第7話 孤独な天才
三年生は男女別に専念してもらうと考えて、二年生と一年生を中心にメンバー編成をすることにした。今のところはいつもの四人に部長二人それと幼馴染で付き合っている小野大我と西島夏奈の八人だからあと最大人数にするなら六人は必要になるのか。先が遠い。
「先輩俺のプレイ見ててください!!」
今日も一年生をみている。そして、なぜか早川が俺にアピールをしだした。よっぽど混合にでたいのか、それとも試合にでるためか。どちらにしてもやる気はあるし人数足りなかったら入れてやるか。
花南は今日は俺とでなく普通に女子の練習に混ざっている。たまには、そっちで練習したいんだと。
「…どうも」
見たこのない女子が前に来た。
「一年の岡江唯ですよろしくお願いします」
一年にしては威圧がすごいな。
「俺は二年の中野悠斗よろしく。ところで君は部員?」
「一応。でも、他の人と同じにしなくていいです。私は勝手にやってるので」
そういい、外にでていった。ランニングだろうか。
「岡江か」
「知ってるのか?」
「もちろん。あいつは孤独の天才。全国レベルのやつですよ。県大会でよくいました。会話はしたことないです」
孤独の天才。これを聞くだけでも、あきらかにぼっちなのはわかる。他人と話すようなやつではなさそうだな。
「どれくらい強いんだ?」
「120-40が彼女のベストスコア。しかし、昨年は試合にいませんでした」
やはり全国レベルの選手。実力差がある点数だ。
「なぜだ?」
昨年は試合にでていない。これには少し引っかかってしまった。けがなら理解できるが。
「120点のうちあいつが決めたのは120。なんすよ」
「アシスト入れてか?」
さすがに全国レベルのチームだ。一人を主体にしたプレイスタイルにはしないだろう。
「いえ、あいつが120点入れたんですよ」
「そんなやつがなんで試合にでてないんだ?」
「その結果、あいつは部活をやめたんですよ。そもそもそこまで強いチームでなかったんで浮いてしまったとかでしょうけど」
周りが弱いからやめてしまった。だったら、なんでこんな学校のバスケ部に入っているんだろう。
「だったらうちにくる理由がない」
「あいつは強すぎる。だけど、楽しくやりたいだけっすよ。どうせ」
この言い分で大体のことは理解できた。つまり、強豪校でない時点で彼女のいる場ではなかった。そのせいで、彼女の実力は他の部員の楽しさも奪った。それに気づいてやめた。
「それにしてもまさかうちに来てるとは」
強豪なら強豪校に行くべきと考えているのだろう。そうすればもっとガチになれる。やばい、少しあいつのこと気になってきてしまった。
「よし。あいつをメンバーに入れよう」
とっさにひらめいた答えがこれだ。そんなバケモンがいるなら試合に出さないわけがない。一年なら先輩も目をつけていないはず。
「本気っすか?おすすめしませんよ」
「とりあえず走ってくるわ」
早川の言い分を無視してランニングにむかった。
岡江を探したが校内にはいないようだった。外で部活をしている人たちにも聞いたが見ていないといっていた。外に出て行ったんか。怒られると思うが探しに行こ。
しばらく走っているとドリブルの音が聞こえた。
近づいてみると大きなフィールドに一人でバスケをしている人がいた。
「何しに来たんですか?」
声でもうわかった。岡江だ。
「部活中だろ。早く戻れよ」
「言ったでしょ一緒にしなくていいって」
俺と話しながらも手は止めていなかった。動きは繊細。花南の動きに似ている。
「何で一人でやっている」
1人でやる分なら別にいいが、それでは別に部活に入る理由にならない。
「練習がはかどるからです」
はかどる?個人技を高めたところで意味がないだろ。
「だが、バスケは一人でやるわけじゃない」
「はー。もういいや。今日は帰ります。さようなら」
「おい待てよ!!」
コートから出ようとした岡江を止めた。
