第8話 憧れのヒーロー

 今日は部活を休むことにした。理由はけがをした花南を部活に行かせないため。花南は昨日、岡江唯のおかげでけがをする前に負担がかかっていることに気づけた。桃花ちゃんの強さに感化され、少し無理をしてしまったことが原因である。そのため、今日は部活を休ませるようにした。

 これもそうだが、俺は岡江唯をチームメイトに入れたい。そのため、あいつが昨日一人で練習していたコートであいつのことを待つことにした。


「ねぇもしあの人がまた試合とか言ったら私やっていいの?」

「ダメに決まってるだろ」

 何のために休ませたと思ってるんだよこいつは。

「えーでも。あの子強いよ」

「そこはなんとかするさ」

 今日あいつを説得できなければ確実にもうメンバーにはなってくれない。多少の無理はしないといけないな。

「あれ―誰かいるよー」

 花南と二人で座っていたら遠くから声が聞こえた。

「珍しいものだな。この時間に人がいるとわ」

 振り返ると身長高めのメガネ女子と。テンション高そうな身長の低い男子がいた。

「君らそこは先客いるよ」

「岡江唯のことか?」

「何で知ってるの!?」

 この反応は知り合いのようだな。

「当たり前だろ。こいつらは唯と同じ学校だ」

 どこの学校にいたのかまで知っている奴のようだな。

「なるほど」

「紹介が遅れたすまない。私は二年の結賀先奏だ」

「俺は二年の岡江陸斗。あ、苗字同じだけど唯とは親戚ですらないから。俺たちは小学のころからの幼馴染」

「だが、唯がけがをしてあいつとは会わなくなった。というか避けられてた」

 結局はあいつも孤独の天才とか言われているのに仲いい奴がいたんじゃねーか。

「中野悠斗と中野花南。双子の兄妹だよろしく」

 花南の初対面の人への人見知りが発動しているし俺から紹介した。

「へー双子で兄妹。つまり混合に出るんだね」

「まーそうだけど」

「唯はどうするか聞いてる?」

「聞いてはいないが、混合に出したいとは思っている」

「ほんと!!よかったね奏」

「だが、決まったわけじゃない。だからここにいるんだ」

 このいかにも自分の意見が絶対主義者でよくいるようなやつだ。とはいえ、完全によまれている。

「なんでいるんですか?」

 急に唯が現れた。

「混合に入るよう説得しに来た」

「そうですか。勝手にどうぞ」

 お前のこと言ってるんだけどなー。完全にむしられてるだろ。

「ねぇ唯。この人たちも誘ってくれてるんだよ」

「うっさい。邪魔だから帰って」

 ほんとに幼馴染だったかわからないなこれは。

「帰るか花南」

「え、でも」

 こいつのことがわからなすぎる。今説得しても絶対に首を縦に振らない。少しだけでも可能性を伸ばしたい。だからこそ今は立ち去るべきだった。


 その後解散をする不利をして奏たちを引き留め喫茶店に向かった。

「なるほど。あいつのことを知りたいと」

「頼む。いえる範囲でもいい」

「わかった。いいよ」

「まず、唯はヒーローにあこがれていた」

 何か変なこと言ってきたな。

「どういうことだ」

「あいつにとってヒーローはジェイギャロット選手」

 ジェイギャロットNBAでプレイしていたスーパースター。誰しもがあこがれる存在。

「俺たちと出会ったのもあいつがギャロット選手の雑誌を読んでいたからだ。そして、私たちが入っていたスポーツクラブに勧誘したんだ」

 つまり、バスケ選手は好きだったけど自分でやろうとはしていなかったってことか。

「そしたらどんどん唯はうまくなった。先に始めた私や陸斗よりもはるかに」

 バスケのセンスはあったようだな。またはギャロット選手の動きをまねることが出来たか。どちらにしても相当な才能と努力家なことがわかる。

「だけど、小学5年の時唯は膝を壊したの。原因はギャロット選手をお手本にしていたせいで膝への負担がひどかったから」

 小学校でけがをしてしまった。原因は憧れに追いつくため。まだ、体がしっかりできていない人が、スーパースターの真似をするのは唯みたくけがをしてしまう。

「それからしばらく学校を休んで。戻ってきたんだけど。話しかけられても無視されて。そのまま俺らは卒業。それ以来唯とは中学も違ったらしく会うことがなかった」

 二人はひとつ上で唯だけが年下。だから、唯の小6時代のことは二人にはわからない。中学が違うということは転校したか、そもそも二人のいる学校を割けたかのどちらかだな。

「だが、中学で唯の名前があった」

 中学で復帰した。それで全国レベルだもんな天才すぎるだろ。

「唯を見つけたときもう全国レベルになっていた。だけど」

「あいつは一人でいた」

 最初からこいつは避けられる存在だったってことか。

「試合を見ると他の部員は攻めることなく唯一人で攻撃していたんだよ」

「もしかして、黒い弾丸?」

 花南が口をはさんできた。黒い弾丸というのは花南が俺に言ってきたあだ名。広まっているわけではない。黒い弾丸は一人で全員を抜いてゴールを決める。弾丸が一人で点を決められるから四人は確実に守れる。相当強かったと花南が言っていた。

