魔獣狩り ③


「よいしょっと、おっと」


 座っていたケネディが立ち上がるが、まだ少しふらついている。


「もう大丈夫なの?」


 まだダメージが残ってるみたいだな。まあ、手加減して打ち込んだからすぐ回復するだろう。もし本気で打ち込んでたら丸一日は意識は戻らなかっただろうな。


「ああ、もう大丈夫だ。迷惑かけたな」


「ほんとだよ。村長がやめとけって言ってるのに無茶して……後先考えない性格、いい加減治しなよ」


「分かった、悪かったって。反省してるから説教は勘弁してくれ」


「よし!ケネディも回復したようだし、これから森に入る。広範囲を捜索する為に、二組に別れるぞ」


「二組?組み合わせは?」


「俺、ケネディ、レーガン、ヨセフと、カズトとアスナだ。


 俺とアスナがペアか。父親として当然の判断だ。俺なら絶対守れるからな。


「村長、その組み合わせはおかしい。二組に別れるなら、三人一組になるべきだ」


 レーガンがアーロンの決定に異を唱えた。


「そうですよ。アスナさんもいるのに、二人で行動するのは危険です」


 ヨセフもレーガンに続く。


「俺は村長の組み合わせに賛成だ。俺達がいてもカズトの邪魔になる。そういう事だろ?」


 ケネディはこの組み合わせの意図に気づいたようだ。


「そうだ。カズトにはアスナを守ってほしいからな。俺達みたいな足手纏いはいない方がいいだろう。だからカズト、アスナを頼んだぞ」


「了解」


「カズトさん、よろしくね!」


「魔獣を見つけたらこの笛を吹け。音を辿って合流するからそれまで持ち堪えてくれ。ただし、絶対に無理はするなよ。もし命の危険を感じたら、一目散に逃げろ。分かったな?」


「ああ、分かった」


「よし!では、行くぞ!」


 アーロンの掛け声で、俺達は二手に別れて森に入った。


「ねえ、カズトさん」


「ん?」


「さっきケネディに何をしたの?速すぎてよく見えなかったの」


「あれは鳩尾みぞおち、ここと、レバー、ここを殴って、下りてきた顎の先端を攻撃したんだ。そうすると脳が揺さぶられて、ああやって気絶したり立ち上がれなくなったりするんだ」


「こことここを殴るとそんな効果が……私にも出来るかな?」


 アスナは興味津々といった様子で、自分の鳩尾とレバーを押さえている。


「そんなに難しい技術じゃないから、アスナなら少し特訓すればすぐに出来るようになるさ。村に帰ったら教えてあげるよ」


「ホント⁉︎やったー!」


 満面の笑みを浮かべたアスナが抱きついてきた。


「アスナは本当に可愛いな。こんな可愛い娘がいて、アマーリエさんみたいな美人の奥さんもいて、アーロンが羨ましいよ」


「可愛いって……そういえば、カズトさん、奥さんも恋人もいないって言ってたっけ」


「ああ、彼女すらできた事ないよ。まあ、そのうち良い出会いがあるさ……多分」


「……あ、あのさ……年下は恋愛対象になる?」


「うーん、特に気にしないかな。好きになった人が年上でも年下でも、全力で愛するだけさ。って、ちょっとカッコつけすぎかな」


「そっか……じゃあ私にもチャンスがあるんだ……」


「ん?何か言った?」


「ううん!何でもないよ!」


 顔を真っ赤に染めたアスナが大きく頭を振る。


「そ、そんな事より、魔獣ってどんな奴かな?ギルドランクじゃないといいんだけど」


「ギルドランク?」


「あ、カズトさん憶えてないんだね。えっとね、剣士ギルドっていうのがあって、一般の剣士じゃ手に負えない魔獣を狩る専業の剣士が所属していて、凶暴な魔獣は剣士ギルドに依頼を出すようになってるの。その凶暴な魔獣をギルドランクっていうの。あと、狩った魔獣の買い取りもしてくれるよ」


