問⑨【苦い思い出の話】

 公園で僕たちは並んでブランコに揺られていた。

 夕暮れが迫り、蝉が鳴いている。


 今日はずっと彼女の様子が変だった。

 だから人けのない静かな公園に彼女を誘ってみたのだ。


「関川君って、どんな子供だったの?」

「どんなって、まぁ、よく覚えてないかな。リア充ではなかったけど」


 ハハハ、と笑う。まぁそれだけは断言できる。

 明るくてかわいい彼女とは真逆の子供時代だったと思う。


「わたしはね、昔の自分が好きじゃないんだよね、今も思い出すとつらくなる」

「僕も昔にはいい思い出はないけどね」


「今でも関川君に話せないコト、話したくないコトあるんだよね」


 なんか思い詰めた様子でそんなことを話してくる。

 でも彼女、けっこう小さいことでも悩む癖がある。

 なんだそんなことか、というようなことでも。


「僕は今のキミが好きだよ。キミといられて幸せだと思ってる」


「でも、本当のわたしは関川君が思ってるような人じゃないかも」


 そう言って彼女はそっとため息をついた。


「ねぇ、関川君はわたしの昔の話を聞きたい? 聞きたくない?」


 僕には彼女が抱えていたキズが見えていなかった。

 いや、今が幸せすぎて、見ようとしなかったのかもしれない。


 でもそれでいいと思う自分がいる。

 過去はもう流れ過ぎたものだから。

 

 僕は迷っていた……それでもどちらかを選ばなければならなかった。  


 ※ここまで




-----------------------------------------------------------------



「聞くよ…!

 過去は過ぎた事で…今が良ければ…とも思う…。

 だけど…過去を知らないままだと…。

 本当のキミを…知らないままになるかもしれない…。

 ボクは…キミの全てを知りたいんだ!」

 そう切り出したボクに…。



「嬉しい…!」

 と、彼女は、涙ながらに、喜んだ!



「じゃあ、言うね。

 私…昔は…『腐女子』だったんだ…。


 アダム君とアダム君の…。

 『あんな事』や『そんな事』…。


 ううん!

 もう『アレ過ぎる事』や『ソゲ過ぎる事』まで…。

 いつも…『妄想』してた…。」



「え…?」

 固まるボク…。




「でも…それじゃダメって気付いたの!

 『その程度』の『妄想』じゃダメだって…!

 『ただの腐女子』じゃダメだって…気付いたの!」



「ええぇ…?」

 更に固まるボク…。



「だから…私…!

 『腐女子』を超えた…! 『貴腐人きふじん』になったの…!

 もう…『マンガ』や『ゲーム』や『アニメ』とかの…。

 アダム君とアダム君しかダメな…小さな私じゃなくて…!

 『関川くん』という…『身近』な『人』でも…。

 『アゲ過ぎる事』や『ソゲ過ぎる事』を『妄想』して…。

 『アレ』な『アッチ』の『ヘブン』に…!

 いつでも『GO!』できる様に修行を積んだの…!」



「ええぇぇぇーーーーッ⁉」

 驚きの声しか出ないボクを尻目に…。



「今でも…もう…!

 『関川くん』で『アゲ』な『ワールド』を!

 『リバースカード……オープン!』するだけで!

 そこら辺の『アレ』な『ムサい』、

 炉端ろばたの『オジサン』たちと見比べるだけで!

 それらの『オジサン』と『関川くん』の『ホットモット』な!

 『アレ』で『ソゲ』な『ヘブン』が見えて…!」

 と、彼女の鼻腔びこうから3倍の赤い奴がき出してくる…!



「え…⁉ え…⁉ えぇぇぇぇぇーーー…ッ⁉」

 最早もはや…ただの『腐女子』という枠では収まりきらないらしい、

 『ワンランク上』の『アレ』で『ソゲ』な女性の、

 『貴腐人きふじん』になったと宣言する彼女は!

 本当に…通常の『腐女子』の3倍はヤバそうな程!

 通常の3倍以上の赤い奴をスプラッシュしくすように噴射ふんしゃする…!



「ゴメンね…。

 今まで…ただの『腐女子』で…。

 『半端はんぱ』に『関川くん』で『アッチ』に行って…。

 でも…もう大丈夫…! もう…今の私は……ッ‼」

 もう何処どこまで『イク』のかも分からない彼女…ッ⁉



 うん…。

 これは……別れよう…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る