SNS 芸人へのアンチテーゼ

 そもそもSNSに忙しい友人を”喰いもんの写真なんぞをアップしてキャッキャ騒いでいる連中”ぐらいにしか評価していなかった。

 「…でもですね、このご時世そういうツールを活用しないのはもったいないですよ。SNSを通じて営業が入ったりすることもありますし」という後輩芸人の言葉に欲が出た。そんな周囲のススメもあって、Facebookにアカウントを作ったのが4年前。同時にTwitterやInstagramにも登録し、マジシャンとして配る名刺もアカウント名入りのものに差し替えた。


 たしかに後輩の言うとおり、SNS経由での依頼が増えた。「実は知り合いが神楽坂でバーをやっていまして、」「学校理事を務めさせていただいておりますが、」などありがたいご縁を頂けるようになった。

 ショーの前後で名刺を配れなかったり、そもそも名刺配りが禁止されていても(※結構こういう現場は多い)、ステージで丁寧に名乗っておけば、SNSをたどったお客様から「家に帰っても子どもたちが興奮してました!」と心温まるメッセージを頂ける。

 また、機会があればお会いしたかったマジシャンや海外のレジェンドへ気軽に友達申請できるのもSNSの良いところだ。お送りしたメッセージに、丁寧なお礼を添えてお返事いただけると思わず拝みたくなる。



 しかしFacebookは辞めた。Twitterでもマジシャンや大道芸人とのお付き合いは限定させていただいている。率直に言えば見るに堪えないものが多すぎるからで、私が求めてきた”あこがれ”から余りにも程遠い実体に辛くなってしまったからである。


 過剰な宣伝やタグの貼り合いなど、いかにも”欲しくてたまらない”感を見ているのもイヤだ。見栄を張るつもりはないが、何でもいいから仕事が欲しいわけではない。

 言うまでもなく、今時SNSを無視したマーケティングなどあり得ないし、芸人という狭い世界は相互依存で成り立っている部分も多い。しかしブランディングもなく、”前に出れるならドブ掃除でも何でもやります”という勢力に少々うんざりしている。


 それよりも私を傷つけたのは、”人に見られている”という自覚のない先輩方だ。他の芸人や世間への批判にはじまり、若手へのマウント、過去の自慢といった投稿を目にするたびに、”オレのあこがれとはこの程度だったのか”と愕然とする。

 SNSとの付き合い方なら圧倒的に若手だ。他方、時代を作ってきた先輩方にはリテラシーがないばかりか、マナーを教えてくれる先輩うえもいない。SNSを”オレの目はまだ白くなっちゃいねぇ”と発表する場と履き違えており、己の射精感に酔いしれているのがいくらもいる。

 あなた方の活躍にあこがれてこの世界に入って来た後輩のためにも、そしてそんなあなたを支えてきたお客様のためにも、まずはSNSでのふるまいも含めて舞台上なのだという意識をもってもらいたい。

 SNS上での”くだまき”などもっての外だが、短パンでくつろいだ姿なども安易に晒すべきではない。次のショーに向けて稽古している姿ならいざ知らず、言うに事欠いてか、大きなチャーシューを載せたラーメンと一緒にピースをしている写真ばかりになっていることについて、一度立ち止まって真剣に恥じてほしい。このあたりの基本操作も分からないのなら、SNSから一度撤退したほうがいい。




 日常や裏側をさらすことが求められている。”必ず会える”アイドルグループにはじまり、お笑い番組でさえ舞台袖の緊張感を映すことで、茶の間に臨場感を提供しようとしている。

 だが芸人はそこではない。舞台上でのパフォーマンスが正味であり、裏側で変人的な努力をしていることまで見せて評価を受けるものではない。ましてや生活臭や政治思想などを露出させ、”皆さまと何ら変わりませんよ”と構えることがあるべき姿ではないはずだ。

 もちろん時代がそういう気さくさを求めているのは理解している。ただ、”あこがれ”はそうした中からは生まれない。昭和生まれのテレビ感覚からすれば、あこがれとは”なんかこの人毎日楽しいだろうなぁ”というふんわりしたもので、いい車に乗り、高級クラブで豪遊している写真を並べられて証明されたとしても、今も昔もゴシップからは悪臭しかしないものだ。

 

 一言だけ世間に対してチクリと言わせてもらえば、”良いものを良いまま”では味気ないと感じる味覚障害にこそ本質的な問題である。作者のビジュアルがどうとか、役者や芸人にキャパシティー以上のものを求めるメディアもよくない。

 おっと、これ以上は”くだまき先輩”と変わらない。次の酒の席にでも取っておこう…。

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