暴走少女は止まらない


「お母さん、お母さん!」


「あら、おかえりなさい。魔獣狩りは終わったの?」


「あ、うん。カズトさんがすぐに倒しちゃったから、今お父さん達が死体を運んできてるよ。って、そうじゃないんだよ!」


 アスナは机をバンと叩く。


「女の子が大きな声を出さないの。で、どうしたの?何かあったの?」


「あのね、カズトさんがね、私と家族になってもいいかなって言ってくれたの!これって、そういう事だよね!」


「そう、アスナと家族にねえ……え⁉︎家族⁉︎昨日の今日で⁉︎」


 アマーリエは持っていたティーカップを落としそうになった。


「うん!昨日の今日で!」


 アスナが嬉しそうにVサインをする。


「……えっと、どんな状況でそうなったの?」


「二人で村へ帰ってる途中でね、そういう話になったの。私が家族になりたいって言ったら、それもいいかなって言ってくれたの!」


「………」


 アマーリエは気付いた、これはアスナの暴走だと。


 おそらくカズトが言いたかったのは、【私達】と家族になるという事だろう。


 それをアスナは勘違いして暴走しているのだ。


「お母さん、急に黙ってどうしたの?」


「い、いえ、なんでもないわ」


 この事態をどうするべきか悩んでいると、アマーリエに天啓が舞い降りた。


 この勘違いを正すより、現実に出来るように協力する方が得策だと。


 それなら大人しい年頃の女の子になってくれるかもしれない。


 そうだ、これでいこう。


「ねえ、アスナ。カズトさんと家族になりたいなら、もっとお淑やかにならないとね」


「お淑やか?」


「物静かで上品て事よ」


「それってお母さんみたいな?」


「あら、嬉しい事言ってくれるわね。でもね、お母さんはそんなにお淑やかじゃないのよ。亡くなったお婆ちゃんに、お淑やかにしろってよく言われたわ。あの人と結婚してからは諦めたみたいだったけどね」


「じゃあさ、どうすればお淑やかになれるの?」


「そうねえ……あ、雑貨屋のクレアを参考にしてみたら?あの子はお婆ちゃんみたいなお淑やかな人だからね。良いお手本になると思うわ」


「あー、確かに物腰が柔らかいもんね」


「クレアを見ていれば、お淑やかな女性がどんなものか分かると思うわよ」


「ふむふむ、なるほど。じゃあ、早速話を聞きに行って来るよ!カズトさんが帰ってくるまでには戻ってくるから!もし帰ってこなかったら迎えに来てね!行って来まーす!」


 そう一気にまくしたてると、アスナは家を飛び出して行った。


「あ、ちょっと!行っちゃった……はぁ……話を聞かない所は誰に似たんだか……まったく、お淑やかになる道は遠いわね」


 家を飛び出したアスナの背を見つめ、アマーリエは頬に手を当て溜め息を吐いた。

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