「黒い弾丸。ww。あってる。君センスあるわ」

「え、でもあの人ってたしか」

「そうだ。あいつは周りから信頼されていたからできたわけでない。あいつは会話が苦手だからな。よく人が傷つくようなことをいう。本音といっているといえばいいように聞こえるがな。結果的にあいつは一人でやらされていた」

 花南から聞いた話だと黒い弾丸が疲れても誰も助けに行こうとしなかった。それで完全に力尽きた。

「つまり、やめた原因は嫌になったからか?」

「わからない。あいつが何を思ったかなど。俺たちの知っていることはこれくらいだ。すまない。あまり力になれなくて」

 相当な情報をてにすることができた。

「むしろ感謝しかない。ありがとう」

「それで、どうするんだ?」

「説得する。しっかりあいつの意見を聞いて」

「ふん。なら安心だ。君らにまかせるよ」

 なんか上から目線で言われている気がするんだが。っま気にしないでおこ。


「お兄ちゃんどうやって説得するの?」

「まずはやめた理由を聞きだす。話はそれからだ」

 あいつには必ずしっかりとした理由があるのがわかる。なぜならどこか昔の花南に似ているから。おそらく一人で抱え込んでいるんだろうな。

「話してくれるかな?」

「大丈夫だ」


 再びコートに戻ったら休憩をしていた。

「また来たんですか?」

「一つ教えてほしい。なんで昨日花南の足が負担でけがするとわかったんだ」

 ひとまずは答えてくれそうなことから聞いた。

「足の動き。片足をかばうために左右の足の動きに違いが見えただけです。まさか本当にけがをしているとは思ってなかったですよ」

 やはりそうだ。こいつは人を避けているが、しっかり人を見ている。だったら

「それをなぜ伝えなかった。お前はけがをさせたかったのか」

「私は関係ないですし」

「それが本音か?違うだろ」

「なんなんですか?先輩だからって少し度が過ぎてると思いますよ。もういいですよね。帰らないなら私がいなくなります」

 こいつはこうやって人を避けてきた。バスケができなくなって友を避けるようになった。再びバスケを始めたら周りから悪い目で見られるようになった。

「お前は、周りからの評価を気にしてる。だから言いたいことが言えない。そして、避けることで誰も気にしなくなる。そうだろ」

「お、お兄ちゃんさすがに今は」

「興味ないです」

「しょうがない。お前が言いたくないならはっきりといってやるか。お前は自分がバスケ以外に誇れるものがない。そして、お前の憧れているヒーローというのはおそらく周りから尊敬されることだろ」

「あいつから聞いたんですか?」

 帰る動きを止めて食らいついてきた。

「そう。だが、本当は違った。力があったお前は評価される。だが、けがをしたお前は相手をされなくなると思った。だから現実にしないために避けだした」

 すべてをぶつけてやった。こいつは褒められたかった。だが、褒められるものが少ないと思っている。そして、バスケができなくなった自分は褒められるものがない。必要とされていないと思われないために自分から必要とされるのをやめた。それで、二人から避けるようにした。中学の時だって同じだ。あいつは、ただ周りが弱いから見たことのない景色を見せたいだけなんだ。そうすれば、頼られると思ったから。だけど、実際は誰も勝つことにこだわっていない。それに気づいたときにはあいつは一人だった。だから部活をやめた。

 ではなぜバスケをしているのか。それは単純。バスケをしていれば変われることを今でも信じているから。

「うっさい。何がわかるっていうんだ」

「なぜ誰の声も聴こうとしない。あいつらはお前を応援してたんだろ」

「あんたといるとイライラしてくる。だから今度は男の先輩を倒す。もし負けたら今後私とかかわらないでください」

 ひとまずは作戦通り。ここまでは、完璧だ。だったら次は俺が勝てばいい。

「だったら俺が勝ったら謝れあいつらに」

「は?なんでですか」

「やるのか?」

 理由なんてあいつが一番わかっていることだろ。プライドもちすぎだ。

「わかりました勝てば関係ないですし」


「ルール前と同じでいいですよね」

「サドンデス。点を決め止めたほうが勝ち」

「先輩からでいいですよ」

 俺のドリブルから試合が始まった。

 はじめはのろりくらりのドリブル。唯はやはりうまいことから確実に止めに行くため取りに来ない。

「だったら」

 一気に切り始めた。そして、唯の足の動きに合わせタイミングをずらしそのままゴールに入れた。

「っち」

 悔しいって気持ちは残っているようだ。こいつは実力はあるがタイ人向けでない部分もあるだろうな。


 今度は唯のボール。しかし、花南の時とは違い、速攻をかけてこない。

「どうした?」

 唯の顔を見ると涙を流していた。

「え?」

「いやほら涙」

「え、なんで。私。違うこんなの私じゃない。私は強い。誰からも私のバスケを否定させない。間違っていな…」

 ドリブルが止まった。そして、膝をついた。

「大丈夫か?」

「私の。バスケって何?私はなんでやってるの?黙らされるための?褒められるための?わからない」

 いったいどうしたのだろう。たしかに俺が言ったことが彼女に響いたのかもしれないだけど、それだけでこんなに動揺するのだろうか。まさか、たった一本決めただけで自分を否定しまったのか。

