2日目 少女達と青年達の話
「はー……そんなことがあったんだぁ」
「まぁ、ね。最初はどうなることかと思ったけど、二人ともすごくいい人だし、あんま貴族っぽくないのよね」
失礼かなと思いつつ、自分にとっては褒め言葉だからいいかと思い口にする。
「へぇー、意外だね。あんな格好いいからもっと鼻にかかるような奴かと思ったよ」
「さっきときめいてたくせに」
「あ、ばれた?」
あははと照れ笑いをするサリーを微笑ましく感じつつ、作り置きのお茶を注ぐ。
「ん、ありがと。それでそれで? ミーナはどっちが好みなの?」
「……へ?」
カップを両手で包みつつ、興味津々な様子のサリー。
(好み……? そもそもそんな対象じゃないと思ってたんだけど)
と思ったところではたと気付く。
(けどってなんだ、けどって!)
「ミーナ?」
黙り込んでしまったミリーナを不思議に思い、サリーが声をかけてきた。
「え? あー……好みって、そもそもそんなこと考えていい立場じゃないから。だって貴族様よ?」
「そうだけどさー、思うのは自由じゃん? あたしは赤髪の人だな、すごい紳士だったし!」
普段は全然違うし、あんな姿は初めて見たというのは黙っておこうと思った。
「で、ミーナは黒髪の人が好みだったり?」
「えっ? ちょっと、何でそんな話になるのよ!」
「えー、だってー頭なでなでされてたじゃん? ミーナってば抵抗もせずにされるがままだったしさー。
よっぽど気を許してないとあんなことさせないでしょ?」
サリーの言うことはもっともだ。普段から年齢の近い異性との交流は無く、いきなりそんなことをされたらびっくりして逃げるか、思わず手が出てしまうかもしれない。
それなのにアルフリッドに対しては、むしろ心地よささえ感じていた。
そのことを思い出すと、再び頬が熱を持っていく。
「あ、赤くなった」
「……うるさい」
「また、会えるといいね」
「…………うん」
明日も食事会なのだろうか。細身の二人がそんなに食べれるとは思えないし、無理はしないようにしてほしい。
身分不相応な心配かもしれないが、これこそ、思うのは自由だと言い張りたい。
「そういや選出の儀の話、仕入れてきたよ」
今日は店番があったから広場には行けなかったらしい。そろそろ参加しようという女性が衣装を求め、サリーの両親が営んでいる服屋は掻き入れ時だ。
「まだ二日目でしょ? 昨日は料理人ばかりって言ってたけど」
「それがお貴族様が出てきたらしいんだよね。まだ様子見って感じらしいけど、すんごいドレスの派手派手女がわんさと居たらしいよ。
そして今日もきちんと食べる大鷲の君! さすがだわぁ、美食の申し子だね」
うんうんと頷くサリー。しかしミリーナはどうしてもそれに感心はできない。
(たくさん食べればいいってもんじゃないと思うんだけどな……)
しかしこの意見は国内においてごく少数意見だというのは自覚しているので、心の中に留めておく。
「こんばんは、ミーナちゃん。夜の献立いいかい?」
外は夕闇に染まり、常連客がちらほらと現れたのでミリーナは仕事に戻った。
「おい、アルフ」
静かな音を立てて走る馬車の中。
高級だが華美ではない、落ち着いた雰囲気の車内には二人の青年が居た。
ふかふかの椅子に座ったカインは、正面で窓枠に肘をついて座るアルフリッドに声をかけた。
夜の食事会の帰り道で、外はすっかり深夜の様相だ。
「なんだ?」
そんな何も見えない外を眺めていたアルフリッドは、どこかぼんやりとしていた。
「食いすぎたか?」
「まさか。前から調整はしてきたからあれくらいはなんてことない」
「んじゃ、どうしたんだよ? さっきからずっとぼーっとして」
「……あんな食べ方して、何の価値があるんだろうな」
その言葉に、先程の伯爵邸での食事会を思い出す。
一昨日に成人の儀のを迎えた青年が幾人も招かれ、広い部屋に置かれたいくつものテーブルには料理が山と積んであった。
酒を飲みつつ食べ、会話を楽しみつつ食べ、口論しつつも食べる。終いには口論の決着も食事でつけるとまで言い出す始末。
そしてそれを囃し立てる者は居ても止める者は居ない。
「まぁ、自分を誇示したいんだろ。オレもまた絡まれたしなぁ」
整った見た目と目立つ赤髪だからか、カインはよく同年代に絡まれる。貴族として暴力に訴えることは出来ない為、何故か食事で勝負を挑まれてしまうのだ。
「断らないからだ」
「だって、断ったら男が廃るだろ?」
断るということは勝つ自信がないということ。断れるはずが無い。
「それでも……あまり無茶はしないでくれ」
視線は窓に向けたまま、眉を寄せつつ呟く。その辛そうな表情の理由を理解しているカインは、軽く返事をするしか出来なかった。
「分かってるって。で、その思いつめた顔の理由はあれか、恋わずらいか」
「なっ……なんでそうなるっ!」
「え? なんとなく」
「……そんなんじゃない」
「ほんとにー?」
「…………本当だ」
「ハイハイ、了解」
むすっとした表情が追加されたが、それでも悩みが分散されたのはカインにとっていいことだった。
「んなに気にしなくていいのにな」
「何か言ったか?」
小声で呟いたからか、アルフリッドの耳には届かなかったらしい。
「いやー? 明日はどんな料理が出てくるのかなって」
「食ったばっかりだろ? 今日と同じようなものだろうに、そんなに楽しみか?」
「ミリーナ嬢んとこの話だよ」
「……それは俺も楽しみだ」
そこんとこは素直だなと笑うと、馬車は二人が寝泊りしている屋敷に着いたようだ。
「んじゃ、明日も頑張るか」
こつんと拳をぶつけ、それぞれの部屋に戻った。
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