問②【料理の腕前】

 今日は週に一度、彼女が家に遊びに来る日だ。

 ボクはわくわくしながら彼女を待っている。


 呼び鈴が鳴ってドアを開けると、そこには愛しの彼女が立っていた。

 両腕にはいっぱい食材が入ったレジ袋を提げている。


「お待たせ! 今日は関川君に美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね!」


 満面の笑みでそう言いながら部屋に入って来る。


 しかし、ボクの笑顔はひきつっていた。

 何故なら、彼女は絶望的に料理が下手だったのだ。


 部屋に上がるなり早々と台所へ向かう彼女。

 このままではきっと絶望的な料理の数々が出来上がってしまう。


「腕によりをかけて作るからね! 期待して待っててね!」


 台所から聞こえてくる彼女の張り切った声。

 こんなにもボクを思ってくれる彼女の手料理。

 それは分かっている。頭では分かっているのだ。

 体が、味覚がついてこないのだ!


 彼女に料理を作らせるべきか否か。

 突き付けられた難しい二択。


 ボクは彼女を阻止すべきなんだろうか?

 男らしくガッツリ食べるべきだろうか?


 自問自答しながら台所へと向かう僕の足取りは重かった……





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「ハイ! たっぷり食べてね!」

 そう言って、彼女がテーブルに持って来たモノは…。

 最早、料理という形容する事すら困難な程…。


 形容しがたい物体になっており…。

 しかも…。何種類もの…その形容しがたい物体が…。

 テーブルに…。これでもかと…置かれていた。



 怖い…。

 逃げたい…。


 こんな数の…。

 こんな凄いモノ…。

 ボクが相手にできるワケが…⁉


 だけど…。

 だけど……!


 これらは、彼女の愛が作ったモノたちなんだ…!



 逃げちゃダメだ…。

 逃げちゃダメだ……!

 逃げちゃダメだ……ッ!



「うん! いっぱい食べるよ…ッ!」

 ボクは…逃げない事を選択した…ッ!


 それが…彼女の…。

 ボクの為に手料理を振る舞ってくれる…。

 彼女への愛の証になるなら…!


 こんな身体の一つや二つ…ッ!

 くれてやる…ッ!



「――関川は――

 2度と現実世界へは戻れなかった…。

 生と死の中間の生命体となり…。

 永遠に夢想空間むそうくうかんをさまようのだ…。

 そして死にたいと思っても死ねないので…。

 ――そのうち関川は考えるのをやめた……。」

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