「立てるか?」

「先輩教えてください。私はここで勝つべきなんですか?」

 いや違う。たしかにこいつは極度の負けづ嫌いだ。だが、それいじょうに自分の間違いに気づいている。だが、だれもそれを指摘していない。だから自分で自分を守っていた。距離を置くことで罪を償おうとした。だが、俺にしっかりといわれ逃げ道がなくなった。ここで勝ったところで変わらないのに気づいていたんだ。

「どうした急に」

「私は勝ちたい。なのに、体が動かない。涙が出る。おかしい」

 俺の言葉一番大事な心には届いたんだ。なのに高いプライドのせいで動かなかっただけ。

「お前は負けないんだろ」

 コートから離れたところから大きな声が聞こえた。

「え?」

「そんな弱い唯は嫌いだぞ。お前はつねに強い相手を倒した。弱くても手を抜かなかった違うか?」

 まぎれもなく来たのは陸斗と奏だった。

「私は」

「お前は考えすぎだ。もう気づいているんだろ。そいつはお前を必要としている。勝つためにだ。お前の求めていたものだったろ」

「奏」

「許してほしかったらそんなやつ倒しちゃえ。まさかできないのか」

「うっさい!!誰が負けるって言った。勝つ」

 唯が立ち上がった。

「それでこそ唯だ。がんばれ。俺たちのヒーロー!!」

 この一言が唯のすべてを吹き飛ばした。いや、この二人が元の唯にしたんだ。

つまりだ。

「勝てっかな俺」

 花南の時よりも気迫があるくせにすごく落ち着いている。。これが唯の本当の強さなのか。

「先輩。すいません。嘘つきました。私ここで勝ったらお願いがあります」

「聞いてやる。優しい先輩だからな」

 あいつのいいたいことはなんとなくだがわかってしまった。

「私は負けない。誰にも。それが否定されるのならわからせるだけ」

 

 それからのあいつはやばいほど速かったし動きが綺麗だった。これが唯負けたが悔いはない。

「あー!お兄ちゃんが負けたー!」

「先輩その程度ですか?」

「うっせー。お前が弱っちいから手を抜いただけだろ」

「それで先輩にお願いがあります。私試合に出たい。陸斗にも奏にも負けない。あのアメリカから来たあいつらにも負けない」

 どこで見てたんだよあの二人のこと。

「いうじゃねーか。っまいいぜ。強い奴は大歓迎だ」

「改めてよろしくお願いしま・・」

 倒れた。

「ほーら無理するから」

 コートに入り陸斗が肩を貸した。

「どゆこと?」

「こいつ実力者なんですが、約一年バスケから離れたせいで体力は三分の一以下になり、本気でバスケできるのは今はワンプレーのみ。つまりです」

 あ、なるほど。こいつ欠陥なのね。だいたいわかった。

「ブランクが治るまでは試合に多く入れないってことか」

「すいません。部活に合流しようと思ったら思ったより体力なくなっててなので、迷惑かけないために一人でやってました」

 こいつ結構かわいいところあるじゃん。花南と唯。こっちは女子の層がものすごく強いな。まじで全国狙えるんじゃねーか。

「お兄ちゃん」

 横で顔をふくまらせている花南がいた。

「どうしたそんなかわいい顔して」

「唯ちゃんのこと好きになったでしょ?」

「は!?」

 何を言ってらっしゃるこいつは。

「なーんか二人で楽しそうでしたね。私はもういらないっぽいし勝手に帰るね。あとは二人でどうぞ」

 二人といっても陸斗と奏もいるだろ。

「まっ待てよ。俺はお前が好きだぜほんとだ」

「どうだか」

「ははは。面白い人たちじゃん」

「ほんと。ところで二人はどこの高校なの?」

「そういえば言ってなかったな。甲王だ」

 甲王ときいて俺と花南の足が止まった。

「今、甲王といったか?」

「そ、そうだがどうした?」

「竜ケ崎宗助って知ってるか?」

「うん。そうちゃんがどうしたの」

 竜ケ崎宗助。こいつは甲王に行ったと聞いている。そして、俺はあいつに因縁があるのだ。

「ならそいつに伝えておいてくれ。俺はお前を超えてるって」

「う、うんわかった」

 俺と花南と宗助。この三人の過去はいずれ明らかになるだろう。いまいえることは神奈斗が最強の壁だとしたら、宗助は最恐の壁だ。

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