった。寝るの早いな―。桃花ちゃんの寝顔ほんとかわいい子供みたい。姉妹みたいにくっついて。でもそれが何より落ち着く。
そのまま夢では特になにも見ないで朝を迎えることが出来た。
「おはよ」
「うん」
私朝弱いからか。桃花ちゃんもう着替え始めている。ん?着替え始めてる時間。
「あの今何時?」
「七時半だよ」
え、それって。
「遅刻しそう」
「安心して。花南姉の学校までそこまで遠いわけじゃないし八時までは寝させておこうってお兄ちゃんが言ってたの」
しっかりとした休養を取らせる。優しいようだけど心臓がバクバクしている。
「まずは朝ごはんあるからリビングに行って。私も着替えたら行くから」
「わかった」
リビングに行くと卵の乗ったトーストがあった。
「花南ちゃんって朝ごはんはだった?」
「いえ、朝はパンだよ」
本当はごはんだけど、これ以上気を遣わせるのも悪いしかくしておこ。
「ならよかった。朝食べたら着替えてくれ。それで学校まで送っていくから」
「いいよ。そこまでしなくても」
「あまり行かないとこだけど大丈夫?」
…私は方向音痴。しかも一回しかいったことない道。昨日も歩いたけど覚えれる心情じゃなかった。
「お願いします」
ついてきてもらうこと。これが最も心配かけない方法だよね。
神奈斗君と花南ちゃんと一緒に私の学校に向かっている。昨夜、お兄ちゃんと喧嘩をしてしまい雨の中助けてくれたのが二人だった。そして、一日泊まることになった。本来ならそのまま学校に行くだけだが、私が迷子になると悪いからと二人がついてきてくれることになった。夢のように力が抜けた感じも今のところはしていない。
「花南姉ほらもうつくよ」
私の昨日のことが原因か二人とも話をしてこなかった。気使わせてるんだよね。私が落ち込んでいるからそっとしてくれている。
「二人ともごめん。せっかく泊まらせてもらったのに何もしてあげられなくて」
「っま。兄がいないからこそいろいろ気づけた。そう思ってくれや」
「そうだよ。獣の力だっていつかは必ず使えるようになると思う」
乗り越えるためには私の弱点の克服。分かっていないがいつかは必ずできるようにしてみせる。
「お、いたいた。花南ちゃんそこ」
神奈斗君が学校よりも少し右側を指さした。
「え」
よーくみるとそこには人がたっている。もしかして。
「お兄ちゃん?」
「っそ。呼んでおいた。あ、あと昨日の夢のことあいつを心配させたくないと思って話していないから悩んでいたら自分から口にしてくれ」
「ごめんありがとう」
相談はしても昨日のことはかくしておこ。詳しく話すと心配されて助けてくれると思う。でも自分の力で乗り越えないと私はもっとダメになると思うから。
「おーい!ゆうにー!!」
桃花ちゃん大きく手を振ってお兄ちゃんにアピールしている。
「花南に桃花ちゃんに神奈斗。よかった」
「お兄ちゃん」
「花南!!」
「ほら行きな。俺らは学校向かうから」
「ほんとにありがとう。この恩は試合で返す」
「そうしてくれ。強い二人を倒すこと楽しみにしてるよ」
「じゃーね花南姉」
二人はそのまま駅のほうに向かっていった。
「お兄ちゃん!!」
「花南!!」
たった一夜会っていないだけなのになんだろう。ものすごくうれしい。これがお兄ちゃんなんだな。
「昨日はごめんなさい。お兄ちゃんは私のこと考えてたのに身勝手に」
しっかりと頭を下げて謝罪をした。
「いやその。俺もさ。お前を怒れないのは悪いなって思えたよ」
お兄ちゃん怒ると怖いと聞いているからなるべく怒られたくはないけど。
ぎゅっと抱きしめあった。暖かい。それにいい匂い。落ち着く。
「教室行くか」
「うん!!」
涙はこらえないと。これから学校なんだし。
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