第12話 本当の兄妹
「ごめんねお兄ちゃん」
私はもう体力が持たないのがわかった。だから曲がるふりをしてうまく茂みに入った。お兄ちゃんは私の走りを見ながらついてきていたし、いざ見失えばそのまま進むのも予想できる。
お兄ちゃんはずっと奥に走る。お兄ちゃんに怒ったのは初めてだ。だけど、あれはお兄ちゃんが悪いと思う。何かうやむやにされて、何が言いたいの変わらない。私は約束を破ったうえに友達を気づ付けた。二度も怒れるチャンスがあったのに、怒らない。ひどすぎる。こんなダメな私を怒らないなんて。
さすがに家に帰るのは気まずいよね。お兄ちゃんになんて言えば許されるのかとか考えたらわからない。どうしよう。お兄ちゃんに投げつけたバックに携帯も財布もある。今の私は何もない。
ポツンポツン
少しずつ雨が降ってきた。やっぱりみっともないな私。お兄ちゃんにあんなこと言って逃げ出して、なのにいざ一人になったら何もできない。怖い。助けて誰か。
「花南姉どうしたの?」
うずくまっていたら誰かに声をかけられた。それに雨が当たらなくなった。
「桃花。急に走んなよ。お前はまだ、療養期間なんだから。って花南ちゃんこんなところでどうしたの?」
桃花ちゃんと神奈斗君か。
「二人こそこんなところでどうしたの?」
「こいつが、こっちのほうの店で買い物したいとかいうからさ付き合ってやっただよ」
顔を上げると、神奈斗君は二つの袋を持っていた。結構買い物したようだな。
「それで悠兄は?」
「喧嘩して逃げたの私。そしたら雨降ってきて」
「なるほどな。なら悠斗に連絡してみるか」
「あ、あの」
今お兄ちゃんにばれたら困る。心配かけて結局誰かに頼ってしまった。私は一人で何もできない。そう思われたらもっとお兄ちゃんが怒らなくなる。
「安心しな。報告だけだよ。少し遠いけどいったん家に来て落ち着いたほうがいいと思う。とはいえ、あいつはずっと探すと思うし、状況説明するだけ」
それなら大丈夫なのかな?でも、今はお兄ちゃんと会いたくない。けど、お兄ちゃんは私を見つけるまで探す。このことには理解できる。無事の報告だけ。それだけなら、携帯ないしお兄ちゃんもわかってくれるだろうな。
「わかったよろしく」
「おけ」
神奈斗君が電話をかけにいった。多分気を使ってだろうけど少し距離をとってくれている。
「まさかこんな感じで合えるとは。やっぱりこの二兄妹相性最高だね!」
桃花ちゃんはえらいな。バスケを少し休むよう言われているのに。それでもこんなに明るくて。
「そうだね。そうだ。あの時の力すごかったね」
あの時は倒れていたし、私と違って力を制御できることがすごいと思っていた。
「あれは本能なだけだよ。二人とやると楽しくなってつい全力なっちゃうんだ。まーそのせいで、お兄ちゃんにはバスケ禁止されたんだけど」
桃花ちゃんは楽しむことが力となっているんだ。私は誰かを憎みむかつき怒り、獣の力が解放される条件はたくさんあるけど、すべてがマイナスの力。そうならないようにと強く思っても制御できない。
「連絡ついたし、家にいこっか。歩ける?」
神奈斗君が戻ってきた。お兄ちゃんからも許可が取れたようだ。
「ごめん」
「いいさ。あいつも結構気にしてたし、すぐにでも仲直りができると思うよ」
全部私が悪い。またお兄ちゃんに迷惑かけちゃった。あの時は冷静じゃなかった。お兄ちゃんだって私のことを分かっている。何も知らない人なら怒っていたのかもしれない。けど、知っていたから優しくしてくれた。なのに、怒れとか無茶を言って困らせた。どうしていいかわからなくなって逃げてしまった。最低だよね私。
「花南姉大丈夫?」
「え?」
お兄ちゃんのことを考えていたら自然と涙ができてきた。
「まずはうちいこうぜ」
「ごめん」
「謝らなくていいよ」
また謝ってしまった。何かあれば謝ることが癖になってしまっているんだと思う。
神奈斗君たちの家に着いた。昔に行ったことがあるしすごく懐かしく感じる。
家に入ってからすぐにお風呂に入った雨で結構濡れていたし。服は桃花ちゃんのを借りることにした。
「カレーでいいか?」
「うんありがとう」
カレーか。私が一番好きなメニューだ。
「それで、花南姉は何で喧嘩したの?」
答えべきなのか。冷静になると恥ずかしいことをしたと思う。でも、いったほうが少しは気が楽になるのかな。
「私が力止められなくて。お兄ちゃんに助けてもらった。私は制御するって約束したのに破ったから怒ってほしかった。なのに、お兄ちゃんは仕方ないって」
「…なぁ桃花」
「ん?お兄ちゃんも気づいた?」
何か二人の空気が悪い。もしかして余計なことでも言ってしまったのかな?
