問④【特別な日のかわし方とは?】

 今日は彼女との久しぶりのデートの日だった。


 待ち合わせは駅の中央改札にある時計塔の下。

 いつも人がたくさんだけど、ここなら間違うことはない。


 彼女との約束の時間は午前十一時。今はその十五分前。 

 これから一緒に早めにランチして、近場の水族館に行くデートプランを立ててある。


 ほどなくして彼女がやってきた。

 

 いつもはジーンズ基本のラフな格好がほとんどなのだが、今日は春らしい色のワンピース。

 普段は口紅ぐらいしかつけないのに、今日はメイクもバッチリしている。


 か、かわいい……


 あんまり見つめ過ぎていたのだろう。

 彼女はちょっと赤くなる。


「あ。やっぱり気付いちゃいました?」


 え? 何に? 何も気づかなかったけど?


「……今日は関川サンとの特別な日ですからね、気合い入れちゃった!」


 ……今日ってなんか特別な日だっけ?

 ……なんだろう? さっぱり分からない。


 正直に言うべだろうか?

 それとも会話しつつ探るべきか?


 僕にゆっくりと考える時間はなかった……





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「え…え~っと…ゴメン! 何の日だっけ?」

 ボクは、正直に彼女に聞く事にした。



 すると、

「ふっふっふ。今日は、5月20日。

 毎月20日の、とおといな、

 関川さんと、後輩君の、とおといのって、

 私、今日、決めたんです!」

 と、謎ワードを羅列られつさせる…ッ⁉



「え…? え…? え…?」

 全く意味の分からないボクに…。



「ふっふっふ。良いんですよ? 知らないフリを続けても?

 でも、関川さんの、後輩君への熱い想い!

 私には、全部、お見通しなのです!」

 と、えっへん!と、まくし立てて来る彼女…。



「あ…いや…あの…

 全然状況が…分からないん…だけど…?」

 と、しどろもどろのボクに。



「ふっふっふ。

 もう関川さんったら、ホント、とうといんだから!」

 と、なおも謎発言の彼女…。



「いや…だから…あのね…?」

 全く進展しない謎状況なぞじょうきょうに困惑するボクに…。



「私、分かったんです。

 関川さんが、初めて、後輩君を、私に紹介してくれた時に!」

 と、急に大きな声で宣言し出す…⁉



「え…あの…分かったって…何が…?」

 と、聞き返すのが精いっぱいのボク…。



 そこに…、

「関川さんの、後輩君を紹介する時の、

 楽しそうな声! 楽しそうな顔!


 そして、気付いたんです!

 私と付き合うのは、世間の人たちへの配慮で、

 親御さんとか、周りの皆さんに、

 『ボクには付き合ってる彼女が居る』アピールなだけで、

 ホントの本命は、後輩君だって事に…ッ‼」

 と、鼻息も荒く、彼女がまくし立てる…ッ⁉



「ハァーーーッ⁉」

 と、驚くしかできないボク…。



「だから、その関川さんの、その、

 後輩君へのピュアな想いを受けて、

 『ああ…何てとうといの…ッ⁉』って、私、感動したんです…ッ!」

 と、さらまくし立てる彼女…。



「いや…だから…あのね…?」

 と、何とか、彼女ワールドを止めようと、

 割って入ろうとするボクを余所よそに…。



「だから…私…決めたんです!

 毎月20日は、いちからとおまで愛し合う、

 関川さんと後輩君がといになる、

 とおといの日…。

 とうといの日にしようって!


 だから、二人のとうとさを保つために、

 これから、毎月この日は、私、

 バッチリ、かわいい服着て、

 バッチリ、メイクして、

 関川さんがとうとさを保つための、

 『ボクには付き合ってる彼女が居る』アピールを、

 存分にできる様にするので、


 関川さんは、これからも、

 どんどん、後輩君と、『とうとい』を貫いて下さい…ッ‼


 そして…!

 後輩君と、あんな事や! そんな事や!

 あ…『アレ』な事までしちゃったりして…ッ‼


 私の心を満たして下さい…ッ‼


 ああ…ヤバイ…ッ‼

 ヤバ過ぎ…デンジャラス…ッ‼


 二人の未来を想像しただけで…、

 二人のとうといが…、

 あ…『アゲ』な事まで行く姿が…、

 目…目に浮かんで…ッ⁉


 アァァァァァァァァーーーッッ…⁉」

 と…彼女の鼻腔びこうから、

 通常の三倍以上の勢いで、

 赤い本流がボクの顔面目掛けてき付つけた…ッ⁉



「ちょ…ッ⁉」

 身じろぎもできず、真正面から本流を受けたボクに…。



「アアァ…‼ アアァ…ッ‼

 とうといの日から生まれる、

 関川さんと後輩君の『とうとい』…‼

 げきヤバぎィィィィィィィィィィィィーーーッ‼」

 と、謎の咆哮ほうこうを上げる彼女…。



「あ~…。あ~…。アハハハハハ~…。」

 もう、乾いた笑いしか出ないボク…。



 うん…。別れよう…。

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