「専業剣士?買い取り?」


「専業剣士っていうのは、商人や農民みたいな片手間で剣士をやってる人と違って、魔獣を狩るのを仕事にしてるから、かなり強いよ。買い取りは、皮や骨とかの素材は武器や防具の素材になるし、魔獣にもよるけど、肉が凄く美味しい奴がいるからそういう魔獣は高値で買い取りしてもらえるんだよ。まあ、自分達で食べたくてギルドに売らない人もいるけどね」


 ふむふむ、なるほどな。


 魔獣を狩って売れば、俺でも稼げるわけか。


「剣士ギルドか……俺も専業剣士になれるかな?」


「え?カズトさん、専業剣士になりたいの?」


「タダ飯食らいは申し訳ないからな、自分の食費は自分で稼がないと」


「お父さんもお母さんもそんな事気にしないよ?」


「それはそうだけどさ。いつまでも好意に甘え続けるのはよくないと思うんだよ」


「カズトさん、記憶喪失なんだから甘えていいんだよ」


「しかしだな……」


「どうしても気になるなら、お父さんとお母さんと話し合って決めればいいと思うよ。私は無理しないでほしいけどね」


「ああ、そうす____」


 ピー。ピー。


 俺達の会話を遮るように、笛の音が鳴り響いた。


「ッ⁉︎笛の音⁉︎どこだ、どっちから鳴った⁉︎」


「こっちの方向だよ!」


「よし!急いで行くぞ!」


 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 _______一方その頃


「なあ、村長」


「何だ?」


「あのカズトって何者なんだ?村長が負けたって言ってたから、何の冗談かと思ってたけど、ガチだったんだな。実際戦ってみて、身を以って味わったよ……」


「だからやめとけって言ったんだ。俺が勝てなかったんだ、未熟者のお前が勝てるわけないんだよ。これに懲りたら、相手との実力差を考えて挑むだな。まあ、二度とカズトには挑まない事だな。お前とカズトじゃ次元が違うからな」


「わかってるよ。あんな醜態をさらしたんだ、二度と挑まないさ……」


「確かに醜態だった。自分から喧嘩を売っておいて、一瞬で倒される。これ以上の醜態はないな」


「言い過ぎだぜ、レーガン……マジで後悔してるから、傷口を抉らないでくれ……」


 ケネディは未だ痛む鳩尾とレバーを押さえて涙目になっている。


「それにしても、ケネディは何をされたんだろう?早すぎて全然見えなかったよ」


「俺もケネディが何をされたのか見えなかった。人間を気絶させる攻撃なんて見た事ないから、後で教えてもらわないとな。少しでもカズトに近づけるように努力しないと。まあ、俺は強くなる方法を聞いたから、いつかカズトに勝てるように頑張るさ」


「はあ⁉︎ずるいぞ村長!そんな方法があるなら、一番弟子の俺にも教えてくれよ!」


「未熟者のお前にはまだ早い。教えて欲しけりゃ、俺から一本とってからにしな」


「ちぇ、それが___」


「ッ⁉︎隠れろ!」


 何かの気配を感じたアーロンがケネディ達を物陰に引っ張り込んだ。


『グルルルル』


「おいおい、マジかよ……アイアンボアじゃないか……しかも三体……村長、これはかなりヤバい状況だぜ……」


 眼前に広がる絶望的な光景に、ケネディは声を震わせるのがやっとだった。


「ああ……俺達が全員で攻撃しても、全滅だろうな。……仕方ない、俺、ケネディ、レーガンで囮になるから、ヨセフ、お前は笛を吹いてカズト達に知らせるんだ。二人とも戦えるな?」


「ああ、命を懸けるぜ!」


「全力で死守する!」


「で、でも村長……相手はギルドランクの魔獣だよ……?このまま逃げないとみんな死んじゃうよ……」


「だからって、俺達が逃げたら村に被害が出るかもしれないだろう!村長として、そんな事は出来ない!笛を吹いたら、お前は逃げろ!」


「村長を置いて逃げるなんて出来ないよ!頼むよ、カズトさん、アスナさん!早く来てください!」


 ピー。ピー。


 ヨセフは、笛を吹き鳴らした。


 早く助けが来るように祈りを込めて。

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