「とりあえず力のことは隠してていいとして、二人は喧嘩経験は?」
「バスケではないよ。日常ならよくしてるけど」
私はお兄ちゃんにからかわれてよく怒っている。それで私もひどいこと言うから喧嘩になることがある。でも、バスケの話をするときは一度もなかった。
「その程度なら喧嘩ではないと思うぜ」
「え、?どういうこと?」
今私たちがしたことは喧嘩じゃなかったら何になるの?わからない。
「それって花南姉が一方的に言ってるだけだよね。気持ちはわかるけどさ。喧嘩として成立してない気が。その程度なら私たち毎日してる…」
毎日、すごいな。二人ともちゃんと自分の意見を持っているんだな。
「すごいね」
「だってお兄ちゃんと私兄妹なのに好きな物とか戦略とか真逆なことが多いからさ。ほんと妹ながら合わせないと終わらないから苦労してるんだよ」
あれ、今よけいな一言があったような。
「そうだな。俺はお兄ちゃんだからな。しっかり妹のわがままも聞いてやらんでもない」
あ、あれれ。神奈斗君も余計な一言を。これが言い争いの原因ってやつなのか。
「は?毎日毎日文句ばっか言って、毎日折れてるの私でしょ?」
「折れるのはお前だ。だが、そのあとお前の意見も取り入れてやってんだろ。ほんと無能だなお前」
「わけわかんない。花南姉どっち悪いと思う?」
二人とも一言よけいだから言い争いになってるような気がするんだけど。普通に話していればいいんじゃないかな?
なんて言えないよね。もし言ったらそこからさらにけんかになりそうだし。ならどっちの味方になるのが早く終わるのかな?
神奈斗君は言い争いに勝ったうえで桃花ちゃんの意見を取り入れる。つまり、軸は自分のにして、桃花ちゃんの意見を添えている。戦術的に考えれば、つよくなるのはめにみえている。
それに対して、桃花ちゃんは、神奈斗君が大人気ないから負けてあげている。裏を返せば自分の意見でなく兄の意見でもいい。それほど信頼を置いているともいえる。
「どっちも悪くなくて、どっちも悪いんだと思う」
「何そのあいまいな意見」
「花南姉しっかり考えればわかるって。お兄ちゃんが全部悪い。そうでしょ?」
ちゃんと考えて導き出した答えのはずなのに、拒否られてしまった。どうしよう。
「羨ましいと思う」
的外れの回答をしてしまった。
「え?花南姉どういうこと?」
大我君と夏奈ちゃんの時も思えた。私はああやってお兄ちゃんと言い争いになるのが嫌。日常のことならできるのにバスケのことで意見を言ってしまうと嫌われる気がするから。
「私って自分のことになるといえるのに、お兄ちゃんとすることとかお兄ちゃんに関係のあることだといつもお兄ちゃんの意見に賛成してたから。そうしないとお兄ちゃん。私のこと嫌いになるから」
部屋がなんちゃらとか言われると怒ることは多々あるし、妹扱いしてくれなかったり他の女の人と話してたりしたら怒ることはあった。でもそれは、私の事情。それにお兄ちゃんが合わせてくれてるようなもの。二人で決めたいこととかになると私は必ずお兄ちゃんの意見を尊重してしまう。
「花南ちゃんは考えすぎだよ。確かにこいつが俺の意見に合わせてくれれば楽だぜ。でも、それだけじゃ逆に心配になるし距離が出来そうだ」
「私はお兄ちゃんになら何でもぶつけられる。気を使う必要もないしね」
これが本当の意味での絆ってことか。
「でも、私にはできない」
「でも、意見のぶつけ合いはよくしてるんだろ?」
「それは過去の話。過去に何かあったから追求してそこからけんかになる。でも、そのあとのことは何も言わない。私は間違っているから」
私が自分で行動するとろくなことがなかったからお兄ちゃんの意見に頼ってるだけ。正しいのはお兄ちゃんと考えている。
「だからか」
「え、何が」
「ううん何でもない。お兄ちゃんその反応は花南姉がかわいそうだよ」
何かを隠している気がする。反応し方がそもそもおかしい。それなのに桃花ちゃんも反応に関しては何も言わず、かわいそうだからという理由で注意した。
「話してよ」
「なら、君の獣の力を教えてほしい。それなら話してやるよ」
獣の力。違うあれは獣なんかじゃない悪魔の力。
「なら隠したままでいいかな」
笑顔を見せた。あの力を説明すればもしその時が来た時二人は私を止めに来る。そうしたら試合どころじゃない。たとえ、あの力になっても試合を続行させる。それが二人に勝つ方法。
「手の内は隠すってことだな。まーそれならいいか。難しい話はこれで終わりってことで飯にしようぜ」
神奈斗君は私と話しながらも料理をしてくれていた。出てきたカレーはものすごくおいしそう。においといい見た目といい。まるで店のカレーみたい。こんなもの作れるってすごいな神奈斗君は。
うまく話をきったのも私のことを考えてくれてだよね。いい人だな神奈斗君って。
「ありがとう」
「お兄ちゃん料理は自信あるから」
「バスケもな」
「そうなの?」
「そうだろ」
二人の会話見てるとほんと仲いいのがわかる。二人暮らしってのもあるのかな。
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