アメリカ
3日ロイター通信によれば、トランプ氏は来年1月20日の大統領就任に合わせて25以上の大統領令を発表するという。強行的な移民政策やパリ協定からの再離脱、関税引き上げなど、氏がメディアで声高に主張してきたマニフェストの靴音が聞こえ始めた。
世界も騒がしくなり始めている。大統領就任式へのラブコールを送られた習近平氏は、露骨な対中姿勢ふたたびと傾く米国への牽制として欠席表明。不敵に笑うプーチン氏は「停戦交渉はウクライナ側から拒否された」と布石を打ち、停戦のテーブルに座らされる前の大規模侵攻をにおわせている。
20年来の夢であったニューヨークからちょうど1年になる。そこは今まで見てきたどの街よりも混沌の匂いが濃かった。
マンハッタンに垂れ込める雲を押し上るようにそびえ立つロックフェラータワーの麓には、布にくるまった男たちがスタバの紙コップを前にうずくまり、ティファニーやカルティエの金色のドアの外ではホームレスが今日の軒先を探してショッピングカートを押していた。
ファイブアベニュー53番駅から北に5分のところにトランプタワーが居座っている。積み上がったガラスの塔に入ると、金色のエスカレーターが観光客をお出迎えする。彼らに混じって次第に小さくなっていくロビーを歩く人々にスマートフォンを向けながら、かつて見たモスクワや北京の景色と重ねた。
あり余る富の色は、品がないという一言で片付ける以前に、不思議な魔力を持っている。観光客の顔には外でトランプ氏の名を口にするような不愉快さはなく、きらめく内装に感嘆の声をあげている。
どうしてもニューヨークを描きたかった理由は、この世界を覆う根源を自分なりの言葉に落としてみたかったからだ。『ノンストップアクション』シリーズを通じてヨーロッパやアジアを背景に構えたレンズの先に映るものを描いてきた。しかし生産も消費もすべてニューヨークがロールモデルであり、これだけ文明が発達した今日でさえ、勝利とは人を押しつぶしてでも突き進む腕力をいうのかとうなだれてしまう。
シリーズでは一人称を「俺」として綴ってきたが、20年の老いや成長を「私」という言葉に込めて7篇を追加した。やや固い内容になったが、その成長を描けたと自負している。
それから1年、ニューヨークでの予感が現実になろうとしている。
なぜトランプ氏が選ばれたのかについては報道に譲るとして、我々が知っているアメリカとは東と西の一部であることを言っておきたい。アメリカの90%強を占めるのはコーンベルトやグレートプレーンズと呼ばれる広漠な保守的地域であり、いまだに移民やLGBTを標的とした団体など世界大戦以前からの景色や思想が根強い。
それが悪とか善という話ではない。西海岸のGAFAやニューカルチャーの発信源として君臨するニューヨークは星条旗から露出した顔の一部に過ぎない。今回の選挙結果を見ても、アメリカの本体とは第一次産業を中心とした超保守的地域であることははっきり浮かんでいる。そこを理解しなければ、なぜあれだけ個人思想の強烈な人物が当選できるのか理解できないだろう。それこそがアメリカ世論の本体であり、ごく平均的なアメリカ人なのである。
帰国後に書き上げた最終章に改めて編集を加えたものを23日からアップしていく。目に写ったニューヨーカーの気質や貧富、同士多発テロのその後など様々なアングルで語ってみた。
マンハッタンのクリスマスツリーやタイムズスクエアの喧騒を一緒に楽しんでいただけたらと思う。
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