「なんですか?」
「いや、そ、そのだな」
なんかいってひきとめねーと。
「あの、先輩」
「なんだよ」
「先輩は実力がある。それは見ればわかる。なら、なんでもっと強くしようと思わないんですか?あんな雑魚をしつけたら弱くなりますよ」
こいつは実力主義。まわりがどうであれ、自分が強ければいいってやつだ。だから試合も弱い奴に回すより自分でやったほうが勝てると考えた。それ120点の謎ってことか。
「そうじゃないだろ。個人競技でない以上。チームで戦わないとだろ」
「興味ないです。別に試合にも出す必要はないので。私はただ、所属ってなっていれば親にも文句言われないので入ってるだけですし」
相当皮肉れてこいつ。たが、ますますこいつをメンバーにしたいと思った。絶対にひきづりこんでやる。
「なら、相手してあげるよ」
後ろから妹の声が聞こえた。
「何で来たんだよ」
「蓮花がお兄ちゃんが校舎から出たといってたから様子見てきたんだよ。話は盗み聞ぎしてたし状況は分かった。この子の相手なら私が適任だよ」
たしかに孤独の天才と呼ばれてる時点で相当な実力者だってわかる。それに女同士のほうがいいか。孤独天才というのなら花南も一緒だしな。
「なら一本だけですよ。あんまやると負担かかるので」
負担。やはりけがをしているのだろうか。
「わかったいいよ」
一本勝負、互いにどちらもやり、片方が入れた場合その人の勝ちとする。
先行は岡江だ。
「さっさと決めます」
岡江は一気に花南のいるところまで走った。真っ向勝負。見てる側としては面白い展開だ。
「なめられたもんだわ。お兄ちゃんの前だし負けるわけにはいかないの」
「…」
花南の前で止まった岡江はドリブルのスピードをあげた。そのペースはだんだん早くなっていく。
「先輩。これでを終わりです」
花南もボールをしっかり見て、相手の動きを詠んだ。そのおかげで、岡江が全く抜けなくなっている。
しかし、なぜだろう。すごく花南が辛そうだ。
そして、初歩的な抜き方だったが花南が対応できずそのまま点が入ってしまった。しかも花南はつかれてきっている。彼女はいったい何をしたんだろうか。
「これで終わりましょ。無駄なだけです」
「何言って」
反論しようとすると岡江が花南と肩を組み持ち上げた。
「先輩。けがをしてたら意味ないっすよ。良太先輩も妹が無理してるんですからしっかり見てやらないとですよ」
けが?その様子は全くなかったが。
「いいから別に」
花南はまだやる気があふれているようだ。
「けがは悪化させるわけにはいかないですよ」
見る目だけはあるようだ。相当無理をしている。
「悪いな。あとは俺が連れて行くよ」
「膝に負担がかかってます。特に右足のケアをしてあげてください」
岡江が帰っていった。
「お前、けがしてたのか?」
「ごめん。けがってまでではないけど、違和感あったから」
俺を少し避けて練習してたのはそれがばれないようにするためか。
「そんなに悔しかったのか?」
こいつがけがをするくらい負担をかけて練習してるとなると理由は前の桃花ちゃんの化け物みたいな力をみて、自分もあの領域に入りたいと考えたのだろう。
「ごめん」
「やるのはいいが、けがしたら元も子もねーぞ。あいつがみて」
いや、待てよ。なんであいつ花南がけがをしていることわかったんだ。今日初めて会った。だが、花南は俺の近くにいなかったからあまり見ていない。前の試合の時もいなかった。なのに、試合をする前からなんで気づいていたんだ。
「どうしたの?」
「いやなんでもない。まずは部室に帰るか」
あくまで仮説にすぎないが、あいつが一人でやる理由がわかってきた気がする。あいつがたしかに孤独なのかもしれない。だが、誰よりもみんなを見ている。九人目のメンバーはあいつにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます