5日目 儀式の合間

「これより儀式は休憩に入る! 再開時には鐘が鳴るのでそれを合図にするように!」


 人で満ち満ちた広場の中心、一段高くなっている場所にカインは居た。

 下の衛兵が声高に叫んだのを確認しにこやかな表情を保ったまま、緞帳に隠された舞台裏へ消えていった。


「お疲れ、大丈夫か?」


「おー、服が苦しい」


 すぐ裏に控えていたアルフリッドが冷たい水を差し出すと、カインは一気に煽り服を崩していく。二人以外の姿は無く、遠い喧騒だけがその場に響いていた。


「あと五名だそうだ。この分だと日暮れ前には終了する」


「んー……五人かぁ」


 手渡された名簿にはどこかで見慣れた貴族の名前が並んでいる。その横には年齢や特徴が書かれているが、全く目をくれずにポケットに押し込んだ。


「増えると思う?」


「さすがにもう無いだろう。これ以上はお前にも負担がかかりすぎる」


「今日で最後と思えば平気だけどねー。そもそも、今の状況で終わると思ってるのか?」


「それは……」


 この五日間持ち寄られたのは、どれも似たり寄ったりの料理だった。そのどれが一番だったかなんて、膨大な量を食した身では選ぶ気にもならない。

 隅に用意された簡素な椅子に腰掛け、笑顔を貼り付け続けたせいで引きつり始めた頬をぐにぐにと解しながら呟いた。


「ま、それでも何かしらの結果を出さなきゃいけないんだけどさ」


「カイン……すまない」


「何言ってるんだよ、オレが始めたことなんだから」


「だが……!」


「くどいぞー。今、お前はお前のことだけ考えとけ。お前が考えるべき事は何だ?」


 足を組み、下から睨み上げる視線はアルフリッドを強く射抜く。極まれにしか見せないその視線に、不自然に布を貼られた胸元に手を当てる。


「……俺自身の事」


「よし、しっかりしろよ」


 目元を緩めると同時、舞台の下から大きな声が聞こえてきた。それをきっかけに人々の足音とざわめきが再び近付いてくる。


「時間だ。行ってくる」


 すっと立ち上がると服装をきちんと正し、最後に髪を一撫でする。すれ違い、そのまま歩き始めた背中に向かいアルフリッドは一言投げかける。


「……頼んだ」


 それに振り返り一歩戻ると、自信に満ちた表情で口を開いた。


「オレを誰だと思ってんだ? お前の従兄弟で、幼馴染で、一番の」


 お互いの拳を掲げ、軽く打ち付け合い、同時に呟いた。


「親友だ」


 ニヤリとした笑みを浮かべ、後ろ手を振り舞台へと進むカインの姿は、どこまでも自信を放っていた。

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